【エッセイ】もっと「政軍関係」と「抗命」の議論をしよう: 今回の非常戒厳に「面従腹背」した韓国軍への賞賛と批判は両方とも重要だ
はじめに
韓国の尹錫悦大統領は、2024年12月3日の夜に非常戒厳を宣布し、ソウルの各地に陸軍や警察の部隊を投入しました。
非常戒厳の解除要求決議が審議されている国会議事堂の周辺には陸軍の特殊部隊が派遣されながらも、国会議事堂では議員や職員のほか、メディアや市民が詰めかけ、陸軍の侵入を阻んでいました。もし国会議事堂の本会議場に陸軍が突入していたら、戒厳の解除要求決議は容易く妨害され、現在も韓国国内では非常戒厳が継続されていた可能性があります。
1979年に朴正煕大統領(当時)が暗殺されたときに宣布された非常戒厳は、翌年に全斗煥 国軍保安司令官(当時)によって拡大されるとともに、韓国の国会議事堂は戦車によって封鎖され、国会議員たちは非常戒厳を解除できませんでした。映画『KCIA 南山の部長たち』、『ソウルの春』、『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』、『1987、ある闘いの真実』を観ると、この辺りの流れを簡単に知ることができます。
今回の非常戒厳を巡る以下の記事において、軍内部から「1980年の光州の汚名を返上するために、どれほど軍が努力してきたか」(1980년 광주 오명을 씻기 위해 군이 얼마나 노력해왔는데)と声が挙がっているように、光州事件は韓国陸軍の「汚点」ないし「汚名」と呼ばざるを得ない歴史です。今回の非常戒厳でも、国会議事堂の周辺に展開したのは、光州事件と同じ特殊戦司令部の空挺部隊でした。
しかし、今回の非常戒厳では、特殊部隊は本会議場に突入せず、戒厳の解除要求が可決され、韓国の憲法(第六共和国憲法)77条5項の規定により、非常戒厳は失効が確定しました。この議員・職員や市民・メディアの必死の抵抗は、前述の光州事件の悲劇やトラウマを踏まえれば「当然の反応」でしょう。
行政機関や軍隊の「抗命」: ある意味で「面従腹背」とも言える勇気ある判断
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