ひとりになりたい鬼とひとりにさせない人 第2話
第2話 まつりまつられ
祭りの夜。
お多福のお面を被ったカタが歩く。
カタ(父さんが祭りで暴れるって言ってたの…冗談だよな。
あんなに優しいのに、下ネタに弱いのに、そんなことできる筈がない)
寺の境内に出店が並び、祭囃子が聞こえる。
カタ(村の寺の使いってハヤトが言ってたけど、このお寺かな?
ハヤト、いるかな?)
ユル「カタ?」
ドキッとしてお面を頭上にずらすカタ。
カタ「なんだ、ユルか」
ユル「なんだとはなんだ。珍しいな、お前がこんな賑やかな所に来るなんて」
カタ「親に言われて…」
回想:母にしがみつく祖父。
祖父「お前は行くなー!鬼にまたさらわれる!」
母「ごめんー!ひとりで行ってらっしゃい」
ユル「お前のお母さん、フクさん、そのお面に似てるな」
カタ「ああ、おたふく顔だな。フフッ」
ユル「あ、いい意味でだぞ、誉めてるから!」
ハハハと笑い合う二人。
ユル「…昨日は、ごめん」
カタ「何が?」
ユル「味方になれなくて。カタはいいやつって知ってるのに…」
カタ「(ボソッと)そうでもないよ」
ユル「え?」
カタ「仕方ないよ。周りに合わせた方がユルは平穏に過ごせるだろ」
ユル「そうだけど…」
カタ「気にするなよ。忘れてくれ、俺のこと」
カタを苦しそうに見つめるユル。
ハヤト「カター!」
駆け寄るハヤト。ゴホゴホと咳き込む。
カタ「ハヤト…!」
カタの顔がほころぶ。
ハヤト「また会えましたね!やったー!!ハアハア、ゴホッ」
ユル「近づくな、感染る」
カタ「え?」
ユル「こいつ、結核なんだ。最近ここに越してきたんだよ、知らなかったのか?」
驚くカタ。
ユル「カタはあまり出歩かないから…」
ハヤト「結核というより喘息ですよ…たぶん。
きれいな山の空気を吸って、だいぶ良くなってきました」
ユル「転地療養は建前だろ。遠縁の寺に預けられるなんて、要は厄介払いされたんだ!」
うつむき堪えるハヤト。
カタ「やめろよ!」
ユル「俺は鬼より病の方が嫌だね、感染るから!」
カタがユルに掴みかかろうとした刹那
父「ガオー!」
茂みから飛び出して、カタとユルに割って入る父。
父「鬼だぞー!悪い子はいねがー!ガオオー!」
ユル「うわあ!」
ハヤト「大きい…」
村人A「鬼だー!」
村人B「鬼が出たぞー!」
父「祭りをぶっ壊してやる!」
父、祭囃子の太鼓をドーンとひっくり返す。
村人C「誰か、和尚さん呼んでこい!」
カタ「と…」
父、制止するように、しーっと人差し指を立てながら目配せ。
父「俺は強いぞー!」
暴れる父。
父「英雄でもいなきゃやられないぞー!」
父、カタに向かってかかって来いよのポーズ。
カタが飛び込み、父と取っ組み合い。
父「(小声で)よしよし、そのまま俺を投げる感じで。」
父はドドーンと投げられた振りをする。
父「(小声で)そんで、そこの柊の葉っぱ、トゲトゲしたやつ投げつけて」
カタは近くの柊の葉をむしり、父へ投げつける。
カタ「えい!」
父「ぐああ!」
父、目を抑えて痛がり逃げる。
父「やられたあー!」
ハヤト「そっちは!」
崖から落ち、川にドボーンと沈む父。
カタ「あ…」
駆けつける和尚。
和尚「あなたが…鬼を退治してくれたのか」
お多福のお面を頭に被ったまま、ツノが隠れているカタ。
村人A「福だ…」
村人B「福の神だ…!」
村人たち「福はー内!福はー内!」
村人たちがカタをわっしょいわっしょい胴上げ。
明くる日、カタの家。戸の前には山盛りの食べ物。
母「なんか…贈り物?すっごいんだけど」
カタ「うん、お礼にって、くれた」
祖父「鬼を退治したから、当然の貢ぎ物じゃ」
家の前で拝む村人。
村人「ありがたや」
戸を開ける母。
母「あの」
村人「ははぁっ」
母「ありがとうございました。こんなに食べきれないんで…もう、十分です」
村人「さすが福の神様のお母上、フクブクしい!」
母「あ?」
母戻る。
母「英雄っていうより、神様みたいになっちゃったね」
カタ「……父さん、大丈夫かな…」
母「体は丈夫だから、大丈夫よ」
「ごめんください」
家の外から声。
母「はーい」
母が戸を開けると、ガキ大将とその母、マスとその母が立っていて、会釈する。
ガキ大将の母「お話したいことがあり、参りました」
母「あら、どうも。
ちょっとカター。おいで」
ガキ大将「…ひどいこと言って、悪かった」
ガキ大将の母「息子がカタくんに…追い出すようなこと言ってしまったようで、ごめんなさい」
マス「お許しください」
マスの母「お詫びのしるしに桃を持って参りました」
母「ご丁寧に、どうも」
カタ「…もう、いいよ」
マス「お許しいただけるのですか…!」
子どもと母たち、お辞儀をして帰る。笑い声。
家の中。
カタ、苦い顔。
母「せっかくだし、桃、むこうか?」
カタ「この間たくさん食べたから、いらない」
(ハヤト…ハヤトに会いたい)
母「村で、一緒に過ごせそう?」
カタ「わからない……」
心配そうにカタを見つめる母。
カタ「……もう少し、様子を見てみるよ」
カタ(貢ぎ物は続いた。
お礼に大きな石を取り除いて、田んぼに水を引いたりした)
大きな石を持ち上げて投げるタカ。
(すると評判が広がり、ますます様々な物が捧げられるようになった)
米俵など積み上げられる。
(はじめはまんざらでもなかったが)
喜ぶ祖父に、ドヤ顔のカタ。
(俺も母さんも、家にいても外にいても拝まれる)
カタと母を拝む村人。
(蔑まれなくなり、崇められた)
カタ「ハア、ハアッ」
(それでも、居心地はよくならない。
……息が詰まる)
カタ、草むらを逃げるように走る。
小さなお堂の戸を開く。
ハヤト「やあ」
カタ「ふぅー」
(ハヤトの側でだけ、俺は深く呼吸ができた)
↓第3話へつづく
◯第3話 思い出が民話に
◯第1話 照らされる