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高輪橋架道橋追想
なに、ここ?
いいから、向こう側まで歩いてみるぞ。
いぶしがる彼女を強引に連れ、山手線と京浜東北線がひっきりなしに通過するガード下のトンネルに向かった。
トンネルの入口に入るなり、すぐ頭上を轟音を響かせ電車が通過した。
彼女は思わず耳を塞いだ。
怖い。
すごい音だろ?
ここ、車通れるの?
通れるさ。ギリギリだけどな。
そう言った矢先、タクシーが後ろからゆっくりと二人を追い越して行った。
タクシーの天井についている提灯が、トンネルの天井ギリギリをかすめていく。
本当だ。通っていった。
な?で、あの提灯壊すタクシーもあって、それでここは提灯殺しって言うんだ。
怖い名前だけど、風情もあるわね。
彼女は苦笑いしながら言った。
最低限の灯りしかない仄暗いトンネルを進むと、天井はどんどんゆるやかに低くなっていく。
はじめは普通に歩けたトンネルも、3分の2を過ぎたあたりからは、178㎝の私は首を横に傾けながら歩く羽目になる。
首痛いでしょー?
提灯殺しじゃなく、首殺しだな。
160㎝ない彼女は、普通にまっすぐ歩きながら、さも、ザマアミロといった感でいたずらな笑みを浮かべる。
そして少し歩くと、陽の光が差し込む出口に着いた。
一気に訪れる開放感と頭上に広がる青空。
あぁー、気持ちいい、楽しかったぁ。
首いてぇわ。
泉岳寺に行く中、そういえばあのトンネルはどうなったんだろう、最後に来た遥か昔を思い出し、近くまで行ってみた。
高輪ゲートウェイ駅を中心とした再開発が盛んに進んでいる中、このトンネルもなくなり、閉鎖されていた。
工事中の立看板が無数に並び、冷たく拒絶する雰囲気に、あの暗いが暖かみのあるトンネルを頭の中に浮かべ、来た道を立ち戻った。
また来ようね。
また来たが、何もかもが消え去っていた。