長編小説「Crisis Flower 夏美」 第10話
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※週1~3話更新 全18話の予定です。
SCENE 23 登庁途中の山下 襲撃
早朝。山下が自宅の玄関を出ると、すかさずボディガードが両脇に立つ。
門前に黒塗りの車がスーッと音もなく停車した。運転席と助手席に屈強そうな男達。
ボディガードも含めて、全員極東エージェンシーの者達だった。過去に警察官や自衛官の経験があり、荒事にも慣れている。
警察庁要人でもある山下なら、申請すればSPをつけることもできた。だが、理由を詮索されるのも面倒だし、万が一例のRなる者が襲ってきた場合、確保するよりその場で殺害してしまった方がいい。
なので、Rから脅迫状めいたものが届いてからは常に移動の際、この男達を従えている。
民間警備会社の人間が銃を所持し、Rを射殺したとしたら大事件だが、それは、3年前の爆発同様、いくらでもねじ曲げることはできる。
後部座席に乗り込むと、両隣にボディガードがついた。
国産だが、高級車で中は広い。
運転手が発車させる。スムースに加速していく。早朝の今、交通量は少ない。
目指す先は、もちろん山下が勤務する警察庁だ。
しばらく走ると、赤信号で停まる。
最初に気づいたのは運転手だった。怪訝そうな目つきで前方を見つめている。
助手席の男も、運転手の視線を追っていて気づく。違和感は車内に次第に広がる。両隣のボディガードも、そして山下も気づいた。
前方の中空の一部が、妙な感じで歪んだ。陽に照らされて、たまにきらりと光る。そしてその歪みが、次第に近づいてくる。
透明な何かが、この車を目指して――。
まさか……!
山下が凍りつく。両脇のボディガード達が銃を取り出した。
ドガッっという音が響き、車体が大きく揺れる。ボンネットに何かが飛び降りたのだ。フロントガラスの向こう側の空間が一部歪んで見え、風に揺らめくように動いている。
次の瞬間、歪みがスッと消えて、屈強そうな男の姿が現れた。黒い戦闘服に身を固めている。その手にハンマーが握られていた。
これが、R!?
ただ目を見開き、前を見続ける山下。
Rがハンマーをフロントガラスに叩きつけると、大きな音を立て粉々に割れ、崩れ落ちる。
ぐわぁ、と叫び声がした。運転手がハンマーを投げつけられ、頭を砕かれたのだ。グッタリとハンドルに上半身をもたれかけ、ピクリとも動かなくなった。
助手席にいた男は、Rが素早く放ったナイフを胸に受け、声をあげる間もなく無力化されていた。
両脇のボディガードが外に飛び出した。手にした銃をRに向ける。
だがその時には既に、Rの姿は消えていた。
どこだ? 気配を探るボディガード達。
右の男の後の空間が、ぐにゃりと揺れた。そして、姿を現すR。
振り向いた時は遅かった。そのボディガードは声も出せず倒れる。おそらく心臓をナイフで貫かれたのだろう。
慌てた左のボディガードが銃を構えるより早く、Rがナイフを投げる。胸に突き刺さり、壊れた人形のように倒れた。
Rがドアを開け、車に上半身を差し入れる。山下の目の前に、大型のアーミーナイフ。
「ま、待て。話し合おう」
必死に訴える山下。
「おまえ達は、自ら真実を語るつもりはないらしいな。ならば、もう、こちらで粛清するしかあるまい」
山下が人生最後に聞いたのは、まるで機械のように無機質な声だった。
SCENE 24 山手警察署 特別捜査本部
例によって昼前の閑散とした特別捜査本部の片隅に、夏美、鷹西、そして徳田がいた。
夏美は、置かれていたパソコンのモニターをタップして映像を一時停止し「これらが、とりあえず本物だと思われる動画です」と説明した。
ネット上に投稿された、透明人間騒動の動画を順番に見ていた。騒ぎに便乗して創られたフェイクもあったが、それらは除外してある。
また、アップするとすぐに何者かによって削除されるので、その前に保存しておいたものだけだ。それでも10を超える。
全てに共通していることが一つ。透明人間と思われる者は複数だが、一人を数名が襲い、結局一人が勝つか逃げるかしている。
一人の男がある時はどこかを歩いている。ある時は佇んでいる。そこに、突然空間が歪み、複数の戦闘服を着た男達が現れ、襲いかかる。
みなナイフを使用していた。かなり大型のサバイバルナイフ状の物で、その扱いも手慣れている。おそらく訓練を受けた兵士だ。
だが、一人の方は彼らを凌駕するほどの戦闘能力だった。常に相手の動きを上まわり、ほぼ返り討ちにしている。それは、あのカップルがみなとみらいで目撃した状況とほとんど同じだ。
「これが、機動隊の訓練時に撮影された瀬尾俊之の姿だ」
徳田がマイクロSDカードを出した。受け取った夏美はパソコンに挿入する。アプリを起動しデータを照合した。
しばらくすると、顔及び体格を含めた認証が終わった。
透明人間の、常に襲われながらも無事に切り抜けている一人。それと、瀬尾俊之が同一人物である可能性は90%以上。つまり、限りなく高いという結果が出ている。
隣で見ていた鷹西が唸り声のようなものをあげた。夏美も溜息をつく。
「瀬尾俊之は優秀な警察官だった」
徳田が言う。
「知り合いだったんですか?」
夏美が訊いた。
「親しいわけじゃないが、何度か現場で一緒になった。正義感も強い、立派な男だった。機動隊の隊長になる以前はSATに所属していた。それだけ優秀だったということだ。できれば同一人物だとは思いたくなかったが、戦闘能力の高さも頷ける」
SAT――特殊急襲部隊。警察官の中でも特別に技能の高い者達だ。その一人が、今、透明人間となって殺戮を続けている。考えたくない状況だった。
「三ツ谷は瀬尾と親しかったそうです。多分あいつ、瀬尾を止めようとしてる。自首させたいんでしょう。だから、今の段階では俺たちとは合流できない、と……」
鷹西が言った。彼は昨夜、三ツ谷から連絡を受けたそうだ。
「この事件、どういう筋立てだと思う?」
徳田が鷹西と夏美を順番に見る。
視線を合わせる2人。夏美は鷹西に説明を譲った。その方がふさわしいと思った。
鷹西は頷くと徳田に向き直る。
「3年前の爆発事故、いえ、事件が発端だと思います。あくまでもここまでのことからの想像ですが、まず、森田というジャーナリストが、警察上層部、そして与党民事党の何者かの不正について調べ、かなりの所まで掴んでいた。その、しっぽを掴まれた勢力には、極東エージェンシーも含まれていると思われます」
「極東エージェンシーは、政財界の黒い方面からの依頼を受けて非合法だったり荒っぽい仕事を請け負っているという噂があるな。もしかして、その爆発は……?」
徳田が険しい表情で言った。
「そうかも知れません。邪魔な森田というジャーナリストを殺害するために、無関係な人達も巻き込んで店ごと爆破した。そして、ガスの事故で処理させるために、その与党民事党の何者かと警察幹部は持てる影響力を最大限に行使した……。もしこの想像通りなら、罪もない一般市民の命をまるでゴミのように扱う、非道行為です」
「ゆるせない……」
夏美は思わず呟いていた。俯き、歯を食いしばる。
「その現場に、瀬尾は機動隊員として初動捜査のために立ち入った。そして、犠牲者の中に、奥さんである美咲さんを発見した……」
言葉を切る鷹西。視線を上げ息を大きく吐き出す。辛そうだった。夏美も、瀬尾という人の怒りと悲しみを思うといたたまれなくなる。
「警察の捜査も消防の調査も何者かの圧力によって曖昧になっていくのを見た瀬尾は、独自に調べた。そして、おそらく真実にたどり着いたんでしょう。どういう方法かはわかりませんが、特殊な戦闘技術を得て、今、復讐をしている。本牧で極東エージェンシーの者達を殺害したのが、その始まりだと思われます」
そこまで説明し、確認のためか、鷹西は夏美を見た。
「三ツ谷という人は、当時の初動捜査に加わったんですね? それで、今の事件に瀬尾さんが関与していることに気づき、説得しようと考えて身を隠した?」
夏美が訊くと、鷹西は頷く。
「多分そんなところだと思う。あの爆発の真実を明らかにして、しっかりとした捜査をさせようとしているんだろう」
「だから、爆発を起こした勢力は三ツ谷を探しているし、今になって蒸し返すようなことをしているおまえ達2人を襲わせた」
夏美と鷹西を襲った者達を取り調べた城木は、連中を締め上げ、極東エージェンシーに所属しているところまでは聞き出した。だが、全員、組織とは関係なく個人的にやったと供述していた。
鷹西のことは態度が気に入らないから襲った、夏美のことは可愛いから襲った、と言い張っている。
「今の段階だと、おまえ達の想像の域を出ない。全く証拠がないわけだからな。この件は、長引けばそれだけうやむやにされるか、圧力が強まり身動きができなくなる可能性がある。再捜査につなげるには、急がなければな」
徳田の話に、夏美も鷹西も険しい表情になった。そうなのだ。自分たちが襲われたということだけでは、3年前の爆発について正式に調べ直す方向に持って行くには弱すぎる。
「それに」と続ける徳田。「もし本当に瀬尾が復讐をしているのなら、今後も殺戮は続くことになる。彼を追っている別の透明人間達が何なのか、それも不気味だしな。いずれにしろ、早いところ全容を掴まないと」
重い雰囲気が強まっていく。3人とも押し黙ったとき、深刻そうな表情で立木が現れた。徳田と鷹西、夏美を順番に見る。そして声を潜め……。
「今朝早く、警察庁警備局警備企画課の要職に就く山下警視長が殺害されました。これはまだマスコミにも流れていません」
「何だって?」
驚愕して目を剥く徳田。夏美も鷹西も息を呑んだ。
「確かにそれは大事件だが、おやじさんがここにその情報を持ってきたということは、何かこっちの件に関係が?」
徳田が探るような視線を投げかける。
「警視庁管轄で極秘事項でもあるんですが、どうも、襲ってきたのは一連の透明人間騒動と同一人物らしいんです。しかも、山下警視長と一緒にいた者達は、極東エージェンシーの関係者であるという話も漏れてきています」
「もしかして」とハッとなる夏美。「山下警視長のフルネームはわかりますか?」
「山下重明だ」と立木が即座に応えた。
あのメモを思い出す夏美。警察庁、S、Y……。
「山下警視長が、3年前の爆破事件の捜査に圧力をかけた人物?」
鷹西が呟くように言う。
「そうである可能性が高いな」
溜息のようにこぼす徳田。
「それにしても立木さん、よくそんな重要な情報を得られましたね」
改めて驚く夏美。警視庁事案で超極秘事項――それに神奈川県警の一刑事が触れるなど、通常あり得ない。
「ふっ」と笑う立木。「一応そろそろ定年を迎えるくらい長年警察組織にいるんでね。あたふたと動きまわって、いろいろな連中と知り合ってきた。年の功ってやつさ」
それにしても、ここまで掴むほどの人脈を持っているのには驚きだ。費やしてきた年月が、ただ長いだけでなく濃厚だったことを物語っている。
「その年の功を活かして、おやじさんにはもうちょっと情報を集めてもらいたいんですが」
徳田が立木を見る。
「事件の詳しい状況や、捜査の進展なんかですね」
にやり、とする立木。
「ええ。あとは、山下警視長のつながりも、ですね。上にも下にも。イニシャルだった与党民自党の人物が最終ターゲットなのかもしれない。それがつきとめられれば」
「まあ、やってみましょう」
「あと、もう一つ」と鷹西が口を挟む。
「何だ?」
徳田と立木が同時に彼を見る。
「森田というジャーナリストは、ジェロン社というアメリカの軍事企業と日本の政財界とのつながりを調べていたそうです。もし何らかの黒い面があるなら、公安や内調がマークしている可能性もある。俺たちも調べますが、おやじさんの情報網からも何か得られるものなら、お願いしたいです」
「なるほど。だが、公安や内調となると、なかなか厳しいな。やってはみるが……」
頭をかく立木。
「ジェロン社は軍事企業だと言ったな?」
徳田が険しい目つきで鷹西を見る。
「はい。三ツ谷は、それで透明人間騒動の糸口がつかめるかもしれない、と言っていました」
「もしかして、光学迷彩?」
夏美は、以前見た科学系ニュースを思い出しながら言った。
「ああ。俺もそれを考えていた。だが、光学迷彩技術がそこまで進んだという話は聞いていないが……」
徳田が首をかしげる。
「光学迷彩」という言葉自体は漫画や映画で有名な「攻殻機動隊」の作中で登場し、広まった。対象物を視覚的に透明のようにして、まわりからは見えなくする技術だ。
マントやカバー状のものを被せるか、装甲や衣服の表面に透明化装置を直接埋め込む方法等が考えられている。
原理としては、周囲の光景と同じ映像や柄を映し出して溶け込むカメレオンタイプ、何らかの方法で光の屈折を制御し擬似的に透過させるタイプ等がある。
未来技術のイメージが強いが、近年は実用化に向けて研究が進んでいる。主に軍事目的で開発が進められ、兵士や兵器を透明化しようという試みがなされていた。
「ジェロン社が実用化に成功した、とか……?」
鷹西が呟くように言った。
「だとしても、なぜ瀬尾がそれを使っている?」
徳田が誰にともなく訊く。だが、応えられる者はいない。
「今の段階では全部推測だし、何もわかりませんが……」夏美は自分の頭を整理しながら言った。「でも、これだけキーワードが出てきたんだから、捜査を進めれば、いずれつながって、全体像が見えてくるかもしれません。動き続けることが大切だと思います」
「そうだな」と徳田。「この場で考えていても仕方ない。動こう。そろそろあのハゲがやってくるかもしれん。それぞれできる範囲で調べを続けるんだ」
夏美達が頷く。そして動き出す。
ちょうどそこに、徳田の予言が当たったかの如く、霜鳥管理官が現れた。
徳田や立木は肩をすくめてからそっぽを向いた。
夏美は鷹西と一緒に捜査本部を出て行こうとする。
ふと、霜鳥が自分を見ていることに気づく。
え……? な、なぜ……?
その視線がひどく忌まわしいものに感じられて、夏美はぞくりとした。
SCENE 25 爆発跡地
横浜港を見下ろす高台に、三ツ谷は立っていた。
本牧ふ頭。その向こうにベイブリッジ。行き交う船……。
この景観を、まるで絵画を鑑賞するかのように窓の向こうに眺められる喫茶店が、かつてここにあった。
3年前に爆破されるまでは――。
未だに四方にロープを張られ、立ち入り禁止になっている。
店の残骸がまるで前衛芸術のオブジェのようだ。
両隣や近辺にあった雑貨店、ブティック、書店なども、多くの犠牲者を出した爆発事故の場所ということで、移転してしまった。そこにあるのは空き家ばかりだ。
ちょっとしたゴーストタウンのようになってしまったこの場所に、今、人は三ツ谷だけだった。
一応用心して、あたりに監視の目がないか確かめる。
変装もしていた。伊達眼鏡をかけ、いつもぼさぼさの髪はキッチリと七三に分けてある。シークレットブーツで10センチ程背も高くなった。
ロープをくぐり、喫茶店の跡地に足を踏み入れる。
中央まで行く。ぼろぼろに崩れかけた壁、捲り上がり焼け焦げが残るフロア。
今でも煙の臭いが漂ってきそうだった。
あ……!
片隅に花が飾られていた。美しい花瓶に、淑やかな花々。
手向けられてまだそれほど日は経っていない。
やっぱり、ここにも来ていたんだな。
胸が痛んだ。三ツ谷は、瀬尾がその逞しい体を震わせながらこの場に花を置く姿を思い浮かべ、零れそうな涙を堪える。
また、事故後の場面を思い出した。
※ ※ ※
現場で新婚の妻の遺体に直面してしまった瀬尾は、その場に崩れ落ちるように膝と手をついた。フロアに顔を伏せ体を震わせる。
瀬尾さん……。
三ツ谷は何も言葉をかけることができなかった。それは、他の捜査員達も同じだ。
彼と同じ機動隊の者達は、皆一様に目を伏せている。
初動捜査は凍りついたように止まっていた。しばし、沈黙の時が流れる。
すすり泣くような、呻くような声が低く聞こえてきた。瀬尾だ。伏せていた顔を天を仰ぐかのように上げた。
「うおおぉぉっ!」と叫びにも似た声が、瀬尾の胸の奥から迸り出た。
その声が、三ツ谷や他の捜査員達の胸を抉る。
だが、瀬尾はそのまま泣き崩れることはなかった。すっくと立ち上がり、大きく息を吐くと、機動隊員達を振り返る。
「捜査をはじめよう」
え……?
瀬尾の言葉に、全員が息を呑んだ。
「捜査だ。俺たちの仕事をするんだ」
そう言うと、瀬尾は率先して動き出す。
感情を一切感じさせない瞳になっている。しかしその奥底には、強い意思が宿っているような気がした。
悲しむのはこれからいくらでもできる。その前に、美咲を、そして同じように罪のない人達をこんな目に遭わせた原因が何なのか、必ず突きとめる――。
そんな決意だろうか?
瀬尾さん……。三ツ谷はその大きな背中を見つめながら、涙を堪えた。そして頷くと、鑑識活動に戻った。
※ ※ ※
しかしその後、捜査はおかしな方向へ進んでいった。それは、同時に行われた消防の調査も同様らしい。
爆発は、何らかの装置を仕掛けられた奥の客席で起こったとみられた。つまり、爆弾によるテロである可能性が高い。破壊の規模から見てもそう思われた。
残骸の中からいくつか得体の知れない部品も見つかった。それらを分析すれば、どんな爆弾が使用されたのか突き止めることも可能だ。実行犯へつながる重要な証拠になる。店内ビデオに残るデータを掘り起こすことと合わせ、三ツ谷は尽力した。
だが、突如として捜査方針が変わった。
厨房でのガス爆発による事故――。
捜査本部の中で抜粋された数名の者達が、そう結論づけるために都合の良い事象を集め始め、そうでないものは排除した。そして、彼ら以外の者達は捜査から外されていく。
そんなバカな……。
疑問を持つ者は当然多く、三ツ谷も大いに不満に思った。だが、大きな流れに抗う術は、その頃持っていなかった。
何か巨大な権力が動いた。そうとしか考えられない。警察組織の中枢に影響力を及ぼすほどの、巨大な権力が……。
忸怩たる思いをもちながら、組織の決定を拒否することができる者はいなかった。
一人を除いて……。
瀬尾は正式な捜査から外されても、休暇をとって個人的に調べを進めた。すると、何度か脅しを受け、実際に襲われたこともあったそうだ。
彼はそれらに屈することはなかった。愛する妻の死をうやむやにさせるわけにはいかない、という強い意志があったのだ。
そんな瀬尾の姿に感化された数名が、秘密裏に協力を申し出た。三ツ谷もその一人だった。だが彼は、皆の安全や警察組織内での立場を慮ったのか、突然姿を消した。
しばらく一人で動きたい――。
そんな短いメッセージを残して、警察からも、仲間達の前からも、いなくなった。
瀬尾さん。あなたは、修羅の道へと行ってしまったのか……。
大きく溜息をつくと、三ツ谷は爆発跡地の中心に座り込んだ。
しんと静まりかえった空間でモバイルパソコンを開き、できる限りの情報収集をはじめる。
瀬尾の姿を追い求めて……。
事態は意外な方向へ……。第11話に続く↓
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