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偶然の再会、そして(ショートストーリー)
「あれ、もしかして…江南さん? 江南涼子さん……?」
退勤後、いつものスーパーで声をかけられた。マスク越し、そして数年ぶりのことだったので、最初は誰だか分からなかった。
「え、吉川さん?!」
声の主は、高校時代のクラスメイトだった、吉川沙奈恵さん。
当時は、よく一緒に購買のパンを食べた仲。
「こんなところで会うなんて、奇遇だね!」
沙奈恵さんも独身で、近くに住んでいるとのこと。
私たちは近くの公園のベンチに腰かけ、近況を報告し合った。
「最近、仕事と家の往復で、誰ともまともに話してなかったんだよね。会社、フル出社なんだけど、ほとんど会話がなくて」
私がそう呟くと、沙奈恵さんも大きく頷いた。
「私も。毎日同じことの繰り返しで、心が干からびてミイラみたいになってる」
私たちは、お互いの孤独な日常を笑い飛ばし、共感し合った。
「よかったら、今度お茶でもしない? 近くに美味しいカフェがあるんだ。こないだ見つけたの」
沙奈恵さんの言葉に、私は喜びが溢れた。
「うん、ぜひ!」
別れ際、沙奈恵さんと連絡先を交換した。
スマホに新しい連絡先が加わったのを見て、心がじんわりと温かくなった。
あれから一ヶ月が過ぎた。
沙奈恵さんとカフェに行ったり、近所の公園を散歩したり。他愛もない話で笑い合ったり。そんな時間のおかげで、私の毎日は少しずつ、色を取り戻し始めた。
先日なんて、沙奈恵さんに誘われて、近くのボルダリングジムに初めて行った。最初は不安だったけど、沙奈恵さんと一緒だったから、勇気が出た。
壁を登り切った時の達成感、そして二人でハイタッチをした時の嬉しさ。
あの一瞬、私は確かに
「人と繋がっている」
と感じた。
「今度ね」
沙奈恵さんは、連絡を取らなくなってしまった友達、高校時代に仲良くしていたクラスメイトなどに連絡を取って、集まる会を企画していると話してくれた。
私と再会し、一緒に行動するようになったことがキッカケだという。
それを聞いて、私はまた嬉しくなって、思わず、
「ありがとう」
と伝えた。
「こちらこそだよ」
沙奈恵さんは言った。
新しい出会い、新しい繋がり。想像しただけで、心が躍る。
孤独を感じていたあの頃の私に、教えてあげたい。
大丈夫、あなたはひとりじゃない。
そして、あなたの人生は、これからもっと豊かになるよ、と。