第11話 クロスオーバー【口裂け女の殺人/伏見警部補の都市伝説シリーズ】小説
■第11話の見どころ
・伏見、みづき(口裂け女)と対峙
・記憶と遭遇
・常磐の暴走
・見えてきた真相
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-1-
「谷山、寄り道だ」
伏見は言った。
監視していた茂田貴久が動いたという連絡を受けて、伏見と谷山は急ぎ、車を出した。監視していたチームが茂田の車を尾行し、その情報を受けながら、伏見たちも車を走らせていた。
「今の電話、雨草奈津美ですか?」
「ああ」
「なぜ寄り道を?」
「橘みづきと接触したとき、雨草奈津美も一緒にいたほうが、こちらとしても助かりそうだからだよ」
「助かる……?」
伏見から、奈津美との会話の内容を聞くと、谷山は眉をひそめた。
「逃がそうとしてる可能性もあるんじゃないですか、それ……」
「逃がそうとしてるというより、橘みづきが逮捕されないように、俺たちを説得しようとする可能性がありそうだな」
「そこまで分かってるのに、連れて行くんですか?」
「橘みづきと話すとき、一緒にいてくれたほうがいいのも事実だろう。知る限り、橘みづきが心を許してる唯一の人間だからな」
「でも、これから向かう場所に彼女がいるわけじゃ……」
「いや、もしすべてを思い出したなら、茂田貴久と橘みづきがたどり着く場所は同じだ」
谷山は方向を変え、公園で二人を乗せると、再び茂田が向かっている先に車を向けた。
「伏見さん、あなたはなぜ、あの常磐と……あ、常磐刑事と一緒に動いてないんですか?」
後部座席に乗った竹神が言った。
「同じ警察署の刑事で、同じ事件を追ってるんですよね?」
「まあいろいろと事情がありまして。
この事件の本来の担当は、常磐です。それと、一緒にいた木野という刑事。私は興味で調べているだけです」
「興味って……そんな理由でいいんですか? 殺人事件なのに……」
「良いとは言えませんね」
「な……」
「でも、結果的に事件が解決するならいいとは思います。常磐は怒るでしょうけど、あっちはあっちで、事件解決とは別の目的が中心になってしまっている。だから解決を焦って、無茶をする可能性がある」
「だから、あなたも調べている……?」
「いえ、私の中心にあるのは興味です。でも、常磐の無茶を止めるのも、目的の一つです。一応、私は常磐より立場が上ですし、問題を起こしそうだと分かっているのに無視はできませんので」
「あの、伏見さん」
奈津美が口を挟んだ。
「今、どこに向かってるんですか?」
「おそらくは、橘みづきも向かっただろう場所です」
「え……?」
「お二人に来てもらったのは、それが理由です。今日、橘みづきに会う見込みがないなら、あなたたちを連れてはいかない」
「じゃあ、これから向かう先に、みづきさんが? でもどうして……」
「そこはまあ、捜査情報なのでお伝えはできませんが、雨草さんが言ってたように、記憶を取り戻しつつあるのなら、そして行きたい場所があると言ったのであれば、間違いないはずです」
「伏見さん、そろそろ着きます」
谷山が言うと、伏見は頷いた。
-2-
「あのサイレンは伏見がやったことだと!!」
警察署に戻ってきた常磐は、捜査一課中に響くほど大きな声を出した。
「なんですか、急に大きな声出して……」
椅子に座っている刑事、大倉がいうと、常磐はにじり寄った。
大倉は捜査一課に配属されて二年目の若手で、率直な意見を口にするので、一部のベテランからは生意気、面倒、分かっていないなどと言われているが、伏見には気に入られており、大倉もまた、媚もせず、ベテラン風を吹かせることもない伏見に懐いていた。
「なぜ伏見はそんなことをした? アイツが制服警官に、公園の周りを回れって指示したんだろう?」
常磐は大倉の胸ぐらを掴んだ。
「ちょっと常磐さん、苦しい……」
「常磐さん……!」
木野が止めると、常磐は木野の手を払い除け、睨みつけた。
「また立場で抑えつける気ですか?」
木野が睨み返すと、常磐は大倉を見て、
「伏見はなぜそんなことをした? おまえにどんな指示をした?」
と言った。
「公園に殺人犯がいるって情報があるから、警戒のためにパトカーを向かわせろって……」
「おまえだな、木野」
大倉の言葉を聞くと、常磐は再び木野に視線を向けた。
「おまえが、伏見か谷山に話したんだろ」
「ええ、そうです。
雨草奈津美に対する常磐さんのやり方は、容認できないと思ったので」
「どいつもこいつも……もしこれで、犯人が新たに被害者を出したら、伏見も谷山もおまえも、全員タダじゃ済まんぞ」
吐き捨てるように言うと、常磐は歩き出した。
「どこへ行くんです?」
「おまえはこなくていい、邪魔だ」
常磐は捜査一課を出ると、早足で駐車場に向かいながら、スマホを耳に当てた。
「俺だ。伏見の車の行き先はどこだ?
……なるほど、分かった。念の為、地図を送れ。ああ、俺のスマホにだ」
スマホを持つ手に力を込めながらも、常磐は口元だけで笑った。
「木野がおまえに知らせることは想定済みなんだよ、伏見……」
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