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中国における6G技術の包括的サーベイ(83,694 文字)
1. はじめに
1.1 調査背景・目的
第5世代移動通信 (5G) の商用化が進む中、その次となる第6世代移動通信 (6G) に対する世界的な研究開発競争が加速している。中国政府および企業も、5Gで築いたリーダーシップを踏まえ、いち早く6Gの研究開発に着手している (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld)。本調査の目的は、中国における6G技術の最新動向を把握し、技術的特徴や市場への影響、さらにグローバルな文脈での中国の位置付けを分析することである。加えて、政策や企業戦略上の課題を整理し、今後の展望について考察する。
1.2 技術の概要(6Gの定義・歴史的経緯)
6Gの定義: 6Gとは、第6世代の移動通信システムを指し、「万物智联」(あらゆるものが知能的に連接された世界)の実現を目標とする通信技術である (万联证券-通信行业周观点:5G渗透率已达六成,IMT-2030(6G)推进组发布6G白皮书-220725.pdf)。5Gが「モノのインターネット (IoT)」による万物の接続を志向したのに対し、6Gでは高度なAIによる知能化と現実空間とデジタル空間の融合が重要な特徴となる (《6G总体愿景与潜在关键技术》白皮书发布 (附解读下载) - 安全内参 | 决策者的网络安全知识库)。6Gは現実世界のあらゆる物体や空間をリアルタイムでデジタル双生(デジタルツイン)化し、人とモノ、さらには仮想世界のシームレスな統合を目指す (《6G总体愿景与潜在关键技术》白皮书发布 (附解读下载) - 安全内参 | 决策者的网络安全知识库)。例えば、5Gで実現された「万物互联」(あらゆるものの相互接続)から一歩進み、6GではAIを組み込んだ**「万物智联」**への飛躍を果たすとされる (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld) (万联证券-通信行业周观点:5G渗透率已达六成,IMT-2030(6G)推进组发布6G白皮书-220725.pdf)。これは、人々の生活の質をさらに向上させ、社会の持続可能な発展にも貢献する壮大なビジョンである (《6G总体愿景与潜在关键技术》白皮书发布 (附解读下载) - 安全内参 | 决策者的网络安全知识库)。
歴史的経緯: 移動通信技術は約10年ごとに世代交代を繰り返してきた。1980年代の1G(アナログ音声通信)に始まり、1990年代の2G(デジタル音声とSMS)、2000年代の3G(データ通信の本格化)、2010年代の4G(モバイルブロードバンドとスマートフォン普及)を経て、2020年代には5Gが登場した。5Gでは高速・大容量通信に加え超低遅延・多数同時接続が可能となり、IoTや産業利用を含めた**「通信の社会インフラ化」が進展した (万联证券-通信行业周观点:5G渗透率已达六成,IMT-2030(6G)推进组发布6G白皮书-220725.pdf)。5Gの成功を土台に、研究者・業界は早くも2010年代末から6Gの構想を描き始め、2030年頃の商用化を目標に掲げている (Samsung Electronics Unveils 6G White Paper and Outlines Direction for AI-Native and Sustainable Communication – Samsung Global Newsroom)。中国でも5G商用サービス開始直後の2019年11月に政府主導で6G研究開発が公式にキックオフされており (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld)、これは当初予定の2020年より前倒しされた動きだった。以降、6Gは中国の「十四五計画」**においても戦略的優先事項として位置付けられている (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld)。
各国の標準化機関は現在、6Gの要件やビジョンの策定を進めており、ITU(国際電気通信連合)のIMT-2030枠組みの下で2030年までの標準確定が見込まれている (Samsung Electronics Unveils 6G White Paper and Outlines Direction for AI-Native and Sustainable Communication – Samsung Global Newsroom)。業界団体3GPPも2025年前後から6G標準化に向けた技術評価を本格化させる見通しで、世界的な6G開発競争が本格的に展開されつつある。
2. 中国における現状
2.1 中国市場の特徴と背景
5Gから6Gへの早期移行: 中国は5G時代において世界最大の通信市場かつ主要な技術提供国となった。習近平政権は5Gインフラ整備を国家戦略として推進し、2021年末時点で全土に143万局以上の5G基地局を配備し世界の60%以上を占めたと報告されている (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld)。こうした5G展開の成功を背景に、中国は5G商用化開始からわずか1か月後の2019年11月には6GのR&Dプロジェクトを公式に立ち上げ、次世代通信へのシフトを他国に先駆けて開始した (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld)。この迅速な着手は、グローバル標準化における主導権確保と技術覇権の維持を狙ったものであり、中国市場の積極性を示す象徴的な動きである。
巨大な内需と産業連動: 中国には14億を超える人口と膨大なモバイルユーザが存在し、新技術を受容する市場規模が他国に比べ突出して大きい。スマートシティ、スマート工場、コネクテッドカーなど、国内で進行中のデジタル経済プロジェクトは6Gの潜在的ユースケースと親和性が高く、市場からの底支えとなっている。中国移動(チャイナモバイル)の予測によれば、2025年までに5Gが国内で引き起こす関連市場規模は約10兆人民元に達し、6G商用化後にはそれを上回る更に巨大な市場需要が喚起されるとされる (6G概念股又大涨,超10万亿市场的三大机遇 - OFweek光通讯网)。つまり、中国市場は旺盛な需要とスケールメリットによって6G技術の実装・展開を強力に後押しする素地を備えている。
国内外技術潮流との連動: 中国の6G開発は国内事情だけでなく、グローバルな技術トレンドとも連動している。5Gまでは欧米や日本に一歩遅れて追随する立場だった中国だが、5Gで主導権を握った経験から6Gでは「先頭を走るか、少なくとも最先端グループの一角を担うか」という積極的な姿勢に転換している (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld)。例えば、中国と同様に6Gを重視する韓国やフィンランドの研究機関と共同プロジェクトを開始するなど、国際協調による知見取り込みも模索している (South Korea aims to launch first commercial 6G networks in 2028 | UKTIN)。一方で、自国技術への制裁リスクを抱える米国などの動向も注視しつつ、自律性と国際性のバランスを取る戦略をとっている。総じて中国市場は、「国家主導のトップダウン戦略」と「市場起点のボトムアップな需要」の両輪によって6Gへの移行を特徴付けている。
2.2 主要プレイヤーと研究機関
中国における6G開発には、通信機器メーカー、大手通信事業者、ITプラットフォーム企業、大学・研究所といった多様なプレイヤーが参画している。主要な担い手とその動向を整理する。
華為技術 (Huawei): 5Gで世界をリードした華為は、2019年に中国企業として最初に6G研究開始を宣言した (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld)。以降、中興(ZTE)や海外メーカー(NokiaやEricsson)とも提携しながら研究を進めている (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld)。Huaweiは2021年に研究開発費として2,210億元(約221億ドル)を投じており、この金額は同年のEricssonの約20倍に相当する (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld)。これは米国制裁下でもR&D投資を惜しまない戦略を示している。Huaweiの徐直軍・輪番会長は「2030年に6Gを商用化する」と明言し、その速度は5Gの50倍に達するとの見通しを示した (50 times faster than 5G, Huawei's 6G launch set for 2030 - CGTN)。さらに同社は6Gの定義やビジョンに関するホワイトペーパーの公開計画も表明し、業界の方向性に影響力を持とうとしている (50 times faster than 5G, Huawei's 6G launch set for 2030 - CGTN)。Huaweiは知的財産面でも突出しており、日経などの調査によれば世界の6G関連特許の約40%が中国から出願されており、その多くはHuaweiによるものと報じられる (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld)。加えて、衛星通信との連携も視野に入れた独自試験を進めているとされ、総合的に6G技術競争の先頭集団に立つプレイヤーである。
中興通訊 (ZTE): 中興もHuaweiに次ぐ通信機器大手として6Gに注力している。既に複数の6G候補技術について、IMT-2030(6G)推進グループ主催の試作検証テストにおいてプロトタイプ実験に成功したと発表している (众多公司布局6G 预计2040年全球6G市场规模超过3400亿美元_深圳新闻网)。例えばテラヘルツ帯無線や可視光通信などいくつかの有望技術で実証成果を収めた模様で、これは中国国内での官民共同の技術検証プロジェクトの一環である。またZTEは「5Gおよび5G-Advancedで培った技術優位性の多くは6Gでも継承可能」としており (众多公司布局6G 预计2040年全球6G市场规模超过3400亿美元_深圳新闻网)、現在の延長線上にある技術進化と新技術の融合の双方でリーダーシップを維持する構えだ。中興通訊自身も6G関連特許を積極的に出願しており、中国全体で見てもHuaweiに次ぐ主要な特許保有企業の一つとなっている。
中国移動 (China Mobile): 中国三大通信キャリアの一角であり、6Gインフラ整備の主体となる企業である。自社研究所において6Gのネットワークアーキテクチャや無線技術を検討しており、2024年1月には世界初の6G通信アーキテクチャ検証衛星を打ち上げた (China launches world’s 1st satellite to test 6G architecture: State media)。この低軌道衛星は、軌道上にコアネットワーク機能を実装し自律制御する実験的システムで、中国移動と中国科学院の微小衛星イノベーション研究院が共同開発したものである (China launches world’s 1st satellite to test 6G architecture: State media)。衛星を用いることで地上通信網のカバー範囲を拡大し、高速大容量の衛星インターネットサービスを提供できる可能性を探っている (China launches world’s 1st satellite to test 6G architecture: State media)。さらに中国移動は社内に6Gユニットを設置して全方位の研究を進めており、6G時代のサービス創出に向けた取り組み(例: XRサービスや車車間通信プラットフォーム等)も始めている。国内最大手キャリアとして、国家プロジェクトであるIMT-2030推進グループの中心メンバーでもあり、標準化や産学連携を主導する立場にある。
中国電信 (China Telecom): 2022年12月に**「6G願景與技術白皮書」(6Gビジョンと技術ホワイトペーパー)を公開し、自社の考える6G像を提示した (众多公司布局6G 预计2040年全球6G市场规模超过3400亿美元_深圳新闻网)。これは中国キャリアとして初めての6G白書であり、6Gの潜在利用シナリオやネットワーク技術について展望している。中国電信は5Gでも産業応用に積極的であった経緯から、6Gでも産業界との協働による新サービス開拓を狙っている。例えば産業IoTや遠隔制御、クラウドXRといった領域を重視しているとされ、関係企業やスタートアップと6Gラボを立ち上げて実証実験を始めつつある。また、電信は量子通信**技術にも取り組んでおり、6Gの超安全通信への応用も視野に入れている可能性がある。こうした動きは通信事業者がネットワークインフラ提供に留まらず、サービスイノベーションの主体としても役割を果たそうという戦略の表れと言える。
中国聯通 (China Unicom): 3大キャリアの中で最も規模は小さいが、近年はインターネット企業との提携で存在感を示している。2023年4月にはTencent(騰訊)との合弁会社「雲舟時代科技」を設立し、エッジコンピューティングやAIプラットフォームサービスで協力する体制を構築した (China Unicom, Tencent form joint venture)。聯通はネットワーク資源を提供し、TencentはクラウドやAIの能力を提供する形で、デジタル政府やAI産業向けの新サービスを模索している (China Unicom, Tencent form joint venture)。5GではTencent等からの出資を受け入れた経緯もあり (China Unicom, Tencent form joint venture)、通信とITの融合戦略を先行している。6Gについても、聯通の劉烈宏CEOが「2025年までに技術研究を完了し、初期アプリケーションを開始、2030年から商用化」とのロードマップを示しており (China Unicom, Tencent form joint venture)、他キャリアと歩調を合わせた開発を進めている。聯通は規模面で劣る分、官民連携や迅速な意思決定で特色を出し、6G時代に新たな事業領域を確立する狙いがある。
大手IT企業 (Tencent・Alibaba・Baiduなど): 通信キャリアではないものの、クラウドやプラットフォームサービスを提供するITジャイアントも6Gエコシステムの一翼を担う可能性が高い。Tencentは上述のようにキャリアとの協業を深め、将来の6Gネットワーク上で動作するメタバースやクラウドゲーム等のサービス展開を視野に入れている。またBaiduやAlibabaもそれぞれAIクラウドやIoTプラットフォームを持ち、6G時代のデータ需要増大を商機と捉えている。例えばAlibabaは次世代ネットワーキング技術に関する研究機関を社内に設置し、BATH(百度/Alibaba/騰訊/華為)連合で通信プロトコルの知財獲得を進める動きもある。加えて、各社とも自動運転やスマート家電など垂直領域を抱えており、6Gのユースケース創出で重要な役割を果たすだろう。彼らは6Gインフラそのものを構築はしないが、**「6G上で何をサービス提供するか」**という観点から主要プレイヤーとして台頭している。
研究機関・大学: 中国では国家主導の研究プロジェクトとして、IMT-2030(6G)推進組が組成されている。これは工信部(工業信息化部)や科技部など複数の政府部門に加え、37の大学・研究所・企業が参加する大規模なコンソーシアムで (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld)、6Gに関する基礎研究から標準化準備までを協調して進めている。中心的な研究機関としては、中国信息通信研究院(CAICT)が6G白書の取り纏めや標準検討をリードしており (《6G总体愿景与潜在关键技术》白皮书发布 (附解读下载) - 安全内参 | 决策者的网络安全知识库)、清華大学・北京郵電大学・東南大学などの名門校が無線工学やネットワーク技術の最先端研究を担う。また紫金山実験室(南京、紫金山実験室)は政府支援の6G専門研究拠点であり、2022年にテラヘルツ帯で世界最速となる実効206.25Gbpsの無線伝送実験に成功したと発表した (Chinese lab says it made a breakthrough in 6G mobile technology as global standards-setting race heats up | South China Morning Post)。この成果はテラヘルツ(300GHz~3THz)帯域の実時間通信における世界記録であり、6Gのキー技術である超高速無線の可能性を示した (Chinese lab says it made a breakthrough in 6G mobile technology as global standards-setting race heats up | South China Morning Post)。プロジェクトは政府の6G特別プロジェクトの支援を受け、中国移動や復旦大学と協力して達成された (Chinese lab says it made a breakthrough in 6G mobile technology as global standards-setting race heats up | South China Morning Post)。また**電子科技大学(UESTC)**は小型6G衛星「Star Era-12」(別名UESTC衛星)を打ち上げ、テラヘルツ通信ペイロードの軌道上実験を実施している (China launches what it claims to be the first 6G test satellite - Welcome to 6GWorld)。この衛星はADASpaceという民間企業との協働で製造され、重量70kgの小型衛星にテラヘルツ送受信機を搭載し、スマートシティや災害監視への応用も試みられている (China launches what it claims to be the first 6G test satellite - Welcome to 6GWorld) (China launches what it claims to be the first 6G test satellite - Welcome to 6GWorld)。他にも中国科学院下属の各研究所が光通信・量子通信・新材料デバイス等の観点から6G基盤技術研究を進めており、産学研が一体となった技術エコシステムが形成されている。
以上のように、中国の6G開発は**「華為・中興」といった機器メーカー、「三大通信キャリア」、「BAT等IT企業」、そして「大学・国家研究機関」**がそれぞれの強みを活かしながら多層的に推進している。特にHuaweiやZTEの存在感が大きいが、通信事業者や研究界の取組も不可欠であり、官民挙げてのオールチャイナ体制で国際競争に臨んでいる状況である。
2.3 政府の政策動向と規制枠組み
国家戦略としての6G: 中国政府は6Gを「新たな国家競争力の源泉」と位置付け、政策的支援と規制整備に乗り出している。2021年、中国共産党第19期中央委員会で採択された第14次五カ年計画(2021-2025)には、6G研究開発の推進が明確に盛り込まれ、次世代移動通信技術の先行開発が国家目標となった (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld)。計画策定段階で6Gは戦略的新興産業の一部として注目され、2021年1月に計画の詳細が発表された際には「6Gが新世代移動通信のトッププライオリティ」として強調されている (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld)。また工業情報化部(MIIT)は2022年に「6G技術の研究開発を加速する」旨を公式に表明し、関連する官庁横断の協調体制を構築している (众多公司布局6G 预计2040年全球6G市场规模超过3400亿美元_深圳新闻网)。具体的には、IMT-2030(6G)推進組の設立(2020年)や国家重点研究開発計画での6Gテーマ設定など、政府主導のプロジェクト資金投入が行われている。推進組には工信部・発改委・科技部など複数省庁が参加し、政策・標準化・技術開発を統括している (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld)。このように中国では6Gが明確に国家戦略の一部として認識され、政府の強力なバックアップの下で開発が進められている。
資金支援とインセンティブ: 政府は6Gに関連する研究開発や起業に対し、税制優遇や補助金などのインセンティブも提供している。習近平国家主席は2015年に打ち出した「双創(大衆起業・万衆革新)」政策の延長線上で、6Gを含む先端技術分野のイノベーション支援を表明している (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld)。例えば国家自然科学基金(NSFC)では6G関連の基礎研究課題が公募され、大学・研究機関への研究費配分が行われている。また地方政府レベルでも、広東省や江蘇省などが独自の6G研究補助プログラムを創設し、地域の企業・大学に資金供与している。深圳や杭州などテック企業が集積する都市は6Gテストベッド都市を名乗り、実証実験への補助や施設提供を表明した。さらに中国版SBIRにあたる「科技型中小企業技術革新基金」でも6G応用関連のスタートアップが重点支援対象となっており、ベンチャーキャピタルによる投資も促進されている。このように、多段階の資金メカニズムによって6G開発の経済的基盤が下支えされている。
標準化と国際協調: 政策面では、6G国際標準の策定主導も重要視されている。中国政府は、5Gで培った標準化能力(3GPPやITUでの提案採択実績)を6Gでも発揮すべく、標準化団体への専門家派遣や企業の知財活動を奨励している (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld)。IMT-2030推進組はホワイトペーパーの公表を通じて中国の6Gビジョンを対外発信しており、6G標準候補技術の提案や要件整理に積極的な役割を果たしている (《6G总体愿景与潜在关键技术》白皮书发布 (附解读下载) - 安全内参 | 决策者的网络安全知识库)。例えば2021年6月には**「6G総体ビジョンと潜在的关键技術」白書を発行し、中国としての8大ユースケースと10大技術分野を提示した (《6G总体愿景与潜在关键技术》白皮书发布 (附解读下载) - 安全内参 | 决策者的网络安全知识库) (《6G总体愿景与潜在关键技术》白皮书发布 (附解读下载) - 安全内参 | 决策者的网络安全知识库) (《6G总体愿景与潜在关键技术》白皮书发布 (附解读下载) - 安全内参 | 决策者的网络安全知识库)。これらの文書はITUや他国にも共有され、国際標準化議論にインプットされている。さらに中国は、自国の企業・大学が海外の6G研究プロジェクトに参加することも奨励している。欧州のHexa-Xプロジェクトや米国ATISのNext G Allianceへの情報提供など、「中国提案をグローバル標準に反映させる」**ための外交的取り組みも展開中である。もっとも政治的緊張の高まりから一部には対立も予想されるが、中国政府としては可能な限り国際協調路線を維持し、6G標準で孤立しないよう留意しているとみられる。
安全保障・情報統制の観点: 6Gは通信インフラのみならず、センシングやAIを含め社会の隅々に浸透する技術であるため、中国当局は国家安全保障上のインパクトにも注目している。中国政府にとって通信ネットワークは情報統制やサイバーセキュリティの根幹に位置し、5Gではファーウェイ製品排除など安全保障リスクが国際問題化した経緯がある。それだけに、6Gでは自国で統制可能な技術体系を築くことが政策上の要請となっている。一つの表れが「网络内生安全(ネットワーク内蔵型のセキュリティ)」という6Gキーテクノロジーコンセプトで、ネットワーク自体にセキュリティ機能を組み込みサイバー攻撃に強靭な構造を実現しようとしている (《6G总体愿景与潜在关键技术》白皮书发布 (附解读下载) - 安全内参 | 决策者的网络安全知识库)。具体的には、量子暗号やゼロトラストアーキテクチャの導入、AIを用いた異常検知などが検討されている。また中国の法律(ネット安全法やデータ安全法)は、通信事業者に対し政府機関へのデータ提供やトラフィック監視への協力を義務付けており、6Gでも同様の枠組みが適用される見通しだ。つまり政策面では、6Gインフラを国家の統制下で安全に運用するための法制度整備も進むと考えられる。もっとも、こうした取り組みはプライバシーや国際的相互接続に課題を生む可能性もあり、技術的実現性と社会的受容性の両面を考慮した精緻な政策設計が求められる。
米中対立下の対応: 米国による中国ハイテク企業制裁(エンティティリスト)や輸出規制の影響は6G分野にも及んでいる。特にHuaweiは先端半導体の入手が制限され、6G機器製造に必要な最先端プロセスのチップ調達に不確実性がある。この状況に対し、中国政府はサプライチェーン自立を6G政策の柱に据えている。国内で半導体製造能力を高め、装置・部品の国産化率を上げるための投資(「大基金」など)を推進し、将来的に米国技術に依存しない6G開発を目指している。さらに、米主導の標準化プラットフォームから排除されるリスクに備え、標準必須特許の先行取得や中国主導の標準団体(例えば中国通信標準化協会等)の活動強化も図っている。習近平国家主席は米国の制裁にも屈しない姿勢を示し、国有企業や大学を総動員して技術開発を継続するよう呼びかけている (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld)。実際、中国は5Gでの制裁を受けても失速せず、むしろ国家総力戦的な体制強化で6G開発を加速させているとの指摘もある (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld)。このように米中対立は中国の6G政策に大きな影を落としているものの、中国側は「自主創新(自律的イノベーション)」を旗印に逆風を跳ね返そうとしている。
2.4 中国特有の課題と機会
課題:
先端半導体・部品の調達リスク: 前述のとおり、6Gのキーコンポーネントとなる高周波半導体や高性能DSPなどで、米国の輸出規制による供給不安がある。国内での代替技術開発が急務だが時間を要し、短期的にはハードウェア面のボトルネックになり得る。この課題は6G基地局や端末の量産時期に直接影響し、商用化スケジュールを左右しかねない。
国際標準の主導権争い: 米欧韓日も6G標準化に注力しており、中国が提唱する方式がどこまで受け入れられるか不透明だ。仮に地政学的理由で中国提案が敬遠されると、標準から疎外されるリスクもある(技術ブロック化の懸念)。その場合、中国は独自方式を国内や一部諸国で展開する可能性もあるが、市場規模が分断され経済効率が低下する。国際協調と自主主導のバランスを取ることが課題となっている。
技術的難題の克服: 6Gで期待されるテラヘルツ通信や超大規模アンテナ、人工知能統合ネットワーク等は、未だ実験室段階の技術が多く、実用化・大規模展開には多くの研究課題が残る。例えばテラヘルツ波の伝搬距離問題、超低遅延制御のネットワークアルゴリズム、AIの信頼性や消費電力など、多くのブレークスルーが必要だ。特に**「2030年商用化」**というタイトな目標を考えると、今後数年(2025年頃まで)の間にこれら難題を解決できない場合、計画の見直しや性能目標の引き下げを迫られる可能性もある。
コストと投資回収: 5Gインフラ整備ですら莫大な費用を要した中、中国の通信事業者は6Gで更に大規模かつ高コストの投資を覚悟せねばならない。超高密度基地局配置や衛星導入など、6Gネットワーク実現には5G以上のCAPEXが見込まれる。一方で5Gの現時点での投資回収も道半ばであり、6Gの収益モデルが不透明な中で巨額投資を行うことにはビジネス上の不確実性が伴う。政府の支援があるとはいえ、投資効率と商業的持続性は大きな課題となる。
プライバシー・セキュリティ: 6Gは通信と同時に高精度のセンシング機能も備えるため、個人や企業のデータがより包括的に収集・分析される可能性がある。中国当局にとっては治安維持に有用な反面、利用者プライバシーへの影響や悪用のリスクも増大する。例えば高解像度な位置情報や環境情報がリアルタイムで取れるようになると、監視社会化が進むとの懸念がある。技術的にも、より複雑化したネットワークは新たなサイバー攻撃経路を生み出す可能性が高く、セキュリティ対策の高度化が不可欠だ。中国は国家主導でセキュリティを確保しようとしているが、標的型攻撃や内部からの脅威など全てを防ぐのは難しく、この点も課題である。
機会:
市場規模と先行者利益: 中国は世界最大の移動体通信市場であり、6G商用サービス開始時には真っ先に数億規模のユーザ基盤を獲得できる潜力がある。これは規模の経済を生み、デバイス価格低減やサービス多様化を加速させる。また中国国内需要の大きさは、自国企業がまずホーム市場で十分な収益を上げ、その収益をもとに海外展開や次世代投資に充てられるという先行者利益をもたらす。仮に6G標準が一部独自色を持っても国内需要だけでビジネスが成り立つ可能性があり、技術展開のリスクを下げるメリットもある。
豊富なユースケース創出環境: 中国はスマートシティ建設やデジタル政府、産業のIoT化など国家プロジェクトが多数進行しており、6Gの新機能を実証する実験場に事欠かない。例えば、広州のスマート交通プロジェクトや上海のデジタルツイン都市計画、農村部のスマート農業など、6Gで想定される応用シナリオがすでに存在する。これら実プロジェクトと6G研究を連携させることで、具体的なユースケース駆動の技術開発が可能になる。早期に有望事例を積み上げることで、グローバルにも「6Gで何ができるか」を示すことができ、中国発のユースケースが標準や市場をリードする好機となり得る。
人材と研究リソース: 中国には通信工学・計算機科学分野で膨大な数の技術者・研究者がおり、人材面の裾野が非常に広い。例えば中国通信学会には数万人規模の会員がいて6G研究会も活発に活動している。また毎年輩出されるSTEM分野の大学卒業生・博士の数は世界一であり、将来的に6G開発を支える要員の確保には事欠かないと見られる。さらに政府は若手人材の育成にも注力しており、海外留学経験者の呼び戻し(「千人計画」等)を通じて国際経験豊富な人材も取り込んでいる。こうした人的資源の豊富さは長期的な技術競争力の源泉であり、6Gにおいても中国の強みとなる。実際、6G関連の科学論文数や特許出願数において中国籍研究者の貢献が大きく、知的リーダーシップも発揮し始めている (What’s Really Going on With China and 6G? - Welcome to 6GWorld)。
政府の一貫支援: 中国では政権が変わっても国家戦略としてのハイテク投資の方向性が大きくぶれない特徴がある。習近平政権下で始まった6G重視政策は少なくとも2030年代初頭まで継続すると見込まれ、研究開発からインフラ整備、標準化活動まで一貫して支援が受けられる。この長期視点の政策一貫性は、企業にとって安心して投資できる環境を提供し、また研究者にとっても腰を据えた挑戦を可能にする。欧米では政権交代や予算削減でプロジェクトが中断するリスクもあるが、中国ではトップダウンの安定した推進力があり、計画通りに6Gを進めやすいという機会要因になっている。
以上、課題としては技術・標準・コスト・安全保障など多方面にわたるリスクが存在するものの、中国はそれらに対処するだけの資源と意志を持っている。特に市場規模、人材、政策推進力といった利点を生かせば、これら課題を克服し国際競争で優位に立つチャンスも大いにあると言える。米中対立という逆風下でも、中国が引き続き6G開発で突き進むかどうかは、今後数年間の動向にかかっている。
3. グローバル視点と中国の位置付け
3.1 世界の動向(米国・EU・韓国・日本など)
6G開発競争は中国のみならず、米国・欧州連合(EU)・韓国・日本など主要国・地域で熾烈化している。各国の技術動向や政策を概観し、中国との比較の土台とする。
米国: 政府主導というより民間主導の連合によって6Gに取り組んでいる点が特徴的である。2020年10月、米国の通信業界団体ATISは「Next G Alliance」を発足させ、北米における6Gの将来像策定と技術ロードマップ作成を開始した (ATIS’ Next G Alliance and 5G Forum in Korea Announce Memorandum of Understanding – ATIS)。Next G AllianceにはApple、Google、Qualcomm、AT&T、Verizon、Intelなど50を超える大手企業や大学が参画し、「今後10年で北米の無線技術リーダーシップを推進」することを目的としている (ATIS’ Next G Alliance and 5G Forum in Korea Announce Memorandum of Understanding – ATIS)。この枠組みの下、6Gの研究課題や標準化戦略について白書が発行されており、例えば2022年には北米6Gビジョン「Roadmap to 6G」が公開された (ATIS’ Next G Alliance and 5G Forum in Korea Announce Memorandum of Understanding – ATIS)。米政府も支援姿勢を見せつつあり、NTIA(情報通信庁)やNSF(科学財団)が一部研究予算を拠出している。2022年にはバイデン政権が6Gに関する大統領覚書を発出し、官民協力によるサプライチェーン強靭化と技術開発を促している。またDoD(国防総省)も軍事応用を睨み5G-to-6G技術に資金を投じている。米国の特徴は、基礎技術で強みを持つ企業(半導体のQualcomm、プラットフォームのGoogle等)がイニシアティブを取り、官もそれをバックアップする「ボトムアップ+トップダウンのハイブリッド」戦略にある。政治的には中国台頭への警戒からHuawei排除を各国に働きかけるなど安全保障一体の通信政策を展開しているが、自国技術の開発面ではオープンな産学協働を志向している。
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