長渕剛ツアー2024~blood ライブレポート

「長渕剛は人の肉を食べている。」

江戸時代より我が故郷で綿々と言い伝えられている都市伝説である。

田沼意次が老中の時代、幕府の人間や商人による賄賂が横行していた。するとその現状を目の当たりにしたクスリ職人のナガブチという正義感の強い男が我慢の限界を迎え、悪事を働く人間を片っ端から喰っていったそうだ。しかしついにナガブチは人肉を喰らうことに快感を覚えるようになってしまい、正義のヒーローから狂人へと成り果て、最期は新春書き初め大会で太っとい筆の先っぽを吹っ飛ばした後、墨汁を一気飲みして死んだと言われている。

田沼意次に襲いかかる長渕

この都市伝説の根付きようは異様と言って良いほど強く、私の小学校では書き初めの言葉も、校長先生の話も、校歌の歌詞も全部これだった。

参考:私の小学校の校歌
作詞、作曲:ポールマッカートニー

ふざけんじゃねえと長渕が叫ぶ
この街は燃え尽きた
腐った欲望の匂いが立ち込める
長渕は鼻をつまんで歩いた

ギターとクスリを共として
長渕は人を喰い続けた
この世の腐敗を消し去るために
長渕は人を喰い続けた

やめられない止まらない
人肉喰いの快感たるや
どちらが腐った人間なのか
神よ、裁きを下したまへ

私は乳飲み子の頃より長渕剛のファンであり、長渕のライブに行きたいとかねてより思っていたのだが、このことを家族に言うと決まって「喰われるからやめロイ!!!」と怒鳴られたので、今まで行けずにいた。しかし私も大人になり、親から「明日からお前が(人生の)舵を取れ。ヨーソロ。」と言われ、干渉を受けなくなった。そして、ついに長年の夢であった長渕ライブへの参加を実現することができたのである。

10月18日。その日の有明アリーナは小雨だった。傘を差した筋肉質の男たちが東雲運河を超えて会場へと向かう。

入口付近まで行くと、ライブのポスターが目を捉えた。そこにはギターを掲げる長渕と、”blood"という赤い文字があった。

Blood!!!???血!!!???

目に映るすべての人間を喰い、血祭りにあげるということなのか?とするとやはりあの都市伝説は本当だったのか…??

いやいや、そのような鬼畜なことをする男が、Myselfのような優しい曲を作れるはずがない。大丈夫だ、生きて帰れるさと自分に言い聞かせ、意を決して入場。

会場に入ると割れんばかりの剛コールと歓声が我々を出迎えた。ああ、俺たちが入り口で愚図愚図している間にもう始まってしまったのかと思いきや、舞台上にはまだ誰もいないではないか。開演前からあそこまで客が温まっているライブは見たことがなかったので正直驚いた。それと同時に、群衆が日の丸を振り回しながら歓声をあげる様子はさながら先の戦争中に行われた出陣学徒壮行会のようで、若干のファシズムっぽさまで感じた。

学生キャッシュバックの列をスタッフがさばくのに時間がかかった影響で、ライブは15分遅れでスタートした。てっきり私は、待たされたことに怒り狂った長渕が2,3人のスタッフを口に咥えて出てくるのかと思っていたのだが、長渕が咥えていたのはスタッフではなくハーモニカであり、待たされたことなど全く気にしていないかのように笑顔だった。

登場とともに鼓膜が破れそうなほどの剛コールが飛んできたが、長渕がギターを構えると少し収まり、観衆は聴く態勢に入った。それと同時、イカしたエレキギターの音が鳴り響いた。漢・長渕のライブにふさわしい壮大な幕開けである。

果たして1曲目は何の曲なんだ…おっ、そろそろ歌い出すぞ!!さて、何の曲だ!!!

長渕「太陽とからっ風が…」

知らねぇ曲かぁい!

私は長渕のファンであるとは言ったが、実はサザンの方が好きで、全曲知ってるというほど詳しくはない。それに、筋肉の塊になってからの長渕の曲は、殆ど知らないのだ。

その後も何曲か知らない曲が続き最初のトークへ。「お前らが大好き〜!!」と長渕が叫んだ後、ついに知ってる曲が演奏された。ひまわりの涙という曲。これは最新アルバムの収録曲なのだが、どこかで聞いたことがあった。「悲しみよ、さようなら」の歌い出しが好き。

その後は長渕ガリガリ〜中肉中背時代の私が知ってる曲が続いた。尾崎豊の真似感溢れるシェリー、花菱にてなどを歌い、ついに私が一番生で聴きたかった曲がかかった。その曲は

Stay dreamである。

純粋にすごく良い曲だからというのもあるが、剛が「もうこれ以上先へは〜進めない」って歌った後「つよしぃぃい!!!!!」って叫ぶやつをやりたかったのである。

腹の底から叫んだろと思ったのだが、同行者が冷めた目で黙ってステージを見つめており、自分だけ叫ぶのが恥ずかしく、結果日常会話並の音量で名前を呼ぶだけになってしまった。自分の度胸の無さが大変悔やまれる。

続け様に往年のヒット曲RUNを演奏。知名度の高い曲ということもあり、観衆の合唱の声が一際大きかった。「賽銭箱に100円玉投げたら釣り銭出てくる人生が良いと」というインパクトのあるフレーズと、エレキが激しいのにどことなく陰鬱さを感じられる絶妙メロディーを作れる長渕は改めて凄いなと思った。

その次も私が好きな曲、くそったれの人生。ライブで聴いてみると、サビの部分から佐野元春の約束の橋感を感じた。

そして何曲か後にJEEPに収録されている名曲「カラス」を演奏。今回のライブでは1,2を争うほどの素晴らしさだった。CD版も好きだけど、ライブバージョンはその何百倍も心に沁みた。孤独な男たちを都会に群がるカラスに例え、「俺たちの向かう先は真っ暗闇とは限っちゃいねぇ」という希望的な歌詞で幕を閉じるという心温まる歌詞が、まさに都会に群がるカラスの僕に深く突き刺ささった。

He la は知らない曲だったけど、Aメロがブルースっぽくて良かったです。はい。

そしてついに大ヒット曲しゃぼん玉。1番の歌詞は全部覚えているので、フルで剛と合唱した。やっぱいい曲だ。

アンコールはヒット曲のオンパレード。蝉、とんぼ、勇次と続いた。勇次の「撃鉄が落とされ」のところでクラッカーを鳴らすというノリはどこかで聞いたことがあったが、私はクラッカーを持っていなかったので参加できず。わざわざ持っていく長渕ファンの用意のよさに驚かされた。

そのあとは定番曲、乾杯。剛が1人で歌う乾杯もいいが、この曲は合唱バージョンの方が好き。友の人生の門出を祝う曲なので、大勢が語りかけている感じが出る合唱の方が歌詞にあっている気がする。

乾杯でラストかなと思いきや、さらにもう一曲。JEEPの収録曲の西新宿の親父の歌である。サビの「やるなら今しかねぇ」の合唱が感動的であったと同時に、「ヤるのは今ではねぇ」と泣きながら筋肉の塊に抵抗する若林志穂さんの様子が脳裏をよぎり、涙が溢れてしまった。

さすがにこれでラストかと思いきや、なんと最後にもう一曲だけ披露。巡恋歌のライブバージョンである。巡恋歌は最後の曲っぽくないと思ったのだが、曲が終わる際、長渕が超絶技巧のギターとハーモニカを全身全霊で披露したあと、長渕の絶叫とともに演奏が終了した。ふと時計を見ると22時。開始から3時間経っていた。もう68歳なのに3時間全力でパフォーマンスできる長渕、凄すぎる。やはり筋トレとクスリの力は偉大である。



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