銀行員が新規事業!?③〜ビジコン前編〜
前回、ノーリスクハイリターンのビジコンに挑戦することにしたひげじい。ところが前途は多難なようで・・・
では本編をお楽しみください。
【目次】
0.なぜ、社内ベンチャーを立ち上げようと思ったか?
~このままじゃ終われない~(第1回)
1.銀行で社内ベンチャーを立ち上げるまで
~1-1.蜘蛛の糸~(第2回)
~1-2.針のむしろに正座~(今回)
2.なぜ大企業の社内ベンチャーがイバラの道なのか
~社内政治と見解の相違~
3.行内での新規事業の見方
~不確実。金の無駄遣い。遊んでる~
他にも気づいたことや、皆さんが知りたいことなど反応があれば随時増やしていきたいなと思います。
1.銀行で社内ベンチャーを立ち上げるまで
~1-2.針のむしろに正座~
ビジコンの準備
ビジコンの通達を読込む。概要は以下のとおり。
ピッチとは短時間で要点を突いた説明を行うプレゼンだ。通常、スライド10~15枚程度の分量を、1スライド20秒~1分の説明で、計8分程度に収める。人間が集中して聴けるのは10分間が限度だからだ。
ここから分かることは、1次審査は足切りと調整。2次審査の1チーム持ち時間30分と考えると、1次審査の合格者は5~10チームというところか。
どれぐらいの人が応募するのか分からないが、1次審査からそれなりのものを作らないと足切りになる可能性があるのは注意しなければならない。
そして、まずクリアすべき課題は3つ。
一つ目は、新規事業のテーマ
二つ目は、チームメンバーを誰にするか
三つ目は・・・
あれ、これ業務時間内にできるか…?
一つ目の"新規事業のテーマ"については問題ない。銀行員(法人融資渉外)という仕事柄、色々な業界のことを知っている。社長から色々裏事情まで教えてもらうこともある。
基本的にBtoBの路線でいくことになるだろう。BtoCは銀行の強みを活かしにくい。課題が見つかりそうな業界をいくつか選んで、あとで取引先に細かくヒアリングしにいけば問題はなさそうだ。
二つ目の"チームメンバー"は別の支店で地獄を共に潜り抜けた同期に声をかけた。趣味・嗜好が一致してるので、二つ返事でOKだった。別に1次審査からチームを作ってはいけないというルールはない。協力してやっていく。
三つめが問題だった・・・。支店にはビジコンは何の意味もない。むしろ、時間が取られるだけ支店にはマイナスだ。支店長と部下には説明するが、理解は得られないだろう。
今のパフォーマンスを維持したまま、1次審査の資料を作成する。既定様式を見ると、抜本的な経営改善計画書の作成並みには時間がかかりそうだ。
「というか、これは果たして業務なのか?」
という疑問も芽生えるが、コンプラにうるさいご時世だ。仕方がない。
針のむしろ
新規事業のテーマも決まり、チームメンバーも確保した。提出する様式に落とし込み資料を作成するが、やはり具体性に欠けたり、仮説の論理的整合性が合わなくなってきたり、色々と修正点が出てくる。
そして、取引先に話を聞きに行ったり、同期のチームメンバーと意見交換の電話をしたり、その結果を資料にまとめたり、取られる時間が少しずつ増えていった。
その姿を見ていた支店長から呼び出された。
曰く「支店の士気が下がるからよく考えてくれ。管理職のそんな姿を見たら部下たちがどうなるか分かるだろう」と。
自分的にはパフォーマンスを落とさずうまくやっていたつもりだったが、支店が一丸となってノルマ達成を目指すという点について悪影響を及ぼしていると判断されたようだった。
その頃から感じるようになった・・・チクチクと刺さる視線。支店長室に呼ばれたからなのか。周囲はそんなに気にしてるのか? 気のせいなのかもしれない。ただ、針のむしろに座ってるような不快感。
だんだんと集中できなくなってくる。作業効率も落ちる。イライラしだす。まずい兆候だ。ストレス環境下に晒されて、精神状態が悪化している。
そして、キレた。心の中で机をバン!と叩く。
無理だ。
今のやり方では・・・な。
そして、通販サイトを開いて、翌日届くモバイルノートPCを即購入。10万円。
ノートPCをもって支店長室に乗り込む。
自分の鬼気迫る形相に支店長がギョッとする。
「支店長、新品のパソコン買ってきました。ご迷惑をおかけしないように、これからはこれで自宅で作業します。つきましては、データの移動に関する承認をいただきたいです」
行内外のデータ移動は、ご法度だ。
ただし、支店長や本部の承認を得て、外部とデータのやり取りをするケースもある。そして、今回のデータは何の意味もない1次審査で使い捨てる新規事業案だ。万一、漏洩しても顧客情報は一切入っていない。
基本的には従うが、絶対にダメだと思ったことに関しては相手が誰であろうと曲げることはしない自分の性格。そして、これは支店長から注文してきた内容だ。
それを分かっているのだろう。
やれやれ・・・といった表情だ。
「分かった。ただし、支店の業務が最優先だ。明らかに調子が落ちていると判断したらデータの移動は承認しないからな。そのつもりで励んでくれ」
新たな環境
セルフブラックの旅が始まった。仕事中に思いついたアイデアや取引先の話をメモっておく。できるだけ早めに寝て早朝に起きて、資料を作成する。
同期のチームメンバーとは、夜に電話をしながら資料をまとめたりする。Slackなどは使わない。やり取りの中で変に情報が漏れても困る。スタンドアローンノートPCのローカル環境で1次審査の資料を作成していく。
自由さが心地よい。正直くだらない規則や規範に閉じ込められるのはもう飽き飽きだった。部下からの相談もないので作業がサクサク進む。
そして、1次審査の資料が出来上がった。最終チェックをして提出する。どういう点で審査をされるのか分からないが、ある程度の実現可能性とリアリティ、仮説の確からしさ、論理が破綻してなければ良いだろう。
肩の荷を下ろして日常業務をこなしながら、審査結果のメールを待つ。そして結果のメールが来る。
「このメールを受け取った方は、1次審査に合格となりました。つきましては2次審査の詳細と研修のスケジュールをお知らせしますのでご確認ください」
よし!
流石に大丈夫とは思っていたが、合格通知が来ると安心する。研修はなにをするんだろうか。副業で多少事業経験があるとは言え、素人に毛が生えたようなのは間違いない。無知の知を知るチャンスだ。
そして、応募者数と各テーマも公開されていた。なんと約200個もの応募があった。合格したのはその中の10個。テーマを見ると、社外向けもあるが、むしろ社内向けの改善テーマが多い。半分以上はテーマを見るだけで落選だと分かる。しかし、この数は驚異的なのではないだろうか。やはり組織の力というものは恐ろしいものだ。
ほっと一息付いたところで、部下が何やら神妙な面持ちで近寄ってくる。悪い予感がする。
「ひげじいさん、ちょっと相談よろしいですか」
別室に連れて行き、少しアイスブレイクした後、相談の内容を聞く。
「実は・・・」
(続きます)
次回 2.なぜ大企業の社内ベンチャーがイバラの道なのか
~社内政治と見解の相違~(ビジコン後編) 乞うご期待!!
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