「冴えない彼女の育てかた Fine」感想
公開初日に「冴えない彼女の育てかた Fine」を観てきました。TVシリーズを経ての映画化ということもあり、スタッフの方々への信頼感は十分だったものの、実際に映画を観たらその期待をはるかに上回る出来で素晴らしかったです。
細かな部分にまでフォーカスすればもっと魅力を掘り起こせる作品だとは思うのですが、まだ1回しか観れていないので、その際に感じたことを書いていきたいと思います。
■安芸倫也と加藤恵の気持ちの交わりを丁寧に描写
もともと原作を読んでいる身として最初に不安に感じたのは、完結までの原作のストック量です。アニメ2期の「冴えない彼女の育てかた♭」の終了時点では原作の7巻(+短編エピソードをまとめたFD1冊、ヒロイン目線で描いたGirls Side1冊)のエピソードまでで、そこから完結となる13巻までの8冊分(本編6冊+Girls Side2冊)が大まかに言うとアニメで描かれていませんでした。
これを長くても2時間ほどの映画に落とし込む上で、原作のどの要素を残していくかが大事だと思いますが、物語の筋道として必要な部分を除けば、かなりの割合を安芸倫也と加藤恵のやり取りに割いていたのは素直によかったと思える部分でした。
特に恵の魅力はTVシリーズではまだその一端しか見せておらず、後半にいくにつれて、恵のフラットではない部分をたくさん見れるようになります。そこをお互いの距離感が縮まる様子として捉えさせつつ、恵の魅力をいろんなカットで大切に表現していたのが素晴らしかったです。特に自分の部屋での振る舞いや駅での手を繋ぐシーンは気合の入れようが凄まじくて、原作を読んでいるときと同様にドキドキさせられました。
■時間の流れにあえて逆らったGSへの視点切り替え
もう一つ、物語の流れを追っていく上で、実は原作において補完的な役割を果たしていたGirls Side内に重要なエピソードが多いことは気にしていました。ただ本筋を追うだけでは恵はもちろん、澤村・スペンサー・英梨々や霞ヶ丘詩羽、そしてblessing softwareのサークルメンバーも含めた各々の立ち位置や気持ちにフォーカスするのは難しいだろうと。
結果的にはエピソードの取捨選択などによって各々の見せ場はあったのですが、どうしても複数人を描写しなければならない終盤の山場では、いくつかヒロインたちにカメラが切り替わる場面があります。
一方のシーンを一旦区切るようなかたちで時間が巻き戻ることにもなるので、もしかするとその前後関係を掴みづらい部分はあるかもしれませんが、それを補って、ヒロインたちがどのように感じていたのかが感じられるようになっています。ある意味でこれもギャルゲー的な見せ方にも通ずるところがあるのかなとも思いました。
そして何より、サークルメンバーに倫也との関係性を聞かれる場面での恵の言葉は、これまで”加藤恵”という普通の女の子を追い続けてきた我々自身へのご褒美でもあります。倫也と過ごした時間が生み出したその言葉は、ぜひ注目してもらいたいポイントの一つです。
また、このカメラの切り替わりは英梨々と詩羽の関係性を見る上でもとても大事な役割を果たします。倫也に思いを寄せる彼女たちならではの葛藤と決断も、胸を打たれるものがありました。
■映画化を一つの舞台装置にしたメタ的な遊び
最後に、本編以外でも遊びのある作品だったことに触れておきます。劇場での鑑賞ということで普段は気をつけるのですが、それでも思わず声を出して笑ってしまう、そんな仕掛けの数々が遊び心に溢れていました。
思えば、冒頭のやり取りから劇場版までたどり着いた作品に対するメタ的な発言がいくつかありましたが、そこには原作上での会話のテイストが確かに存在し、そうした軽妙なやり取りも魅力の一つだなと再確認しました。本筋がラブコメなので忘れがちなのですが、特徴的なキャラクター同士の会話劇も冴えカノらしさなんですよね。
それと、いろんな方が仰っていますが、これから見る方は、エンドロールの時点では席を立たないことをオススメします。あれを観ないのは本当にもったいない。冴えカノが好きなら絶対楽しめます。
■冴えカノファンのために作られた劇場版
私も随分と長い間冴えカノを楽しんできましたが、改めて劇場版がここまで素晴らしい作りになるとは思っていませんでした。原作を読んでいれば絶対に欠かせないシーンは網羅されていましたし、その上で劇場版ならではのシーンも盛り込むなど、シナリオとしても十分に面白かったです。
その上で、キャラクターの魅力を増幅させるようなこだわりのカット、そうしたキャラクターを引き立たせる背景描写など、劇場版だからこそのクオリティを感じさせる部分も多々ありました。その点も注目いただきつつ、ぜひ映画館に足を運んで、加藤恵がメインヒロインたる姿を堪能してください。
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