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第14話 受け入れる~エピローグ(それぞれの道)【死生の天秤】小説

■第14話~エピローグの見どころ

・愛するが故に
・乗り越えるために受け入れる

第1話を読んでみる(第1話はフルで読めます)

-1-

箕嶋は、亜梨沙と一緒に家に戻ると、パパは大事な仕事があるから、今日はママのところに泊まりなと言って、眠い目で、ポーっとしている優衣に言った。
優衣はよく分からないまま、亜梨沙と一緒にタクシーに乗り、箕嶋は家の中で待っていた千夏に、すべてを話した。

「こんなこと言うのは、失礼かもしれないけど」

リビングのソファに座って、千夏は言った。

「奥さんと優衣ちゃん、二人にして大丈夫なの?」

「大丈夫だ。亜梨沙も、どうしようもないことは分かってる。分かってても、感情的には納得できない。耐えきれないんだろう……気持ちは、俺にも分かる」

箕嶋は、ふと顔を上げて、家の中を見た。
優衣のために引っ越した家。一人で過ごした時間のほうが少ない家。ほんの数日、愛着なんてものが出るほど住んでもいない家が、酷く物足りなく見える。あるはずのものがない、決定的なものが欠けている、そんな違和感を覚える。

「一稀」

千夏は、頬が濡れていることに気づいていなかった箕嶋を、そっと抱き寄せた。

「どんなに覚悟を決めても、明日は立っていられないぐらい、辛い一日になる。でも私がいる。一人で抱えないで」

「千夏……」

箕嶋は、千夏の手を握った。

「ありがとう……」

ほとんど眠ることができないまま、翌朝を迎え、亜梨沙に連絡した。

「……」

コールはするが、出ない。
徐々に心臓の鼓動が早まる。

『ごめん、ちょっと、バタバタしてて……』

電話の向こうの声は、疲れ切っている。
おそらくは、自分と同じように、ほとんど眠れていないのだろうと、箕嶋は思った。

「これからそっちに行くけど、いいか?」

『ええ……』

「……優衣は、どうしてる?」

『朝ご飯食べてる』

「何か話したか?」

『無理よ、話せるわけない……私には……』

「とにかく、そっちに行くよ」

電話を切ると、箕嶋は千夏と一緒に、亜梨沙の家に向かった。

亜梨沙の家に着いて、家の前のインターホンを押すと、ドアが開いて優衣が飛び出してきた。

「パパ、おはよう!」

「おはよう、優衣」

ぎこちない笑顔を見られないように、箕嶋は優衣を抱きしめて、髪を撫でた。
亜梨沙も出てきて、「おはよう」と言ったあと、一通の封筒を差し出した。

「これは……?」

「あとで、優衣に渡して」

「え……?」

「私は仕事に行く。あとでチャットするから」

亜梨沙はそう言って、ドアを閉めた。

「ママ、お仕事忙しいんだって」

優衣が言った。

「そっか。ママも偉い立場だから、大変なんだろう」

「ママ、偉いの?」

「う~ん、まあ、すごく偉いわけじゃないけど、それなりかな」

「ふ~ん」

「優衣、これから一緒に出かけるけど、その前にパパは、お仕事で大事な話をしなきゃいけないから、少しだけ、千夏と待っててくれるか? 車にいるから」

「千夏お姉ちゃんもいるの?」

「ああ」

「やった!」

優衣は、箕嶋の手を引っ張ってエレベーターまで歩き、車で待っていた千夏を見つけると、走り出した。
箕嶋はゆっくりと歩きながら、笛木に連絡した。

『連絡お待ちしてました』

笛木は言った。

『昨日の夜中、また連絡がきて……もう、時間がありません』

「どこに行けばいい?」

『場所はすぐに地図を送るので、そちらに』

「分かった」

まだ何か、話すことがあった気がした。
おそらくは笛木も、何か考えていた。
だが、その”間”のあとに言葉が出ることはなく、電話を切ると、箕嶋は送られてきた地図を確認して、車を走らせた。

-2-

「パパ、どこに行くの……?」

後部座席で、千夏の手を握りながら、優衣が言った。
地図に示された場所は、公道から外れ、狭く、舗装もされていない道を進んでいく。空は、木々に覆われてほとんど見えないが、隙間の色は深い灰色に染まっている。街からどんどん離れていく道は、間違いではないかと思ったが、笛木の世界と繋がっている場所が、誰の目にもつくような場所であるはずもないと考えて、そのまま進んだ。

やがて、車では通れない場所に辿り着き、車を降りて、不安そうな優衣を抱えて、さらに草木が深い道を進んだ。

「こちらです」

笛木の声がしたが、姿は見えない。

「どこだ……?」

もう一度声がして、身長よりも高い草を分けて進むと、笛木と寺崎の顔が見えた。二人の背後にも、左右にも、何もない。穴というから、ブラックホールのようなものを想像していた箕嶋は、目を細めた。

「私たちの後ろ、少し空間が歪んでるのが分かりますか?」

箕嶋の疑問に答えるように、笛木が言った。
意識してみると、確かにゆらゆらと、奇妙なゆらぎのようなものが見える。真夏に、地面の近くがゆらぐように見えるのに似ている。

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