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第11話 選択【死生の天秤】小説

■第11話の見どころ

・笛木の思い、行動の理由
・副作用発生

第1話を読んでみる(第1話はフルで読めます)

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自分の世界……いや、自分の国に戻ったというのに、笛木は自宅に帰って家族の顔を見ることも許されなかった。
ホテルにいた男……警視庁公安部の中でも、さらに特殊な任務についている寺崎恭吾(てらさき きょうご)に、連行されるようにして、裁判所の一室に連れて行かれた。

二十人は入れそうな縦長の部屋、出入り口に一番近い席に座って、笛木は部屋を見回した。
俗に言う評議室という部屋で、テーブルに沿って置かれた椅子は十席だけ。スペースがあるせいか、難しい話をする場所のわりには、圧迫感がない。

部屋の奥側にはモニター、壁際にはホワイトボードが置かれている。モニターはほとんど使われることはないが、評議で必要な場合、パソコンと繋いで画面を映すことがある。ベージュの壁とカーテンは落ち着きを与えてくれるが、壁も窓も防音で、音が外に漏れることはない。

「もう裁判が決まってるんですか?」

入口のドアの近くで、腕を組んで立っている寺崎が、笛木の質問に顔を上げた。

「いや、そんな段階じゃないし、おそらく普通に裁判が開かれることもない」

寺崎は、無機質に答えた。

「やはり……あなたが動いてる時点で、そうだろうことも覚悟はしていました。口外できない任務に就くことが多い公安の中でも、分岐した世界のことを知っていて、行き来する権限が与えられているのは、寺崎さん、あなたともう一人だけですもんね。私を連れ戻すだけなら、研究に関わっている私の同僚でも良かった。でもあなたが直接来たということは、“上”は相当、気分を害しているのだろうと思ったので」

「そこまで分かってるのに、三日で戻ると言ったのか?」

「ええ、そのとおりです」

「温情はないと思ったほうがいい。あんたの貢献は忘れられていないが、今回の件は逸脱しすぎだ」

「私は、命の恩人に恩を返そうとしただけです」

「結果的にうまくいっていないだろう?」

「確かに、想定される問題について、もっと考慮しておけばよかったと思います。その点は反省しなければなりません。ですが、やったことは間違っていないと、そう思います」

「本人たちに確認もせずにやったことに間違いがないと言い切るのか? 以前から思うことがあったが、その自信はどこから……」

寺崎は言葉を止めて、姿勢を正した。
同時にドアが開いて、一人の男が入ってきた。

ダークスーツに黄色のネクタイ、白髪混じりの髪はオールバックでしっかりと固められ、強風であっても乱すことが許されないほど整っている。左眉の外側にある1センチほどのホクロは、不思議と温かみを与えるが、鋭く光る目の真ん中にはシワが寄っていて、部屋の空気が2、3℃下がったような気がして、笛木は少し、体が震えた。

「おまたせしたね」

ダークスーツの男はそう言って、笛木の向かい側に座った。

「私が誰かは、分かっているかな?」

男に聞かれ、笛木は頷いた。

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