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2. 初めてのリレーションシップ 

 ほどなくして30歳になる目前、人生で初めてのボーイフレンドが出来た。それまで誰とも付き合わなかった訳ではない。最初に本気になった相手に実際は”別の彼女”がいたことで、そこからはもう散々で、その彼が私に本気になったところでリベンジのつもりでふってしまったり、自分がガールフレンドだという認識がなかったり、自分では本気のつもりだったがワンナイトで終わってしまったり、正式なボーイフレンドだと言えるような付き合いをしたことがなく、そんな繰り返しで、”愛”というもの自体よく分かっていなかった。

 一緒に遊んでいた友人のほとんどが男の友人達で、派手で見栄えよろしくモデルやらゲイ、DJ、ヘアーメイク、クリエーターやデザイナー、そういう友人達と女としてでなく、純粋に友人として夜遊びしたり音楽を語り合ってる方が楽しかったし、実際、女性の友達というのは2~3人ほどしか、いなかった。

 その、人生で初めての真剣なお付き合いしたボーイフレンドは10歳年下だった。顔は、そんなによろしくなかった。というのも、ずっとモテ男とばかりどうにかなってしまってたり、見栄えの良い男達とつるんでいた私は、いわゆる”イケメン”だけは選ぶまいと思っていたのである。当時の私的見解だし、自分のレベルがその程度だったというのが往往にしてあるが、20代の見栄えの良い男達というのは、大概あまり努力せずともモテるし、ゲーム感覚で女性を落とすようなところもあって、しかも、そういう彼らの本音の裏事情も間近で見てきてしまったので単純に警戒していた。

 本当に愛してくれる人の言動というのが、どういうものか、なんとなくはわかってきていて、その彼の言動というのが、際立って、私への愛を感じ取れたのだ。その頃彼は19歳だったけれど、”パーティーオーガナイザー”として既に頭角を現していたし、よく本も読んでいて頭のキレも良くリーダーシップがあり、上昇志向がとても高かった。容姿はそれなりだったけれどモテていたらしく、笑顔が絶えない感じで人気者だった。生意気だったけれど、それは10代の輩が10歳も年上の私と付き合おうと背伸びしてるのと同時に、大人達の中でパーティーをオーガナイズしていたわけだから、当たり前といえば当たり前だったのかもしれない。

 ”結婚前提”という真剣っぷりで、向こうの親にも紹介され、とても歓迎され、私のマンションで一緒に暮らし始めた。最初はそれこそ、24時間一緒に居られることが幸せで、四六時中行動を共にした。一緒にいすぎたせいだろうか、すぐにダメになっていった。今だから分かるけど、そうなってしまって当然だったかと思う。お互い個人の境界線がなく、個人の人格を尊重出来ていなかったのだから。

 当時の理由としては、彼の亭主関白ぶりな”女はかくあるべき”態度に辟易し、パーティー中にも私が別の男友達と仲が良いというだけで、しょっちゅう喧嘩になるといった事だった。「別れたいから、出て行ってくれ」と頼むも、絶対に出て行ってはくれず、終いには心の中で『浮気でもしてくれれば別れられるのに』と願ったのだった。

 しばらく経って、本当に私が願った通りに、彼が浮気をして別れることになった。自分で願ったにも関わらず私のショックは相当だった。浮気というよりは、他に好きな子が出来て、私に相談する前に彼女とは寝てしまったというなんとも歯がゆい告白を受け、彼に対する愛情というよりは、他の子に乗り換えられてしまったという”女としてのプライド”がそれを許さなかった。人生で初めて、とてつもない嫉妬と怒りが湧いた。

 というわけで、人生初の失恋は、まるで絵に描いたような何とも子供っぽい話だった。いくら人前で強がっていたとしても、食欲がなくなり、息が出来ないくらい苦しく、大人の友人から「時間が解決するよ」と言われるも、その意味が分からず、まるで、そんな状態がそのまま続いていくような感じがした。しかも付き合った1年の間に、彼の理想の女性像を強いられて、すっかり私は”本来の自分”を見失ってしまっていて、自己肯定感を喪失し、それを取り戻すのと傷が癒えるまでに半年ぐらいは要したと思う。あれから軽々しく、いくら付き合った男性とうまくいかなかったとしても『他に女が出来ればいいのに』なんてことを思うことはなくなった。

 別れ方が別れ方だったので、その彼とはしばらく顔を合わせても口も聞かなかった。5年経ってメールをもらった時には”許せる訳ないじゃん的”な冷たい返事を送りつけた。そこからさらに5年ほどが過ぎて、確かパーティーのDJ出演依頼か何かをきっかけにして、また口を聞くようになり、今では信頼できる良い友人として付き合っている。彼は、幼馴染と結婚し子供が二人いて、不動産関係の仕事に就いていたが、ある程度成功させて退職し、いわゆるFIREの状態になり、離婚してしまったが前パートナーと一緒に子育てをしながら余裕ある人生を送っている。

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