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ひとりになりたい鬼とひとりにさせない人 第1話

◯あらすじ
真っ暗闇で雷が光る中、半鬼半人のカタと人間のハヤトは出会った。二人は異なる性質があるものの、心通わせる。
カタは村人から除け者にされ、疎外感と食人衝動にかられ、村から出て行こうとする。そんな折、人間の母と祖父と住む家に、鬼の父がやってきた。父はカタと村人を和解させようと、鬼の自分が祭りで暴れてそれを倒させ、カタを英雄にしようとした。
村人は、カタを神のように崇めはじめた。そして今度は、咳の止まらないハヤトを結核だと言って隔離する。カタは人と共にいることに絶望し離れようとするが、ハヤトは希望を持って離さない。

ひとりになりたい半鬼半人と、ひとりにさせたくない人間の、すれ違いおとぎ話悲喜劇。

◯主な登場人物
カタ :鬼と人の子。体の右半分が鬼でツノが生え右目が金色、左半分が人間。14歳くらい。鬼の父の元を離れ、人の母と人里に降りてきた。優しいが、人といると疎外感を感じ、ひとりになりたい。
ハヤト:人間。咳がひどく、近ごろ寺に預けられた14歳。人といる方が幸せだと思い、カタをひとりにさせたくない。


第1話 照らされる


(異質な者が自滅に向かわないためにはどうすればいいだろう)

木が生い茂る山。掘った穴の中にいるカタと、穴の上にいるハヤト。
カタ「頼む。俺を埋めてくれ!」

泣きながら土をかけるハヤト。
ハヤト「本当に…それでいいのか?…そうするしかないのか?」
カタ「人といると苦しいんだ。俺は半分鬼だから、どうしても人を食いたくなる…
 俺がいなくなった方が、村が平和になるんだ…!」
ハヤト「僕はカタと一緒にいたい!
 君が好きだ!」
カタ「俺もお前が好きだけど!嫌いでっ…気が触れそうだ!!
 もう…穴があったら入りたい。穴を掘ったし篭もりたい」
ハヤト「僕がきっと、君を救う…。何年かかっても、きっと、この世界を……
 鬼も生きやすい世界にする!!」

タイトルページ『ひとりになりたい鬼とひとりにさせない人』


夜、嵐に雷。

ハヤト(真っ暗闇で光が明滅する中、僕たちは出逢った)
草むらを走り逃げるカタ。ハアハアという息づかい。
山あいにある小さなお堂(桃の木が生え、裏には川が流れている)へ辿り着き、
ガタッ!と扉を開ける。
ハヤト「っ!」
カタ「先客がいたか。失礼」出ていこうとするカタ。
ハヤト「どうぞ!雷もひどいですし。
灯りも絶えて真っ暗ですが、雨風をしのいでいってください」
カタ「…ありがとう」
続く沈黙。
ハヤト「参りましたね、急に降り出して。
村の寺の使いで、山奥のお堂を掃除しに来たのですが、帰れなくなってしまいました。…あなたは?」
カタ「外で、雨が降った。ので、中に入った」
ハヤト(片言…!だが、かわいい!)
 「ゴホッ、ゴホッ」
咳き込むハヤト。
ハヤト「…つっ」
カタ「血の匂い…?」
ハヤト「ああ、暗がりの中転んで、ちょっと足に怪我しちゃって…大したことありませんよ」
カタ「ダメだ!…手当しないと。とりあえず…」
カタがハヤトの足を手拭いで縛る。
ハヤト「あっ(優しい…!)
 …ありがとうございます。よく見えますね」
カタ「暗い所は慣れてる」
ハヤト「僕はまるで見えません。月が出るか、日が昇るかしないと帰れなさそうだ」
ピカッ
雷の閃光で一瞬照らし出される二人。
カタの頭には片方ツノが生えていて、片方の瞳が明るい。
カタ・ハヤト「……!!」
はっとする二人。俯くカタ。ふるふる震えるハヤト。
カタ「俺はもう行く」
ハヤト「(被せ気味に)かっこいい」
カタ「え?」
ハヤト「あっ、心の声がつい…。
 あの、ひょっとして、ツノ、生えてます?」
カタ「それは…俺が……」
ハヤト「目も、透き通って…」
カタ「……鬼だから」
ハヤト「キレイだ」
カタ「……っ。そんなこと言われたの、はじめてだ。
 じゃあ、気をつけて」
出て行こうとするカタ。
ハヤト「待って!ひどい嵐だ。せめて夜明けまではここにいた方がいい」
カタ「俺は……」
カタ、苦悶の表情。
カタ「あんたに…何するかわからない」
ハヤト「ええっ!?」
カタ「俺は……半分鬼だから、人を食いたくなるんだ。血が匂うとくらくらする」
ハヤト「半分?ってことは、もう半分は?」
カタ「人間だ。母親が人で、父親が鬼」
ハヤト「それなら、果物は食べられます?桃がたくさんありますよ、どうぞ」
ハヤト、桃を差し出す。
ハヤト「お腹いっぱいになれば、他のものを食べたくならないんじゃないですか?」
ぐぅ〜とカタのお腹が鳴る。
カタ「…いただきます」


朝、チュンチュンと鳥のさえずり。嵐は過ぎ去る。

ハヤト「大丈夫でしたね!」
カタ「あんまり大丈夫じゃないけど……まあ、何とか。
 あんたは大丈夫か、怪我と…咳」
ハヤト「ゴホゴホ(咳き込みながらうなずきつつ)…ハヤト。名前、ハヤトです」
カタ「俺はカタ…って呼ばれてる」
ハヤト「カタ…かたいですもんね、筋肉!」
カタ「えぁ?」
ハヤト「手当してもらった時に触っちゃいました」
照れるハヤト。
ハヤト「よくこのお堂に来るから…ではまた!」
カタ「じゃあな」

手を振り合い離れていく二人。

ハヤト(楽しかった!また会いたい)
カタ(疲れた……)
歩きながら思い起こすカタ。
カタ(あいつ、ずっと喋るし、やたらと桃食わせようとするし、美味しそうな匂いするし……ひとりでいる方が楽なんだけどな)

回想:ハヤト「キレイだ」

カタの口元がゆるむ
カタ(まあ、いいやつか)

ガキ大将「何笑ってんだよ!」
カタと同年代の村の子たちが3人現れる。

マス「こえーんだよ!」
ガキ大将「お前まだいんのかよ!」
ユル「…放っときなよ」
ガキ大将「さっさと鬼のすみかに帰れ!」
マス「村から出ていけ!」
カタ「わかった。…母さんに話してから、行くよ」
ユル「カタ!…お母さん、さっき田んぼにいたよ」
ガキ大将「失せろ!」
カタ「俺が!!ここからいなくなるから!安心して…母さんは人間だから」


田で働くカタの母。

母「おかえり。昨日の夜はどうしたの?嵐で足止めくらった?」
カタ「うん。雨やどりしてた」
母「家で着替えておいで。夜ごはんも取っておいてあるよ」
カタ「……俺さ…この村から出ていく」
母「…なんかあった?」
カタ「村の人……食いたくなる。
 …一緒にいない方がいい」
母「そりゃ、半分鬼だもんねえ…。村から出て、どこ行くっていうの?」
カタ「人がいない所、鬼のいる所」
母「父さんのいる所?」
カタ「…父さん、どこにいるの?」
母「父さん、今夜家にくるよ。」
カタ「え!?」
母「たまには息子の様子が見たいんじゃない?」
カタ「大丈夫?人襲っちゃったり退治されちゃったりしない!?」
母「どうにかなるでしょ」


夜、家の中。カタと母が囲炉裏を囲み、祖父が寝ている。
トントンとノックする音。カタの父(鬼)が現れる。

父「よお」
母「久しぶり」
父「カタ、元気か?」
カタ「……」
カタの顔を覗き込む父。
父「久々にさ、お尻ペンペンってやってくれよ。
 母さんと村に帰る時やってくれたやつ」
母「あれ爆笑してたわよね、ウケるー」
カタ「(ボソっと)笑いの沸点が低過ぎる」
父「おっと、思春期…かな?」
母「…カタ、父さんの所に行きたいんだって」
父「(ちょっと嬉しそう)そうなの?来る?」
カタ「人のいない所に行きたいだけ!」
父「どうして?」
カタ「……人と、馴染めないから」
父「あー……そういうこともあるよなあ。鬼は鬼で大変だけどなあ…。
 賊にいるとお頭の言うことは絶対で、悪い事させられるし、
 賊から抜けて一人だと、食う寝る住むを全部一人でやる必要があるんだぞ。」
カタ「……人といると、苦しいんだ。食いたくなる」
母「他のごはん食べられるんだからそれを食べて、距離を置けばいいんじゃない?」
カタ「村から出ていけって言われた。……俺のこと怖いみたい」
母「んー……母さんはカタのこと怖くない。大好き!一緒にいたいよ」
カタ「母さんは爺ちゃんの世話もあるし、俺だけ出ていくよ」
父「うーん……」
悩む父。

父「よし!俺を倒せ!」
カタ・母「え?」
父「生粋の鬼、つまり俺がひと暴れするから、カタはそれをやっつけろ!」
カタ「父さん?」
母「なるほど。人間って他に敵をつくれば、結束するところがあるものね」
カタ「母さん?」
父「そうすれば、カタと村の人が仲良くなるだろ」
母「ちょうど明日は寺でお祭りよ。派手に仕掛けましょう!」

父「鬼を倒して、村を平和にすれば、お前は英雄(ヒーロー)だ!!」
カタ「英雄…」
頬を少し紅潮させるカタ。

祖父「んん?」
起きる祖父。
祖父「なんじゃ、鬼め!また娘を、フクをさらいに来たのか!」
母「さらわれたんじゃなくて、助けてもらって結婚の約束をしたんだってば。もう!」
父「お、お義父さん、ご無沙汰しております」
祖父「お前にお義父さんと呼ばれる筋合いはない!」
祖父、大豆をつかんで父に投げつける。
祖父「鬼はー外!」
父「はい!それでは、おいとまいたします」
出て行こうとする父。祖父を止める母。
カタ「父さん!」
父「じゃ、明日の祭りでな!」

鬼の父を見送り、たたずむカタ。
カタ「俺(鬼の子)が英雄(ヒーロー)に…?」


↓つづきはこちら

◯第2話 まつりまつられ

◯第3話 思い出が民話に


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