見出し画像

いつかレイシアと出会う日、あなたは喜びに、あるいは破滅の予感に打ち震える?

SF小説「BEATLESS」の予言が現実となった!「IAEA級のAI監視機構」が必要とされる時代がやってきたというNEWSをツイッター(もうXだったか?)で見かけたのはもう1年も前のことだ。

そのツイートに呼応するように、SF小説「BEATLESS」の著者自身が、AIを管理する国際組織に関して、著作に登場したIAIAという国際組織(まさしくIAEA級のAI監視機構)を設定したときの背景、当時の世界的な動向などを踏まえて回想されている。

超高度AIが「発生」した場合、それはネットワークからは切り離され、国際組織IAIAによって管理下に置かれ、ネットワークにやむを得ず接続された超高度AIによる想定外の事象を「ハザード」と呼ぶなど、「BEATLESS」は刺激的な設定に満ちていた。それらの各種設定が絶妙に絡み合い、近未来にあり得るかもという説得力を生み出していて、なおかつジュブナイル風味の読みやすさがあった。

しかし上記記事で個人的にインパクトがあったのは「おまけ」の一文の方だったのだ。

『BEATLESS』では、オーナー文化と責任の話が、第一話の最初から出てきています。
これは、執筆しながら、それに対する自分なりのアンサーを見つけたかったためです。
『BEATLESS』の物語が、常に、ヒロインであるレイシアの所有責任の話と繋がっているのは、このためです。

ただ、反省点もありました。所有責任の話は、ドラマの構造的に最後までシビアに何かを削るように答えを求めることはできませんでした。
「ヒロインを”所有する”ことは、ポルノグラフィではないのか?」という問いに衝突したためです。

https://note.com/satoshi_hase/n/n067a268c219d

これはわかる気がする。超高度AIを一人の個人が所有する、という問題と、アイドル風女性アンドロイド(hIE)を所有することとの間には、どうにもくすぐったい皮膚感覚(以上のもの)を避けては通れない、そのような溝があるように思う。そのハンドリングを失敗した時、著者はそれをポルノグラフィだと警告しているのではないか?(*hIEとはHumanoid Interface Elementsの略で、すべてのアンドロイドが超高度AIヒギンズの発する行動適応基準レベルAASCに従って行動するクラウド型システム

そこからインスピレーションを得て、超高度AIを女神として描くか、悪魔の化身として描くかという問題に単純化してみると、女神AIは本来抱えている破滅的リスクを見えなくしてしまう目眩しと表裏一体だと言える。それを高校生に所有させるという描き方は、ジュブナイルという枠を超えてポルノグラフィではないのかという著者自身の発言は注目に値する。

小説内では超高度AIの危険性を暴く枠割を、主人公の友人二人がそれぞれ身をもって(レイシアよりはるかに怖いhIE達に翻弄されながら)訴えていたので、読者としては納得して物語の設定を受け入れていた。しかし、パンデミックウイルスを超える未知のリスクが女神の顔で「私の所有者になって♡その代わり責任はあなたが取るのよ♥」とくねくね迫ってきたら、いくらオタクでも自身と世界の破滅の危機を予感くらいはするだろう。それではジュブナイルとして幸福な着地はできない、よく行ってギャグ風味MMORPG止まりだろう。「BEATLESS」は著者のその感覚のお陰で、幸福に着地できているのが良いのだ。

作品を離れた思考実験として、ここはオタクのための標語「女神と悪魔は紙一重」をひねり出し、神話的真理とも言えるこの一言を胸に、いつかレイシアに出会える日を心待ちにしたいと思う。その日、世界の破滅と自身の身勝手な欲望を天秤にかけることが、果たして自分には、あるいは世の男性諸氏にはできるのであろうか?
ああ、これが「セカイ系」ということなのだと、ようやく他人事ではなく実感できた気がする。



まあそんなことは自分の生きているうちにはまず起きないと油断して、この原稿を書きかけのまま忘れていたところ、寝耳に水のNEWSが飛び込んできた!OpenAIが映画「her」のAIの声を演じたスカーレット・ヨハンソンの声を使わせてほしいと本人と交渉して断られたのにもかかわらず、彼女の声のAIを作っていたというアレである。

これは自分が生きているうちにレイシアに(たとえ声だけであったとしても)出会える第一歩かもと喜ぶべきなのか?その笑顔(見えないかもしれないけど)に隠された破滅の危機に打ち震えるべきなのか?

そしてOpenAI のevilさが、女神の背後の悪魔を図らずも白日に晒してしまっている?のには苦笑するしか無い。

シンギュラリティの足音は密かに、しかし確実に、あなたの背後に迫っているのだ!?



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?