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なるモノがnoteのお知らせに流れてきました。
うずくまった布団の中からこんばんわ、ヒエジゴンです。
7月以降はホラーが良く読まれるそうですよ。
そんなわけでホラー話を一つ。
・レンタル品
コレはヒエジゴンがまだ立派な社会人だったある日の話。
一緒に仕事していた別の派遣会社の社員の方、
仮にAさんとしましょうか。
Aさんは、とても調子が悪そうにしていました。
真っ青な顔をしておりどう見ても普通じゃない雰囲気だったので、
「早く帰った方が良いよ、病院にいってみてもらいなよ」
と声をかけました。
その内、明らかに尋常じゃない汗をかき始め、
明らかに焦点のあっていない目でキーボードを空撃ちしだしたのです。
コレは本当にマズいなと、
愛想笑いして相手にしてくれないAさんの肩をつかんで揺すり、
なんとかコチラの意図を伝えると、
フラフラと立ち上がり上司の部屋へと入っていきました。
耳をつんざくような怒号と机を殴打する音が響いたのちに、
ふらりとAさんがもどってくると、
そのままバッグをつかんで帰っていきました。
机の上にはパソコンはまだ火の入ったままで、
そこには意味不明な言葉の羅列が続く仕様書の画面が表示されており。
念のためを思ったヒエジゴンは、そのファイルを別名で保存。
サーバー上のオリジナルのファイルを確認したのち、
そっとパソコンの電源を落として業務にもどりました。
しばらくすると大仰にかぶりを振って上司が現れ
お気に入りの新人社員の机の前で、
帰っていったAさんを盛大に貶しだしました。
周りの迷惑になると思ったのか新人さんが、
タバコ休憩に誘い出し、しばらくの静寂が訪れました。
誓って言うと隣のAさんは貶されるような人ではありませんでした。
プロジェクト参加への日こそ浅く年齢も若かったですが、
年齢不相応と言っていい知識と経験で、
それまで燃え上がっていた問題を次々に鎮火。
「判らないことがあったらAさんに聞け」
とばかりの存在でした。
それに驕ることもなく、
朝は定時にきちんと出社、不意の病欠等も無く。
休憩時間以外には不要な私語もせず、
ソレでいてコミュニケーションも欠かさない。
ありていに言ってヒエジゴンと真逆の存在でした。
タバコから戻って来ても上司は、
「やれプロジェクトが頓挫する」だの
「納期が遅れたらどうなると思っているんだ」などと
まるで世界の終わりかとでも言わんばかりに
芝居がかった動きをしながらメンバーの席を回り。
Aさんの責任だと貶して回っていました。
実際の所そのプロジェクトは、
Aさんのおかげで再度軌道に載ったところが大きく。
それまで赤字続きだった線表は、
初めて予算を満たし、黒字に転じておりましたので。
1日や2日の遅れが何だという状況でした。
その後、定時間際になって、
「明日一日だけお休みをいただきます、
ヒエジゴンさんにお願いがあって~…」
と、体調が悪い中にでしょう、適切な作業指示と、
途中まで作って有った資料についての情報が載せられていました。
同じくらいのタイミングで。
怒号と打撃音が聞こえてきたのは言うまでもありませんでしたが。
翌々日、いつものごとくフレックスで出社してくると、
社内の雰囲気が最悪でした。
廊下はおろか3部屋以上離れたエレベーターホールにまで届く
もはや咆哮とでもいうような罵倒と、
ゴリラのドラミングなど生ぬるい、
硬質なもの同士を打ち付ける打撃音が響いており。
他プロジェクトや他社の人々まで扉を開けて何事かとざわめいている始末。
室内に入ると上司がオペラか歌舞伎かと言わんばかりの大げさな振りで
Aさんを叱咤しておりました、激励は無しです。
たった一日の遅れに何がそんなに気に食わなかったのか。
手に持った指示棒を壁に叩きつけ、
無駄に大きなA3四枚の線表は見るも無残にボロボロになっておりました。
壁の塗装まで剥げ、コンクリートの下地が見えて、
指示棒はもはや二度と使えないであろう程にひしゃげ、
ソレを目の前でひたすら振り回す、
真っ赤な顔をし、泡を吹く奇人に対しても、
Aさんは丁寧な態度を崩さすに、病欠の非礼を詫びていました。
「よそから苦情来てますよ」
とあごひげをなでなで声をかけると。
我に返った奇人は指示棒を床に叩きつけて自室に引っ込みました。
席に着くと、
「昨日はすみませんでした」とAさんが頭を下げてきます。
体調は大丈夫ですか?と聞くと
「本調子ではありませんが、大丈夫です」
と返してくれたAさん、確かに顔いろは戻り、声にも張りがありました。
どうにも始業から1時間、ヒエジゴンが出社してくるまでの間。
上司から突然の休みと業務の遅れについて指摘されていたそうです。
アレを指摘と言うならパワハラと言う言葉はこの国に無いのでしょう。
ちゃんと会社を通して抗議してもらった方が良いですよ。
と伝えると。
「そうですね、相談してみます」
と、頭を下げられて。
それからは定時を過ぎて、
終電の時間で別れるまで一緒に仕事をして、
別れました。
それがヒエジゴンが観たAさんの最後の姿でした。
Aさんがプロジェクトから外れることを、
断末魔の絶叫のような昼礼の業務報告からなんとか聞き取れたのです。
その後数日して上長から、
「Aさんの会社の営業と会話するから立ち会うように」
と連絡を受け、
普段よりつかない外向きの応接室に出向きました。
「Aさんの普段の様子なんかを聞かれるのだろうか?」
「もしくは上司のスケープゴートにされるとか?」
などと思いながら、
珍しく剃り上げた顎を撫でつつ応接間の扉を開けると。
「この度は大変申し訳ございませんでした!」
と耳を割らんかの謝罪と、
土下座一歩手前の腰の角度で吠える営業さんが居らっしゃいました。
それから先は聞くに堪えませんでした。
要約すると。
「Aが壊れて仕事にならくなったんだから、すぐに次を寄越せ」
「この程度で壊れるようなヤツを派遣するとはどういう了見だ」
「会社内での立場が無くなってもいいのか?」
「兎に角コイツ(ヒエジゴン)から業務内容を聞いてすぐに調達しろ」
とのことでした。
上司が消えたのちに営業の方に話を聞くと、
どうも営業さんの居る会社は上司の会社の子会社の様なもので。
一切合切が上の会社に抑えられており。
苦情やらも全て素通りでAさんにつながっていたそうです…
ヒエジゴンが居たそのプロジェクトは結局立ち消えになりました…
あくまでお客様の都合だったのでどうしようもない話でしたが、
最後の最後までAさんの責任だと、後任のBさん含め、
日々上司は怒鳴り散らかしていました。
恐ろしいのはその後。
この上司が「部長職に昇格した」との連絡を受け
その際の祝賀会への参加(強制)とカンパを募られたことでしょうか。
ヒエジゴンはにべもなく断りましたし、カンパも拒否しましたが、
参加者を探す部下の人は
あの時のAさんのような顔色をしていたのを覚えています。
人一人壊しても、大企業ならゆるされる。
リース品の事務用品でさえ、
乱雑な扱いをすれば賠償を求められる時代でも
人一人なら壊しても、壊された側が謝罪しないといけない。
大企業と言う恐るべき存在の実態を知った。
そんなお話しでした。