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実はさほど「大きな驚き」でもなく、「右傾化」とも「左傾化」とも簡単には言えないが、おそらく禍根を残すことになったフランス議会選挙について

タイトル、長っ!と思われた皆さん、申し訳ありません。
でも、これに尽きるんじゃないかな…と思っています。

↑さきほどこちらの二本のYahoo!記事にエキスパートコメントを掲載し、またのちほど共同通信からも談話が出る予定ですが、7月7日(日)に実施されたフランスの議会選挙について、ごく簡単にまとめておきます。

まず確認しておくと、第二回目の決選投票の結果は以下の通りでした。

まず、特徴を大づかみで述べるなら・・・

・ 国民連合を中心とした急進右派連合は3位に転落。でも50議席以上伸びている。「国民連合は惨敗」という表現は正確ではない。

・ 極左・左派連合「新人民戦線」が第一党。与党連合には不満を持ち、しかし国民連合も危険視する層からの票が流れた。

・ どの党も単独過半数はとれていない。

すでに様々な優れた考察が出ていますが・・・

以下、私から「ここだけは知っておいていただきたい」というポイントを、このnote記事のタイトルに絡めつつ、ごく簡単に列挙しておきます。

・ そもそも6月の欧州議会選挙で国民連合が第一党となったのが、マクロン大統領が解散総選挙に打って出た直接の経緯となりました。
マクロン大統領は「極右」と位置付けている国民連合の躍進をフランス社会にとっての脅威として訴え、欧州議会選挙結果の「揺り戻し」を第一回および第二回投票の双方で期待していたように見受けられますが、今回の第一回投票ではむしろ国民連合の台頭を許す結果になりました。第二回投票では、政権与党と左派連合が協力して第3位以下でかつ12.5%以上の得票率を得た候補者の辞退を促すなどの「包囲網」が奏功し、国民連合の勢いをそぐことができました。

・ 「揺り戻し」をもう少しかみ砕きますと、フランスの選挙の特徴として、2017年と2022年の大統領選挙および議会総選挙でも、第一回投票で急進右翼(旧国民戦線、現国民連合)が躍進するものの、第二投票ではその勢いが削がれる現象が観測されてきました(「揺り戻し」)。
私個人的には、報道1930や報道インサイドOUT等の先週、先々週のメディア出演でも、
「1回目の投票は感情や空気が支配しがち、2回目の投票では理性が支配しがち」
という説明の仕方をさせていただいていました。

・ つまり、1回目の投票結果で国民戦線・国民連合の台頭が可視化されるが、2回目の投票ではその傾向が抑制される、という現象自体はこれまでのフランスの選挙で繰り返し見られてきたことであり、その意味ではあまり「驚き」でもない、とも言えます。

(とはいえ、事前予測に反して、国民連合が第一党のみならず、第二党にもならなかったことから判断すれば、確かに驚きの要素はあったと思いますが。)

・ なので、国民連合が第一党にならなかった、という観点からは「右傾化は避けられた」と言えると同時に、国民連合が議席を増やした、という観点からは「右傾化した」とも言えます。単純に割り切れません。

・ 一方、左派連合が第一党に。これは、政権与党も国民連合もどちらもイヤ、という票が左派連合に流れた「漁夫の利勝利」と見た方がよいでしょう。英国で労働党への政権交代があったことと並べて論じて、イギリスとフランスが「左傾化している」と論じている人をたまに見るのですが、この両国の状況を見て「左派の主張が幅広い支持を得た」とは判断し得ないと思います。

・ しかし、どの政党も圧倒的な勝利を収めることがなく、過半数を超えることもなかったので、連立交渉には時間がかかり、大いに混乱するでしょう。第二勢力となった現政権与党連合と、著しく自信を付けた左派連合と、議席を伸ばして勢力を拡張させた国民連合、その他勢力が関与する連立(交渉)が簡単にいくわけはありません。

(↓ noteを読んで下さってる皆様にちょっとしたおまけを。この部分、某メディアさんに提出したら、大人の事情で盛り込んでいただけませんでした。もったいないので出しておきます)

・ そしてこの混乱が長引けば長引くほど、将来的には(場合によっては2027年の大統領選挙で)国民連合に有利な展開となることが予測されます。その意味で、今回の選挙結果は結果的に、将来的な国民連合の更なる台頭を許す契機となった可能性があります。これを「禍根を残した」と言えば言いすぎかもしれませんが、その要素は十分にある…と私は考えます。

・ 左派連合が台頭したことで、フランスの対ウクライナ支援や対ロシア姿勢がどのように変わるのか・・・という点も、今朝以降しばしば聞かれました。フランスの第五共和制の特徴として、大統領の外交・安保権限が非常に大きいことは確認しておく必要があるものの、連立交渉が終わってみないと実際の対外政策上の影響については予測が難しい部分があります。

・ あえて懸念材料を揚げておくとすると、日本では意外と知られていないのですが、左派連合のなかでも中心的な「不屈のフランス」代表のメランション氏は、ロシアによるウクライナ侵略に際し、プーチンは「自らの信じる義務を実行に移している」と発言しています。

また、ウクライナのNATO加盟に関しては、「NATOはウクライナを併合すべきではない」とも語っています。そもそも反NATO主義者です。


これまでのメディア出演では、「国民連合が政権を取ったら、ウクライナ支援はどう変化するのか」と聞かれるばかりでしたので、国民連合とロシアとの長きにわたる関係についてご説明し、「国民連合からロシアの影を払拭するのは不可能」とお話ししてきましたが、
上記ご紹介した記事でも伺えるとおり、「左派連合が一位になったから、フランスのウクライナ支援や大西洋関係は安泰」などということでは全くありません。

メランション氏の対中政策はどうなのか…ということもお話ししておくと、同氏は「一つの中国」政策を堅持することを明言しています。

駐フランス中国大使館も、メランション氏の「『ひとつの中国政策』への常なる支持に感謝」するツイートを行っています。

以前、別のnote記事で、中国は国民連合が第一党になることをあまり喜んでいない様子であることをご紹介したのですが、

「不屈のフランス」の勢力拡張は、中国にとって歓迎すべきことと思われます。

(複数のメディア関係の方には申し上げましたが)とりあえず、連立交渉が終わってみないと、フランス対外政策の変化も正確には予測し得ませんが、「国民連合が第一党でなければこれで安心」というわけでもないことは、念頭に置いておきたいところです。
フランスは決して短くない政治的混乱の時期を迎えると考えられます。


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