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20. 心の声
東京ではどういう経緯で、なぜだったのか覚えていないのだが、とある知り合いがニューヨークから来ている女性シャーマンに会えるように手配をしてくれて、恵比寿のウェスティンホテルを尋ねた。
彼女は開口一番「ブラックムーンは誰だか知ってるか」を聞いてきた。『ブラックムーンは私だけど?』と思いながら不思議そうに見つめると、’リリス’という女性の話をしてくれた。
キリスト教の旧約聖書”創世記”に出てくるエデンの園の”アダムとイブ”のイブの方は、最古の女性として有名だが、実はそれ以前に神様は”リリス”という女性をお造りになったのだそうだ。だけれどもリリスは男女平等を主張し、自分に対して優位に立とうとするアダムに従うつもりはないとして、アダムの元を去り月に行ってしまい、そして’ブラックムーン’になったのだそうだ。それで神は、今度はアダムに従順であるよう、アダムの肋骨からイブを造ったというのだ。
後々、知ることになるのだけれども、聖書というのは宗教活動の中で書き換えられ、大事な部分がかなり抜けているらしい。なので、このリリスの話も、もしかしたら教会の都合で一部、消された話なのかもしれない。そして、昨今、このブラックムーンは月から戻って来て、地球上の男性性女性性のバランスをとるために、色々な女性達に宿っているらしい。『私もその一人というわけだろうか?』
彼女は私に、今ではよく耳にするようになった感のある「心の声に従いなさい」というアドバイスをして、屑状のハーキマーダイアモンドを私に託しながら「世界各地に撒かれたこれら一つ一つの粒がグリッド状にエネルギーを繋げる」というようなことを言って「あなたはこれの使い方を知ってるはずよ」と言葉を結び、そのミーティングは終わった。
帰宅しながら、既に世界の何箇所かに撒いた母の遺灰と、託されたハーキマーダイアモンドのことを思いつつ、妙に腑に落ちている自分がいた。『きっとこれを世界各地に撒く役目があるのかも?』そして『もう東京にはいたくない、、』と強く心に思うようになっていることで、どうしようもなく泣けてくるのだった。
恋したデイビッドと一緒の時間を過ごしたい気持ち、東京のエネルギーと雄大な自然とのエネルギーとのギャップ。それらが引き起こしている気持ちに違いなかった。彼女が言ったように、しばらくして私はその心の声に従うことにした。
心の声を聞く。自分の「したい」「やりたい」気持ちに気づくこと。マインドは必ず「こうだから無理だ」とか「こうしなければいけない」とか、いろんな考えでそれを否定してくる。そのマインドの声が大きくなっていくと、それは大概不安から来るのだが、やりたい気持ちがどんどん聞こえなくなっていく。
私は、3度目のバーニングマンの中にいた。不法侵入で。バーニングマンでの不法侵入は最新機器が導入されているので、ものすごく難しいとされているが、もう幾度となくこの地に足を運んでいるデイビッドは、明け方、警備が手薄になった場所から不法侵入を難なく成功させた。
テールランプなどが光らないようにしっかりマスキングテープをし、ボーダー近辺では砂煙が立たないようにゆっくりと車を走らせ、シティーが出現するあたりで一気に加速し、着いたそこは、サンフランシスコのクルー達が、毎年サウンドシステムを出している大きなキャンプだった。
リーダー格の彼の友人を紹介された後、私達は夜通しサンフランシスコから車を走らせて来て疲れていたのもあって、エアベッドだけ用意し一旦眠りについた。眠りにつく前に、デイビッドは耳元で私に「とても幸せだ」と呟いた。私も溶ろけるくらい幸せだった。
翌日、慣れた感じで、デイビッドは鉄柱などを深く地中に埋め込み、ネット状のシェードを張り巡らせ50平米くらいの私達のキャンプを設営してくれた。流石、毎年来てセットアップしているだけあった。このシェードはきちんと灼熱の太陽を遮り、風通しもよく、びっくりするほど涼しく実に居心地が良かった。その屋根の下に、キッチン、エアベッド、テーブル、いす、ハンモックなどを設置し、さながら小さな家の様だった。
こんな風にバーニングマンに来れるなんて、私は、自分の人生が、どうひっくり返してもパーティーと音楽に導かれているとしか思えなかった。