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【MMPI2RF学習4】MMPIと発達障害の私的レビュー② ~ADHDの偽装

 本ノートは、MMPI使用者向け。MMPIと発達障害についての気楽なレビュー。レビューっぽくまとめた論文の皆さんの紹介です。系統だってなんてないです。前回の続き。


3,ADHDの偽装

 ADHDとMMPIの研究を探してると結構でてくるのがfaigningとかmailingeringとかのワードで、MMPIでADHDを偽装した、すなわち「ニセADHD」を割り出す研究が出てきます。以前どこかで聞いた話だけれど、海外の大学では発達障害診断を持っていると、単位取得などに配慮が得られ、それはすなわち「簡単に単位とれる」のであって、「ニセ発達障害」を目指す人がいるとのこと。まじか。日本だと「発達障害になりたい」人、なるメリットはみえないようにもおもうけれど、自分の不全感を証明すべく「なりたい」と思われるような人はいるとおもうのです。意図した「発達障害になりたい」じゃないにしても。

(1)ADHDシュミレーション vs 2RF

目的:MMPI-2-RF の妥当性尺度が、ADHD のふりを検出するのに有用であるかどうかを調査するため、シミュレーションデザインを採用した。
方法:再構成臨床 (RC) 尺度と妥当性尺度におけるグループ間の違い、および 3 つのカットスコアにおける妥当性尺度の分類能力を調べた。分析は、5 つのシミュレーション グループ (N = 177) と標準指導グループ (N = 32) にわたって実施した。
結果:ほとんどの RC 尺度と妥当性尺度において、ADHD をふりをしている人は標準指導グループよりも有意に高いスコアを示したが、一般にふりをしているグループ間に有意差は認められなかった。ふりをしている ADHD を検出するのに最も有望な尺度は、カットスコアが それぞれ70 T~ 80  Tの範囲にある F-r、Fp-r、および Fs であった。
結論:結果は、ADHD 評価における MMPI-2-RF の使用を支持しており、F-r、Fs、および Fp-r のスコアは、大学生の偽装 ADHD を検出するのに特に有用である。ただし、明確な ADHD 症状の発現を偽装することを裏付ける証拠はありませんでした。

Cole Morris et al(2023) Detecting feigned ADHD in college students using the Minnesota Multiphasic Personality Inventory-2-Restructured Form (MMPI-2-RF)
The Clinical Neuropsychologist Volume 37, Issue 6
google翻訳より、一部筆者修正

  研究がシュミレーションデザイン(simulation design)ってことはおそらく大学生かなにかに、ADHDについて講義して「ADHDのふり」をしてもらってMMPI2RFを記入してもらう、っていうやりかたではないかとおもいます。そうするとなになに、F-r,Fs,Fp-rが高くなってる(T=70~80)という違いが。尺度的には、精神症状への過剰報告を測定するもの。ADHDのつもりでいる/ふりをすると「過剰報告」気味、になるのかもしれません。

(2)Ds-ADHDの開発

目的:ADHDの心理学的評価では、ADHD 症状の偽装や注意力測定における模擬の障害(simulated dificit)の可能性を考慮する必要があります。研究では、やる気のある被験者は簡単に ADHD を偽装できることが一貫して判明しており、その検出に焦点を当てた研究はほとんどありません。
方法:本研究では、被験者間シミュレーションデザインにより、大学生のサンプルで MMPI-2-RF と Conners Infrequency Index (CII) を調査し、偽装 ADHD群、偽装精神障害群、本物の ADHD群、非 ADHD 対照群の 4 つのグループを比較しました。
結果:CII では、偽装 ADHD と (a) 本物の ADHD (d = 0.97)、および (b) 偽装精神障害 (d = 0.96) との間で中程度の識別性が示されました。 MMPI-2-RFのF関連のスコア(F family score)では、ADHD のふりをする人と、そうでないふりをする人、あるいは本物の ADHD を区別できなかった。そのため誤ったステレオタイプを検出戦略として利用し、偽装 (Ds) ADHD (Ds-ADHD) スケールが開発されました。クロス検証が必要でしたが、初期データでは、偽装 ADHD と本物の ADHD および一般的な偽装を区別する上で優れた判別妥当性が示されました。
考察:ADHD 評価では、受験者の努力レベルを体系的に考慮し、偽装 ADHD の可能性を積極的に評価する必要があります。

Robinson,E & Rodgers,R.(2018) Detection of Feigned ADHD across Two Domains: The MMPI-2-RF and CAARS for Faked Symptoms and TOVA for Simulated Attention Deficits
Journal of Psychopathology and Behavioral Assessment 40(3)
google翻訳をもとに一部筆者加筆修正

 これも大学生をつかったシュミレーションの研究だけれど、この研究でDs-ADHDなる尺度をRobinsonらはつくってるわけです。「誤ったステレオタイプを検出戦略」ということはおそらく、典型的にADHDっぽくみられるような”ずばりADHD!”的イメージ、だけれどもほんとはちがうぞ、という項目内容を選んでいのでしょう(たぶん)。これ以降、結構このDs-ADHDって研究に使われています(Califano,2023Barly,2023、とか)。
 項目番号みつかれば、T値こそ出ないけれど有用性がでますね。カットオフ値の研究もでているし(Andrews,2020)。(DS-ADHDの項目番号を見た記憶があるけれどネットの海に落としてしまった。みつからない)。

 余談だけれどCII。なにこれ?Conners尺度の中の妥当性尺度(Suher,2011)。CAARSに組み込まれた尺度です。日本では研究されていないので使えませんが、CAARSはMMPIとバッテリーくまないで利用することも多そうだから使えると便利そうですよね。上記の研究からしたらさ、CIIがMMPIの妥当性尺度的に理解できるかもしれない。CAARS的な尺度って、ほっとくとやったらめったら上がっちゃう印象。過剰報告、ってことなんだろうけれど。

4,ADHDのまとめ

 MMPIでADHDを診断的に切り取ろうっていうような研究はあんまりないみたいですね。いくつかはある。ひょっとしたら尺度全体が上がったり、COGが使えるのかも?ということ。
 むしろ、ニセADHDを探すっていう研究が熱くみえる。やっぱさ、妥当性尺度の切れ味がいいってことじゃないでしょうかね。そうよ「過剰報告」。「過剰報告」は心理検査の現場にはときに表れてる現象。けれど「過剰報告」をという概念をだしてきたのは(ぼくがしるかぎり)MMPIの研究してる人たち(Greeneじゃないかとおもってる)。そう、MMPIこそが「ADHDの過剰報告」を切り取れる=ニセADHDを洗い出す!こういう図式があるのではないでしょうか。

つぎは、ASDについて。

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