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【MMPI2RF学習3】RCdの奥にいる実存主義と感情の円環理論

本ノートはMMPI2RFの学びのシェアのためのものです。

1,RCdの登場

 MMPI2RFは基礎尺度がRC尺度(臨床再構成尺度)にかわりました。RC尺度の作成の流れ以前のノートにあります。開発の流れをあらためてみると

RCスケールの開発
RC尺度構成の手順:
1、“士気喪失”をとらえる
2、臨床尺度の弁別的な“コア”成分を定める。
3、弁別的なコア成分の核(seed)尺度を構成する。
4、最終的なRC尺度を抽出する。

http://images.pearsonclinical.com/images/assets/mmpi-2/4_mmpi-2_rc-scales.pdf
MMPI-2のトレーニングスライドより(リンクがみあたらない??)
ページ1~3

 RC尺度をつくるときの4ステップの一番最初に来ているのが"士気喪失”demoralizationをとらえる、です。
 なぜこれが重要かというともともとMMPIのすべてに共通する要因を探している研究がありました(最初はWelshのAでした。前のノート)。MMPI-2RF/3につながる革新をおこなった人が現れます。Auke Tellegenです(Wikipedia。ごく最近なくなられたようです)。Tellegenが発見し、新たな基礎尺度の開発に導入していった概念がdemoralizationでした。
 Tellegenが依拠したのは一つはジェローム・フランクの研究、もう一つは自らの感情の研究です。

2,ジェローム・フランクのdemoralization


 ジェローム・フランクは、「説得と治療:心理療法の共通要因」の著者。いわゆる心理療法の統合理論で有名なのでしょう。学派によらない心理療法の共通因子をさぐっていました。(Wikipediaでは、ここ。日本のページだと法学者が出てきてしまうけれど、ちがいます。)。「フランク」と「デモラリゼーション」で検索すると、デモラリゼーションについてまとめてある論文もでてきます。大阪大のアーカイブですが、特にフランクについてがよくまとめられています。以下フランクのdemoralizationについて。

Frank (1974) は心理療法がうまくいく重大な側面としてモラールの回復を説明した。彼はデモラリゼーションを無気力、孤立、絶望の感情に関係するストレスに持続的に対処できないこととして概念化した。

デモラリゼーションに関する研究の動向. 森田敬史. 生老病死の行動科学. 2006, 11, p. 95-110
https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/5122/11_10.pdf

  MMPIにおける臨床尺度を超えた共通因子、患者と非患者を分ける、根本的な核となる要素は、demoralizationであろう、というのがTellegenの発見なのでしょう。
 上記の森田論文を見ると、基本的には実存主義的な発想をもとにしていることがわかります。医学的診断分類というよりも、普遍的な人間個人の実存(存在のありよう)を見ようとする視点が背後にあります。
 そして、フランクその人も、

生きることに重大な意味づけをおこなっている Frankl(1959) の認識から疑いなく影響を受けているため、 Frank (1974) は治療をすすめるために希望を高めることが重要であると強調した。

デモラリゼーションに関する研究の動向. 森田敬史. 生老病死の行動科学. 2006, 11, p. 95-110https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/5122/11_10.pdf

 実存分析・ロゴセラピーの祖、フランクルの影響を受けています。MMPIのような、非常にプラグマティックな作り方を基礎にしていたのだけれど、ここにきて「実存主義」が背後にみえるとは驚きます。
 とはいえ、実際の尺度測定が、RCd尺度の高さが意味するものが、いつでも「実存的危機」や「実存神経症」を示している、というわけではありません。実感では、不安抑うつ関連の状態を広く射程にとらえ、一部にときに「実存的問題」を内包しうる、という感じではないかと思います。(ちなみに実存的問題を望むならばPILテストがあります)

3、Tellgenの感情の円環理論

 Tellegenは、demoralizatonがMMPIの過度な尺度間の相関を説明する共通因子だと考え、さらに理論を再構築していきます。自らの感情と、パーソナリティ、精神病理に関する研究を導入していきます。感情の円環理論です。
 感情とは何かを探求する感情心理学の基礎的なモデルの一つのようです。「肯定positive affect・否定」をXY軸とするなら、その軸を45度回転させたところに「快Pleasantー不快Unpleasant」軸、「活性strong engagementー不活性disengagement」軸の2軸を置きます。まるで6人で切り分けたケーキのような図。感情を説明しようとするもの、なのでしょうね。図にしてみると


             高・肯定的感情
                                               hige positive affect

            快                 強・活性
                     pleasant                                          strong engagement

低・否定的感情                                                                      高・否定的感情
low negative affect                 high negative affect
   
               非・活性              不快
      disengagement                                          unpleasant

                                               低・肯定的感情
              low psitive affect

             図1 Tellegen&Watoson Circumplexモデル

 pennstate大学のオープン教科書にはしっかり説明してあります。
 円環モデルの「快・不快」軸 pleasant-unpleasantが、demoralizationに該当するとTellegenはとらえたようです。
 ちなみに、Tellegen&Watosonの感情理論をもとにし他尺度PANASが作られており日本語版もあります。感情心理学界隈じゃあ、それなりに知られているのかしらん。臨床村で生息しているとよくわかりません。はたしてこの図こそが、人間の感情なるものをよく説明しているのか・・・というのもぼくにはピンとこないんです。
 ただ、今まで基礎理論、背後の背骨がなかったMMPIに基礎となる概念が入ってきた、というのは革新的といえます。基礎尺度がRC尺度になる、のは大きな変革、なんでしょうね。

4,おわりに

 MMPIといえばプラグマティックな俗っぽく言えば「ザ・アメリカ」な発想をもとに作られている!というイメージだったのだけれど、基礎理論がはいりあらたな道を進んでいる、のでしょうか。基礎の源流に、実存主義やフランクルが出てくる。研究はいつも「巨人の肩にのる」のだなあ、などとおもっていました。

(参考文献)
Interpretating the MMPI2RF Yossef S.Ben-porath 2012 the university of minesota press

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