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第6話 口裂け女の噂【口裂け女の殺人/伏見警部補の都市伝説シリーズ】小説

■第6話の見どころ

・伏見が見つけた写真
・頑なになる常磐

第1話を読んでみる(第1話はフルで読めます)

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(これはどういうことだ……?)

谷山が帰ってから一人、伏見は自分のデスクでパソコンとにらめっこしていた。モニターには、古い事件の調書が映し出されている。

橘みづきが行方不明になったのと同時期、照井景子という女性が自殺する事件があった。照井は、当時はまだ珍しかった整形手術をして失敗。ショックから、電車に飛び込んで自殺した。遺体は、体だけじゃなく顔の損傷も激しく、口は裂けていた。

それからしばらくして、口裂け女の噂が流れ始めたらしい。調書にも、この事件が新聞で報じられたせいか、口が裂けた女が化けて出るという噂が流れているという記載がある。

雨草奈津美が目撃した女は、ワンピースを着て、笑っているように見えたという。そして、凶器はハサミ。発見されたハサミには、茂田郁彦の血と、橘みづきの指紋がついていた。

その橘みづきは、照井が自殺した二週間ほど前に失踪しており、今も見つかっていない。当時の噂通りなら、口裂け女は照井景子ということになるが、調書に載っている写真を見る限り、髪はショートボブぐらいで、茂田を殺害したと思われる女とは一致しない。対して橘みづきは、失踪当時の写真を見る限り、髪は腰の辺りまである。口角の上がった口と落ち着いた目からは、自信が感じられ、現在の基準でも美人で通る顔をしている。

(ん? おいおい、これは……)

「伏見……」

「……?」

顔を上げると、ドアを開けて入ってきた常磐と目があった。

「随分と遅くまで捜査してたんだな」

伏見が言うと、常磐は鼻を鳴らした。

「おまえは何をしてる? 猟奇殺人の捜査か?」

「教える義理はないよ、常磐刑事」

「俺の事件に手を突っ込むな」

「心配しなくても、おまえの捜査の邪魔はしない」

「……」

常磐の顔には、いつものように敵意が浮かんでいるが、視線が落ち着かず、立ったまま動かない。

「ん? まだ何か用か?」

「……なんでもない」

「……?」

何かあるのは、明らかだった。常磐自身も、隠せたとは思っていないだろう。他の誰かには聞けても、伏見には聞けない、それはつまり……

「常磐」

自分のデスクに戻ろうとする常磐に、伏見は声をかけた。

「たとえ直感に反していても、事実として存在するなら、それは受け入れるしかない。間違ってるのは自分のほうかもしれない。そう考えれば、見えるものも増えるぞ」

「……偉そうなもの言いだな。おまえのそういうところも、俺は気に入らない」

「気に入られようと思ってないから気にするな。でも俺は、気に入ろうが気にいるまいが、使えるものは使えばいいと思う。限度ってものもあるけどな」

「なるほど、そうか。確かに一理ある」

常磐は伏見のほうに向き直った。

「ならおまえは、43年前に失踪した女が当時と変わらない姿で生きているとしたら、どう考える?」

「……」

「指紋の件は聞いたんだろう? 木野から谷山に伝わって、おまえにも伝わったはずだ」

「当時と変わらないその女を、自分の目で見たのか?」

「……写真で確認した指紋の主と、俺が見た女の顔は、ほとんど一致していたと思う」

「ほとんど?」

「マスクをしていた。だから、目から上しか分からない」

「マスク、ね」

「その先は言うな」

伏見の頭に浮かんだものが見えたように、常磐は言った。

「十分だ。話しすぎた」

「43年前に失踪した女が、今も同じように若いままなら」

背中を向けた常磐に、伏見は言った。

「人間のまま、その期間若さを維持するには、俺たちの知らない医療技術が必要だろう。何かの実験の結果かもしれない」

「本気で言ってるのか? 伏見」

「三分の一ぐらいな。人間のまま、43年間同じ姿を維持するにはどうすればいいかって考えると、医療技術は現実的だ」

「遺伝子操作だとでも言いたいのか? そんなことが可能なら、今頃世界は大騒ぎだ」

「ああ、そうだな。そうなると、その線はなさそうだ。でも現実として、43年間姿が変わらない女がいる」

「……」

「事実があるなら、そうなる理由もある」

「おまえに言われるまでもなく、分かっている」

常磐はデスクに戻ると、椅子に座ったまま、

「だが俺は、おまえほど突飛じゃないし、おまえの発想は受け入れない」

それだけ言って、黙った。

「賛同は不要だよ、常磐」

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