第8話 43年前 【口裂け女の殺人/伏見警部補の都市伝説シリーズ】小説
■第8話の見どころ
・被害者の父、伏見に激怒
・不自然な供述
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常磐が竹神の態度に苛立って、警察署に戻り始めた頃、伏見と谷山は、茂田貴久の自宅へと向かっていた。
二人は昼間、茂田が副医院長を務める病院に足を運んだが、学会に出ているとかで、会うことはできなかった。しかたなく、息子さんの事件の件で話がしたいと伝えてくれと、対応してくれた看護師にお願いしたところ、18時過ぎに伏見のスマホに連絡が入った。
電話は、茂田本人からであり、学会は終わったから、家に来てくれるならと言われ、二人は茂田の家に向かって車を走らせていた。
「話してくれますかね」
ハンドルを握ったまま、谷山が言った。
「43年前の件についてか?」
「はい」
「話したがらないだろうな」
「自分が犯人じゃなくても?」
「自分が犯人じゃなくても、茂田にとっては嫌な思い出だろう。もし別の理由で話したくないというなら、面白い」
「面白いって……」
茂田貴久の家は、閑静な住宅街の中の、さらに高台にあった。大きな格子状の門があり、その中には車が三台止まっている。庭は和風で、松が何本か植えられており、家族の趣味か、花畑と野菜畑があり、ドラマなどでも見るようなシシオドシが、時折心地いい音を響かせる。大金持ちの家という感じではないが、さすがに病院の副医院長というだけあって、収入はそれなりらしい。
「お時間いただき、ありがとうございます」
インターホンを押すと、茂田本人が出迎え、応接室まで案内された。家の中も和風で、昔ストーカーだった男が住んでいる家とは思えないほど、品性が感じられる。
「いや、息子を殺した犯人を捕まえるためですから。どうぞ、今お茶を運ばせます」
「失礼します」
伏見と谷山が座ると、奥さんらしい女性が、お茶を持ってきて三人の前に置いた。歳は茂田とあまり変わらなさそうだが、家と同じように、品がある雰囲気を持っている。
茂田自身はというと、白髪頭を七三に撫でつけ、髭は綺麗に剃られている。顔には深いシワが刻まれており、白衣を着ていれば、副医院長という肩書きも違和感はないが、伏見は少し、腕のあたりがゾワっとした。
「まさか息子が死ぬとは、それも殺されるなんて……ショックですよ」
茂田は、唇を噛むようにして言った。
「残念です」
伏見は同情を示したが、内側では苦笑した。茂田は、息子の郁彦と仲が悪く、実家に入ることも禁じていたらしい。犯罪を犯し、事あるごとに金をせびる息子がいたと思うと、その行動も分からなくはない。
郁彦が小さい頃から、自分の後継者にするために、いわゆる英才教育を行ったが、本人の意志を無視したやり方に、郁彦は反発。
徐々に親子仲は悪くなり、郁彦が大学を中退して家を出てから、一年ほどは仕送りのようなことをしていたが、まともに働こうともせず、ついには犯罪まで犯したことで、ほとんど絶縁状態だったらしい。息子が前科持ちになったことで、医院長就任を逃したという、個人的な恨みもあるのかもしれない。今回のことも、言葉はともかく、表情や雰囲気からは、それほどショックを受けているようには見えない。
「茂田さん、実は今日は、息子さんのことではなく、あなたのことをお聞きしたくて伺いました」
伏見が言うと、茂田は目を丸くした。
「私のこと……ですか?」
「ええ。息子さんの事件と関係があることでもあります」
「どういうことです? なぜ私が息子の事件と関係が……」
「息子さん殺害に使われた凶器には、女性の指紋がついていました」
「女性? あれは女性に殺されたんですか? まさかまた……」
「そこは分かりません。でも、女性に殺されたのは、事実と見て間違いなさそうです。しかしそうだったとしても、疑問が残るんですよ」
「どんなことです?」
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