見出し画像

第6話 黒い砂 テケテケ誕生の物語【伏見警部補の都市伝説シリーズ】

-14-

「畑中くん、聞いた? 倉持くんのこと、死んだって……」

勉強部屋で寛いでいた畑中は、葉子からの電話に、体を前に乗り出した。

「死んだ? おい、どういうことだ?」

「さっき、警察から連絡がきて、倉持くんについて知ってることがあれば教えてほしいって……」

「警察? おい、倉持はなんで死んだんだ?」

「詳しくは教えてくれなかったけど、殺されたみたい……」

「殺された……?」

「どうしよう、畑中くん……殺されたって、誰が……」

「落ち着け。俺のほうで確認してみる。おまえは予定通り動け」

「予定通りって……」

葉子の言葉を無視して、畑中は電話を切った。

「殺された? なんで倉持が?」

恨みという意味では、心当たりは複数ある。だが報復しようとする者はいないし、いても叩き潰してきた。

「……」

畑中は、父親のコネを使って、倉持のことについて聞き出したが、聞かなければよかったと後悔した。自分の部屋でバラバラにされた死体……家族もいる家で、そんなことが可能なのか……そもそもなぜバラバラに……

畑中に報復しようとする誰かが、綿密に計画を立て、倉持の家族にも見つからずに家に侵入して倉持を殺した……もしそうだとしたら、自分も、他の連中も狙われる可能性がある。

(計画はいったん保留にするか……? いや、考えすぎか。俺に報復なんてすればどうなるか、そいつらが一番よく分かってるはずだ……)

迷いはあったものの、畑中は取り巻き全員が入っているチャットに、計画は予定通りと打ち込むと、立ち上がった。

畑中からのチャットを見た、奈々、葉子、佐々木の三人は、勉強部屋に来て、準備を進めていた。日は西に傾き始め、喧嘩しているらしい、カラスの大きな鳴き声が聞こえてくる。

「ねえ、佐々木くん……」

奈々は、不安そうに言った。

「あん? なんだ?」

「警察から連絡きた? 倉持くんの件で」

「ああ。なんも知らねぇって言っといた。殺されたって……なんなんだろうな」

「どう、思う……?」

「分からねぇよ。でも畑中は大丈夫だって言ってた。俺等がどうこう考えなくても平気ってことだろ」

何か言おうとした奈々の肩に手を置いて、葉子は首を横に振った。

佐々木は、取り巻きの中で一番従順であり、自分で考えることをしない。畑中がやれといったことはやるし、やるなと言ったことはやらない。そんな姿を、二人は何度も見てきた。教祖を崇めるように、畑中が何を言っても過剰な同意しかせず、取り巻きの中でも浮いているのが佐々木だった。

「よし、あとはターゲットを待つだけだな。
俺、ちょっとコンビニ行ってくるわ」

佐々木が出ていくと、奈々は葉子を見た。

「倉持くんの件、どう思う……?」

「わかんない、でも……」

「……? 奈々、なんか知ってるの?」

「あたしね、倉持くんのお母さんに、聞いちゃったの……」

「聞いたって、何を?」

「倉持くんが、どんなふうに死んでたか……」

「え、なに、それ……」

「聞きたい?」

「あんまり聞きたくないけど、話すんでしょ?」

「うん、ごめん……一人で抱えてるの、辛くて……」

「そうだよね……それで、どんなふうだったの?」

「朝、倉持くんのお母さんが部屋に行ったら、部屋の中で、バラバラになって、死んでたんだって……」

「え? 体がってこと?」

「うん……手も足も、首も全部、引きちぎられたみたいに……」

「引きちぎるって……そんなことできるわけないじゃん……!」

「あたしもそう思ったけど、でも、ほんとなんだって……」

「畑中くんは知ってるの? それ……」

「分からない、まだ聞いてないから……」

「……」

「葉子? どうしたの?」

「倉持くんがそんなふうになったのって、彼自身の、私たちが知らない理由があったからなのかな……」

「え? どういう意味?」

「嫌な予感がするの……昨日からずっと、誰かに見られてる気がしてて……」

「見られてるって、ストーカーとか?」

「違う……! そういうんじゃなくて、なんていうか、人間じゃない何かみたいな……」

「なにそれ、幽霊ってこと?」

「分からない……でも変なの。私も馬鹿げてるって思うけど……家族がいるリビングでも、お風呂に入ってても、部屋にいても、ずっと視線を感じるの。変でしょ!?」

「うん……それで、何か、見たの……?」

「ううん、何も……けど視線を感じるのは間違いないの」

「今は……?」

「今は、別に……」

“ガチャッ”とドアが開く音がして、二人はビクっと肩を震わせた。

「戻ったぞ。
……? おまえらどうした? なんかお通夜みたいになってんな」

ケタケタと笑った佐々木を見て、葉子は壁に背中を押しつけるようにして立ち上がった。

「葉子……?」

「また、またよ……視線を感じる……!」

キョロキョロと狂ったように部屋中を見回す葉子を落ち着かせようと、奈々は立ち上がった。

「なんだよおまえら。なにやってんだ?」

「実は葉子が……」

「いやあぁぁぁ……!!」

奈々が言いかけたとき、葉子が悲鳴を上げた。

ここから先は

4,405字

スタンダードプラン

¥630 / 月
初月無料
このメンバーシップの詳細

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?