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河野太郎氏のNATO発言をめぐる報道ぶり(産経新聞)が流石に気の毒な件

私は基本的に、ヨーロッパのことばかり考えているオタクですので、日本政治関連について発言することはほぼないのですが、
昨夜の産経新聞の河野太郎氏の北大西洋条約機構(NATO)関連発言は、「さすがにこのまとめでは、ご本人に気の毒では・・・
もう少し発言を正確に引用して差し上げないと」
という念を禁じ得ませんでした。

総裁選云々には関係なく、NATO関係の発言を誰がどのように行ったのかということは非常に大切なことですから、ここで事実関係を整理しておきたく思いました。

問題の産経新聞報道では以下のように書かれています。

非常に短い記事なので、そのまま引用しておきます。

「自民党の河野太郎デジタル相は8日、動画投稿サイト「ユーチューブ」で、北大西洋条約機構(NATO)への日本の加盟に関し「将来、そういう選択肢があってもいい」と述べた。首相に就任した場合、NATOの連絡事務所を東京に誘致する考えも示した。

加盟を検討する理由については「地球規模で力による現状変更を防ぐ必要がある」と語った」

また、この記事を紹介するXポストも以下のようになっています。

この記事や紹介ポストだけを素直に読むと、
・ 河野氏はそのままの(組織改編なしの)NATOに加盟することを検討している
・ 首相になったら東京にNATO事務所を置く
・ 「地球規模で力による現状変更を防ぐ必要がある」というのが加盟検討理由

・・・と、読む人が理解してしまっても仕方がないのではないでしょうか。

「外相経験者である河野氏が、本当にこんな発言をなさったのだろうか?」と疑問に思った私は、実際の河野氏の発言をYoutubeで確認してみました。
これは、9月8日に配信された「【河野太郎のLIVE配信】たろうとかたろう」での発言内容です。

39:40~近辺から国際安全保障の話になるのですが(ちなみに、ウクライナ支援関連についてもじっくり語っておられました)、
視聴者(?)からの「日本がNATOに加盟することはあり得ますか?」という質問に関し、以下のように語っていました。

・ NATOって「北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organisation)」だから、(仮に日本が入るなら)「North Atlantic and Pacific Organisation (つまり、北大西洋・太平洋条約機構)」になってしまいますよね、という前提をまず明確に置いた上で、

・ (仮にそういった「北大西洋・太平洋条約機構」なるものが、将来的に誕生するのであれば)「私はそういう選択肢があってもいいんだと思います」

・ (さらに、仮にそういった「北大西洋・太平洋条約機構」なるものが出来るのなら)日本と韓国とオーストラリアなんていう国が一緒に入って、「地球規模的に、この力による現状変更を防ぐみたいなことを考える必要があると思います」

・ 「NATOとは(現状では)パートナーみたいな関係にあって、本当は東京にNATOのオフィスを作ろうと言っていたんですが、フランスのマクロン大統領が反対して、これ出来なかったんで、河野太郎政権になったらフランスと直談判して、やっぱりNATOの組織を持ってこないといかんという風に思わないと」

つまり、河野氏は

・ 北大西洋諸国を加盟国として想定しているNATOに「今すぐ」入ると言っているのではなく、
・ 仮にNATOが改編されて、北大西洋・太平洋条約機構のようなものになるのならば、参加も選択肢の一つ
・ そして日本の加盟問題とは全く別に・・・つまり日本がNATOに入ろうが入るまいが・・・パートナーであるNATOの事務所は必要だと思うから、河野政権になったら、反対しているフランスと話をする

と主張しておられることに注意が必要だと思います。
組織改編があるのであれば・・・という前提条件がついているのとそうでないのとでは、この話が伝えるニュアンスは随分違いますね。

河野氏はあくまで、インド太平洋の国が加盟可能となるレベルでNATOの組織改編が実現することがあるんだとしたら、そのときには加盟も選択肢に入るのでは・・・という趣旨のことを仰っているに過ぎないので、
この産経新聞の記事を巡って続々と付けられている
「NATOに日本は入れないことを、河野大臣は知らないのか?」
という批判は、産経新聞の記事があまりに河野氏の発言を省略しすぎたことから派生したと思われる、やや見当違いな批判です。
大変に不幸な事例だと思います。

個人的には、NATO東京事務所を潰したのは、フランス以上に中国の影響が強いのではないか・・・と思っていますが、

その点はともあれ、NATO関係の発言を日本の政治家が行った場合、メディアによる伝言ゲームで発言内容がどんどん歪められていく・・・ということだけは避けていただきたい、そのためにはメディア各社には政治家の発言はどなたのものであれ、正確に引用していただきたい・・・とヨーロッパ研究者としては思った次第なのでした。


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