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第10話 ある疑念【聖者の狂気】(小説)

-21- ある疑念

泉水が会ってから二日後。
悠子は自宅で、寺迫と八木沢の件を調べていた。本当は出勤して、本庁にある資料や端末で調べたいところだったが、急用がない限り休みは指定通りに取得することが決められており、時間や休日のタイミングが不規則な刑事であっても、例外ではなく、よほど大きな事件、或いは緊急性の高い事件でなければ、休日に本庁に行くことは許されなかった。もっとも、よくある話で、管理職になると、そういったものも、あってないようなものになるのだが。

(家で調べるって、私別にITに強いわけじゃないし、限界あるな……)

ため息混じりに、椅子に座ったまま天井に顔を向けた。
ダイニングキッチンとリビングが繋がっている部屋と、八畳の洋室には、ほとんど物がない。
服にもこだわりはないため、クローゼットが服で埋め尽くされることもなく、八畳の洋室にはベッドと、壁際の本棚があり、法律の本や護身術、犯罪心理学や推理小説など、数百冊が収まっているが、中身を確かめるまでもなく、本の背表紙を見ただけで、偏りがあるのが分かる。

ピリリリリリ!!

「……!」

リビングのテーブルに置かれたパソコンを見ながらウトウトしていると、スマホが鳴った。

「はい、前山です」

『先輩、お休み満喫してますか?』

電話の向こうで、摩味は無邪気に言った。
摩味も今日は休みのはずだがと思いつつ、悠子はウトウトしていたのを分からないように、自分の声に意識を向けた。

「どうしたの? 休みの日に連絡なんて」

『明日にしようかなって思ったんですけど、早いほうがいいかなって』

「なんのこと?」

『鈍いなぁ、先輩……ってすみません……あれです、寺迫の件』

「何か分かったの!?」

『やっぱり今日連絡して良かったみたいですね(笑)』

「あ……うん、そうね、否定できない……(笑)」

『これから会えますか?』

「ええ」

『じゃあ、神保町のカレー屋さんでどうですか? 最近できた店があって、行ってみたくて』

「デートじゃないのよ?」

『そうですけど、美味しいもの食べながらのほうがいいじゃないですか』

「……分かった。なんて店?」

『あ、場所は後で送ります』

「そう、ありがとう。
じゃあ、後でね」

電話を切ると、悠子はすぐに着替えて家を出た。

「先輩、こっちです!」

駅に着くと、改札を出たところで摩味が手を上げた。

「バッグ、重そうね。大丈夫?」

悠子が聞くと、摩味は照れたように、

「私のプライベートパソコン、古くて、重いんです……(笑)」

と言った。

「でもこれ、今日必要ですから」

「分かった。でもまず、カレーを食べる?」

「はい、こっちです!」

摩味は時折スマホを確認しながら、迷うことなくカレー屋に到着すると、オススメを大盛りで注文して、悠子の半分の時間で平らげると、ノートパソコンをテーブルに置いた。

「先輩はゆっくり食べてください」

悠子が食べている間、摩味は真剣な顔で、何やらパチパチとキーボードを叩いていたが、食べ終わったのを確認すると、悠子にも見えるようにパソコンの位置を動かした。

「これです」

モニターを指差す。

「これは?」

「例の未遂事件のこと、事件を担当した人に聞いたんです。事件当日、八木沢は猿倉澪を会ってた。会う約束の前に事件が起こって……」

「それは分かってるけど、このメモがなんなの?」

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