デーモンドライブについての所見
私が普段愛用しているツインペダルはPearlのデーモンドライブだ。
ダイレクトドライブの素晴らしさ
ダイレクトドライブに勝るシステムはない。従来チェーンで接続されていたがゆえにフットボードとビーター角度が必ずしもリニアに変化しないという、高速連打時における致命的なトラブルを原理的に解決する極めて合理的な構造だ。またチェーンは多くの節点において、フリクションロスが発生するが、節点の少ないダイレクトドライブではロスが低減されているはずである。特にデーモンドライブではスケートボード界で第一線を駆けるNINJAベアリングが採用されており、従来とは比べ物にならないほどスムーズなアクションが実現している。
また、このデーモンドライブはマスター側のペダルとスレーブ側のペダルを連結するユニバーサルジョイントが少し特殊でこれがまた抜群にすばらしい。ジョイント方式は基本的な構造はカルダン方式だが、通常のカルダンジョイントが内側に共通の受け部を持っているのに対し、デーモンドライブ擁するZ-LINKではシャフトから大きくはみ出して外側に共通の受け部を配している。この受け部の大型化により、各摺動部が高精度に成形されたベアリングとすることが可能となっている。
個人的にはカルダンジョイントはジョイント前後の軸方向が平行でないと送り側と受け側の角速度が変わってしまうため、自動車のドライブシャフトに用いられるような等速ジョイントの実装が望まれる。自動車と違い有効長の変化はないので単なるバーフィールド型で十分だとはいえ、さらなる大型化による重量増と構造の複雑化による製造コストの長大化が懸念されるため、実現可能性は低そうではあるが。
さて、私は以前まで同社Pearlのエリミネーターを使用していたが、デーモンドライブに変えてからここ2年ほどでツインペダル演奏の精度が飛躍的に向上した。具体的なことを言うと、エリミネーターを使っていた頃は、とても調子がよいときでテンポ180の16分連打をライブハウスでコンプをガッツリかけてもらって4小節どうにか音符が追える程度の精度であったのに対し、デーモンドライブを使用し始めて2年ほどの現在、かなり調子が悪いときでもテンポ170で16分連打をクリックを鳴らしながら、生音で左右の粒を揃えて8小節以上踏むことが出来、かつ、ほとんど疲れなくなった。以前はちょっと速いテンポで踏もうものなら、そのあとしばらくは足が使い物にならないような筋肉の強張りを感じていたが、そのようなことはほぼなくなった。
もちろん単純にペダルの影響だけでなく、ドラムスローンへの座り方や足の動かし方が改善されたことにも起因するのだが、少なくともペダルが原因で踏めないということは完全に無くなったと言える。無論プロのドラマーはエリミネーターしかなかった時代でも信じられないような高速ツーバスを踏んでいたが、弘法は筆を選ばないものだ。しかし、ことアマチュアは道具を選んでこそである。いい道具はセンシティブにリアクションしてくれるから、上達に必要なエッセンスを実感しやすい。適切なフィードバックを得られることが成長速度に如実に良い影響を及ぼすことは論を俟たないだろう。
デーモンドライブの問題点
ここまでデーモンドライブの良い点ばかりを記してきたが、2年間使って色々とトラブルにも見舞われたのでそれについても述べていこう。
まず、このペダルの欠点、それは多くのパーツがアルミ製だということ。たしかに、アルミは鉄よりも軽量であるので軽量化のためには致し方ない。だが、アルミはとにかく脆い。強いが脆いのだ。一方、鉄は炭素添加量のコントロールと組織制御をもって比較的高い強度を持ちながらも靭さ(ねばさ)を失わない鋼(はがね)とすることが出来る。さらなる合金元素の添加などによって知名度の高い材料であるステンレスにもなる。だが、いかんせんアルミよりはどうしても重い。合金組成にもよるが、比強度でいうとアルミは鋼の倍以上の値を示す。重量増はペダルアクションの軽快さを欠く要因となるので、経済性・耐久性の面では劣るが、やむなく軽量のアルミが採用されているというのが現状である。
案ずるに、ここまで読むと、強いが脆いという言葉が腑に落ちないという人もいるかもしれない。実は、材料の強い・弱いと靭い・脆いは別のパラメータなのである。文字で書くとわかりにくいが、強度と靭性(脆性)の違いは多くの人が感覚的には理解していると思う。
具体的な例としては、ガラスのコップとペットボトルを想像するとわかりやすい。ガラスのコップを力強く握っても形を歪めることは出来ないのに対し、ペットボトルは容易につぶすことが出来る。これはガラスの方が強度が高い、つまりは変形を起こしにくいということである。一方で、ガラスを思い切り地面にたたきつけると粉々に割れてしまうが、ペットボトルでは凹みこそすれ、粉砕するということはない。これが靭性で、簡単に言えばどれだけ破壊されにくいかの指標である。ガラスは強度が高く、靭性が低い。ペットボトルは強度は低いが靭性は高い。一般的な傾向として、強度が高いと靭性はトレードオフで低くなる。そのため、強度が高く靭性も高い鋼は斯様にも世の中で広く使われているのである。
脆いと何が問題なのか。もちろん通常使用でペダルが真っ二つに割れるだとかそういうことを言っているのではない。脆さが問題となるのはズバリ、高トルクでの締め付けにより、材料に歪みを及ぼすネジ部分である。硬くて脆いアルミでは、ある程度までは良くても、ねじ穴に一定以上の力がかかると途端にボロボロになってしまう。アルミは実にネジ加工に適さない。だが、デーモンドライブでは主要部品がアルミなため、どうしてもアルミにねじ切り加工がされている。そしてこれがけっこうに馬鹿になりやすい。
現に私のケースでは2年間の使用の間に、ビーターホルダーリンク(定価1100円)*2とダイレクトリンク・コネクティングブラケット(定価900円)のねじ穴が馬鹿になり交換した。これらの部品は、楽器屋でストックがあることは稀なので、取り寄せが必要になる。幸い、値段はそこまで法外でもないので取り替えれば済む話なのだが、ライブ演奏中にビーターが外れるという事件があって以来、ビーターを取り付けてからさらにビーターエンド側からビーターセッティングストッパー(いわゆるメモリーロック。正式名称を探すのに苦労した)を取り付けて外れるのを防止している。
ライブ演奏中にビーターが外れたことは2回あって、1回目はあろうことが右足側で、曲中盤からの演奏を終始左足のみでやる羽目になり、演奏ジャンルがメタルなことも相まってそれはもう絶望だった。これがポップスなら左足のみでもなんとかならなくもないが、16分連打必須のメタルとあっては悲惨の一語である。演奏後に、観客から「あれー、なんかドラムのタイム感悪くなったんじゃないの?」と言われて、「いや、ビーターが抜ちゃってたんすよ」と返したら「マジか、気付かなかった」と言われて、バンドにおいてドラムって存在価値あるのかな?と疑問に思ったことがある。
2回目の時は、右足側を対策していたのだが、今度は左足側が抜けて、こっちに至っては誰も気付いていなかった。メンバーのギターのやつすら気付いていなかった。悲しいものである。むしろペダルというより、周囲の人間をどうにかしないといけないかもしれない。
加えて、最近どうもペダルから異音がする。左側ではしないのだが、「ペダルから足を離して、手でビーターをフットボード側に押さえつけてからバネの力だけでビヨーンとさせるドラマーなら誰しも必ずやったことのあるアノ動作」をするとカタカタと鳴っている。しかし、どうにもどこから鳴っているのかしばらく不明で困っていたのだが、こないだ自宅でペダルとにらめっこしてようやくその原因を見つけた。
フットボードを担持するカカト側のヒンジにガタがきていたのである。外観では左側の正常なものとの差異は見受けられず、原因がわからない。いくつか芋ネジが付いているのだが、Pearlのパーツリストで見てもこのヒンジはアッセンブリでしか販売されておらず、内部構造がわからない。他のパーツがトラクションプレートだとかビーターホルダーリンクとか随分かっこつけた名付けがされているのに、この蝶番はたんに「ヒンジ一式」である。Pearlのやる気が微塵も感じられない。ソリッドスライディングジョイントとかなんとか付けて差し上げろ。
とりあえず4カ所の芋ネジを全部取り外してみたものの、分解できる気配がない。しかも、この芋ネジが鬼のように固い。そもそも付属のレンチでは外せないサイズの芋ネジなので、外すこと自体が推奨されていない気がするが、自前の安物六角レンチを動員した。レンチ自体が負けるほどの固さで締まっていて、安物レンチは儚くも折れ曲がってしまった。
これで引き下がるのもアレなので(ヒンジ一式で3000円もする!)、細いパイプ状のものに折れたレンチを通してテコの原理でどうにか回した。左右にあるオレンジ色の丸い部分を外せば軸にアクセス出来そうな気配があるが、外し方もよくわからないし、外したら最後もとには戻らなくなりそうな、なんとなく嫌な予感がして、悩みながら色々観察していると、件の鬼のように固いネジを外した奥にオレンジ色が見えた。どうやら、左右のオレンジ色のユニットはこのネジで固定されていたようだ。もうこれは外せという天啓かと思い至り、どう左右のこのオレンジ色の某を外そうかとその方法を思案しながらいじくっていたら、むしろはめ込む側にオレンジ色の物体が動いた。すると先ほどまでカチャカチャ遊びがあったヒンジの動きが同心円状にスムーズに動くように変化した。どうやらこのオレンジ色の部分は軸受けと直結しているらしく、それが外側に緩んでいたことによりガタが出てしまっていたようだ。
こうして、なんだか分解も出来ないまま、偶然うまい具合に固定のネジを緩めて、うまい感じにパーツの位置が調整された。オレンジ色のパーツが外側にせり出さないように押さえながら4つの芋ネジをキッチリ締めたら異音は嘘のように解消された。
以上、役に立つかもわからないデーモンドライブへの所見。強度と靭性だとかの本筋に関係ない話も書いていたらとても長くなってしまった。次回は、私がこれまでツーバスを練習するにあたって上達に貢献した知見について書き綴っていきたいと思う。
あ、インピーダンスだとかの話をするつもりだったのを忘れていた。いかんせん文章が長文化する癖があるので短く簡潔にまとめる術が欲しい。それでは。