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ミシュラン三つ星レストランへの挑戦 vol.21
東京・白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。
第四章 レストラン ラ クレリエール
vol.1からご覧いただく場合、あるいは章ごとにご覧いただく場合はコチラからどうぞ
→ 第一章 レストランのシェフになる
→ 第二章 プロの世界へ
→ 第三章 「料理長」を見据えて
21.神様からの贈り物(中編)
陰のディレクター
「独立したら、こういうレストランをやりたい」というイメージは、かなり前から僕の中にありました。そして出来上がったレストラン ラ クレリエールは、僕が描いていたイメージそのものでした。それを一つ一つ実現したのが、マダムです。
当初、マダムは居抜きに反対でした。前店をそのまま引き継げば、必ず自分たちのイメージに合わない部分が出てきます。それをコストと時間をかけて変えるか、妥協してそのままにするかしないといけないからです。でも奇跡的に、前の店はラシェリールだった。クレリエールのイメージにとても近いお店だったおかげで、変更も最小限で済みました。
しかし、実際にイメージを具体化するにはディテールの積み重ねが大切です。たとえばテーブルクロスひとつでもお店の雰囲気は変わってきます。マダムは驚くほど大量のサンプルを取り寄せ、他のファブリックとの兼ね合いや内装や家具を含めた全体のバランスを考えて素材や色味を決め、最適な厚みや手触りの布を選び出しました。大きさも、テーブルからどのくらい垂らすのがクレリエールとしてベストかを考えて決めていました。カーテンやタッセルも同様です。
僕は厨房のことはよくわかるけれどダイニングのことは素人同然なので、ほとんどマダムに任せていたのですが、唯一携わったのは、壁の塗装でした。職人さんが塗りに来る日にどうしてもマダムの都合がつかず、僕が代理で立ち会ったのです。今でも覚えているくらいドキドキしました(笑)。色はマダムが指定したものの、見本と実際に壁に塗った状態では違いがあるかもしれません。でも僕にはマダムがイメージした通りの色合いかどうか分からない。塗装は一発勝負。僕は良いと思っても、後で「違う!」と言われたら・・・。職人さんが帰った後、マダムから無事OKが出た時は心底ホッとしました。
マダムとはフランス修業に行く前からお付き合いをしていて、独立を考え始めた頃から「こんなレストランにしたい」と一緒に考えてきました。そうして二人で作ってきたイメージを、ちゃんと実現化できていたことにホッとしたのです。
偶然の出会いから生まれたシンボルツリー
現在、クレリエールのダイニングの真ん中に置いてあるシンボルツリーも、その誕生にはマダムが大きく関わっています。発端は、マダムがたまたま行ったライブでした。その会場に素敵なオブジェが置かれているのを見かけ、作ったアーティストを探して調べてみたら、表参道にショップを構えるクリエイターの方々だったことが分かりました。早速マダムと二人で会いに行き、クレリエールの話をしてお願いしたところ、快諾。お店のシンボルツリーとして、「森」をイメージしたオブジェを創っていただけたのです。
さらに、窓の外の植え込みづくりもお願いし、“木洩れ日”をもたらすデザインや木々の選定などを手掛けていただきました。ラシェリール時代はタイル敷きに鉢植えが置かれていたのですが、当時に大本シェフが植えた木も1本だけ植え替えて残っているんですよ。クレリエールにいらした際に、どれがその木か、ぜひ当ててみてください。
MESSAGE
『 Quel bonheur!「なんという幸せ」
この時代の日本に生まれ、生かされていること
そして料理を仕事に出来ることの幸せ
料理を通して、お客様、国内外の生産者の方々や
尊敬する料理人と繋がることができる幸せ
この最高の幸せを料理で表現したい
そんな思いでクレリエールを作りました
クレリエールとは、森林に降り注ぐ陽の光を意味します
太陽、風、土、雨
私たちを生かしてくれている
すべてへの感謝を一皿一皿に込めて 』
クレリエールのHPに載せているこのMESSAGEは、マダムが僕の考えを文章にしてくれたものです。
ライブ会場での偶然がシンボルツリーや“木洩れ日”に繋がった時、僕はまるで何か特別な力で応援されているように感じました。そして僕の中のイメージを的確に形にしてくれる上に、そんな偶然をも逃さず掴み取るマダムの存在も、特別な力の応援がもたらしてくれたラッキーに思える、と言ったら言い過ぎでしょうか?(笑)
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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。
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