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残酷な世界で生き残るために必要なのは? 「世界最強の地政学」で世界視点を学ぶ

■どんよりとした世界が晴れ渡る考え方と視点をくれる本

地政学と名のつく本は、ここ数年本屋でよくお見かけします。似たようなタイトルのものもありますが、ビジネス書なんかを読む人なら、一度は手に取ってパラパラと見てみたことがあるかもしれませんね。

しかし多いからこそ、興味があってもどれを読めばいいか分からないし、買ってみてイマイチだったら、

「あっちにしておけば良かったか……」

などと、後悔が"ポワン"と浮かぶこともありますよね。
隣にあったほうを手に取った自分を想像したりして。
せっかく世界の裏を学んでドヤろうと思ったのに、なんか違った……と。

でも実は、僕らが地政学に求めがちな邪(よこしま)な考えが、間違った入口を選ばせてしまうのです。

日本の読者のみなさんがイメージしているような、「世界の秘密を教えてくれる学問」という怪しいイメージの「地政学」ではなくて、どちらかといえば「国家戦略を考える上でベースとなる、地理を重視する知識の寄せ集めや視点、戦略論」ということになる。

世界最強の地政学

まえがきで、著者の奥山真司氏は上記にように書いています。
「学」ってついてるのに学問じゃないんかい、とツッコみたくなるかもしれませんが、学問ではない。では何かというと、国の中枢にいる人たちからすれば「国家戦略を考えるベースとなる考え方や視点」、僕ら一般人からすると、「世界情勢がなぜこうなっているのかを考える、観る上でベースとなるもの」、といったところかと思います。

地政学・戦略学者である奥山真司氏は、「サクッと分かるビジネス教養 地政学」という本でも有名ですが、他にもたくさんの翻訳本(こっちはけっこう内容が難しいものが多い)や、アメリカの戦略家、エドワード・ルトワック氏とも懇意で、ルトワック氏にインタビューした内容を分かりやすくまとめた本など、多数の著書があります。

「世界最強の地政学」は、複雑で分かりづらい世界をクリアにするために必要な「地政学」のエッセンスを、新書サイズで教えてくれる本です。

ということで今回は、「世界最強の地政学」の中から、残酷な世界の現実を見るために大事なことを三つに絞ってお話します。

■残酷な世界の現実を見るために必要な三つの視点

「だって 世界はこんなにも残酷じゃないか」

進撃の巨人で、ベルトルトが発するセリフですが、シーンと相まって心臓にズキンときますよね。そして残念ながら、アニメの世界だけじゃなく、僕らが生きる世界も残酷です。

■残酷な現実① 人は互いに争う
「世界最強の地政学」は、とても分かりやすく地政学とはなんぞやを解説してくれている本ですが、それはつまり、分かりやすくサラリと、世界の現実を見せてくるということでもあり、その一つがこれ。

人は集団をつくり、互いに争う。
これが、地政学の基本認識の一つです。

出典:世界最強の地政学

平和でありたい僕ら一般人、というかおそらくは世界の大多数の人からすると、なんとも眉を潜めたくなる一言ですね。しかし残念ながら、それが現実。人がもっとも認めたくない現実かもしれません。

戦国の世ならともかく、戦争なんて良くないと、現代を生きる人達のほとんどは分かっています。争いなんてしたくない、と。でも、太古から争いはなくならず、今もウクライナとロシアは戦争中で、イスラエルとハマスもやりあってますし、チャイナは台湾を虎視眈々と狙っています。

武力衝突じゃなくても、テクノロジーで優位に立とうとしたり、情報で自国や敵国の世論を誘導したりしますし、みなさんが属している企業だって、他の企業と戦ってますし、企業の中ではグループや個人が、それぞれの利益のために多かれ少なかれ戦っています。

経済や文化の交流をもって平和を得よう、お互いに理解を深めようなどといっても、無意味ではありませんが、それだけでは解決できず、合理的に考えれば間違っていても、人はときとして武力を選びます。力でもって自らの意志を相手に押しつけることを選ぶことがあるわけですね。

相手を理解しようとする気持ちがあれば……という人もいますが、あの人、あの国はこう考えるんだなと理解したところで、それを受け入れられるかどうかは別で、こっちにその気がなくても、相手が理解を強要してくるなら、戦うしかない。

人は集団を作り、互いに争う。
この現実を受け入れないと、平和を求める気持ちはどこまでいっても理想で終わると思います。

■残酷な現実② 世界は感情で動く
プーチンのロシアがウクライナと戦争する理由、それは彼が、ディープステイトと戦う正義だから……ではありません。プーチン(ロシアがと言ってもいいかもしれませんが、分かりやすくするためにプーチンとします)はある感情に動かされて戦争を始めました。
それは、

ロシアは広大な領土を持つ大国ですが、その戦略的態度を歴史的に分析していくと、そこに浮かび上がるのは、自国を侵略されることへの「恐怖」です。
ロシアは13世紀から250年近くにもわたって、モンゴル帝国に侵攻され、その支配を受けました。
16世紀にはスウェーデン、ポーランドにも攻められ、

中略

ナポレオン率いるフランス、アドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツにも攻め込まれ、いずれもロシア本土での戦闘で甚大な被害を受けています。

中略

ロシアは伝統的に、自国の周囲にバッファーゾーン(緩衝地帯)を設定しようとします。

出典:世界最強の地政学

ここから、プーチンを動かしたのは、「恐怖」という感情だということが見えてきます。

合理的に考える、みたいな本も、本屋さんにはたくさんありますが、結局人間は感情で動きます。感情で動き、論理で納得する(言い訳を許すともいう)。そして、感情が一番力を発揮するのは、それが起きたときではなく、起こる直前です。

たとえば、ホラー映画でヒロインが殺人鬼に襲われ、恐怖がピークになるのは、頭に斧を振り下ろされる直前、「あれが頭に落とされて死ぬ……」と想像したときです。
同様に、プーチンが恐怖したのは、NATOが拡大して敵対する国との間に緩衝地帯がなくなると想像したときでしょう。

もちろん、プーチンに限らず、自分以外の頭の中を覗くことはできません。
だから想像の域を越えないのですが、感情の動きという意味ではそういうことになります。

その恐怖や不安が事実ではなくても、冷静に考えればありえないと思うことであっても、影響されるのが人間です。一般人である僕らでも、身に覚えがあるのではないでしょうか。

たとえば、人間関係にトラウマをもってる人は、新しい人との出会いの場に行くと、過度に緊張したり、笑顔で話しかけてくる人がいても、何か裏があるんじゃないかと考えてしまって、関係を深めるチャンスを逃してしまう、なんてこともあると思います。

そういう態度にさせるのは、過去に根付いた恐怖です。その人の背景、歴史といってもいい。
大国のトップともなれば、その影響は大きく、ときには戦争ということにもなるから、感情で動いてるなんて考えにくいかもしれませんが、根っこにあるのは、様々な感情。その感情が不安や恐怖の場合、人は安心という着地点を求めて動きます。

プーチンにとっての安心は、NATO諸国との間に緩衝地帯を確保することです。
だから(戦争は)しょうがないよね、とはならないんですけどね。

■残酷な現実③ 地理は世界観に直結する
地政学で重要な要素の一つが、シーパワーとランドパワーです。
シーパワーの代表は、アメリカ、イギリス、日本など。
ランドパワーの代表は、ロシア、チャイナなど。

直訳すれば、海の力と陸の力ですが、これを性格として捉えるのが面白いところです。
まずはシーパワーから。

19世紀から20世紀初頭にかけて、シーパワーの雄となったのがイギリスです。
その大きな特徴は、「点と線による支配」、そして「同盟の戦略」でした。

出典:世界最強の地政学

世界地図を見てみると分かることですが、イギリスは日本と同じように島国で、国土も大きくありません。ですが、かつてイギリスは、19世紀から20世紀初頭にかけては世界一、今でいうアメリカのポジションにいたわけです。そしてそれを実現させた戦略が、点と線による支配と、同盟の戦略、ということですね。

島国であるイギリスは、本国の領土がそれほど大きくなく、人口も世界各地を占領支配し続けられる規模ではありません。そこで彼らが編み出したのは、世界中で自分たちの拠点となる港湾(点)を押さえ、それを結ぶ航路(線)を支配する「ネットワーク型の支配」だったのです。

出典:世界最強の地政学

少し想像してみると分かりますが、自分たちですべての領土を支配下において運営するというのは、コストはかかるし、情勢も安定しません。

そこでイギリスは、別の方法を考えた。
直接支配ではなく、間接支配。いや、支配というより、コントロールといったほうがいいかもしれません。

そして同盟の力。
日露戦争で日本がバルチック艦隊を破ったのも、シーパワーの戦略が大きく関係しています。

バルチック艦隊を破った日本海海戦といえば、東郷平八郎の雄、児玉源太郎が先導して作った独自の海底ケーブルや、下瀬火薬といった兵器が注目されがちですが(もちろんそれらも勝利の重要な要素だったのは間違いない)、日英同盟の力が大きかったのです。

イギリスが日本と同盟を結んでいたため、バルチック艦隊はイギリスの息がかかった港に寄港できず、ルートも制限されたため、日本海まで来るのに遠回りすることになり、充分や補給もできないまま、日本海海戦に挑むことになりました。

まさに、港湾(点)と航路(線)の支配、同盟の力というシーパワーの特性が存分に発揮されたがゆえに、日本は戦争の行方を大きく左右する日本海海戦に勝利できたということです。

では、対するランドパワーは?

では、一方のランドパワーは何を目指しているか。一言でいうなら、面(領土)の拡大です。

出典:世界最強の地政学

もうなんとなくピンときますよね。
そう、ランドパワーの代表であるロシアとチャイナは、未だに領土拡大にこだわっています。
ロシアはウクライナに侵略戦争をしかけ、チャイナは台湾、尖閣諸島、沖縄も狙っています。

日本やイギリスと違って、陸続きに国が存在する両国は、常に隣の国から侵略を受ける恐怖をもっています。だから安心を得るために、外へ外へを領土を広げるわけですが、前述したように、広げた領土すべてを支配するのは、あまりにもコスパが悪い。

だいたい、強引に攻め込んできた国の支配など、悪政を敷いていた国が倒れて自由を得られたという、ある意味支配する側にとって好条件があったとしても、支配される側からすれば、不安と恐怖、敵対心が生まれます。次の支配者が以前よりマシとは限らないわけで、知らない天使より顔見知りの悪魔を選ぶのが人間。

だから押さえつける力が必要ですが、そんなものをずっと続けるのはまず無理で、内戦が勃発して国が荒れるなんてことになるわけです。

そういったことから、ランドパワーの根っこにあるのは、

「支配するか、支配されるか」

という二つの選択肢になりがちで、ゆえに彼らはああいう態度なのです。

ランドパワーの性格は、アダム・グラントの名著「GIVE AND TAKE」にあるような、成功するギバー的な発想(自分ができるだけ多くの利益を得ようとするのではなく、全体のパイを増やしてWin-Winにして、自分の取り分も増やすというような発想)にはならず、テイカー(できるだけ多くを奪う。相手の利益など考えない)的な発想になる。嫌われて当然ですね。

■現実を受け入れた先にしか平和はない

残酷な世界を見るために必要な三つの視点、いかがだったでしょうか。
この他にも、点と線の重要性をさらに詳細に解説した「ルートとチョークポイント」、「戦争は勝利が目的ではない」といった、「いや、ちょっとまって……」と言いたくなるようなことに対する納得の解説など、200ページの中に、世界情勢を見るために必要な基本知識が詰まっています。

世界は残酷で、受け入れたくない、残酷な世界はどこかがおかしいと思いたくなりますが、残念ながら、世界が残酷でなかったことなど、ありません。
まずはその現実を受け入れて、その上で、自分たちが安心して暮らせるようにするにはどうすればいいか(圧倒的な力をもって世界を支配したら安心というのが幻想であることは、この本を読めば分かります)を考えるキッカケになる、そのために必要な基本知識を与えてくれる、そんな本だと思います。

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世界最強の地政学

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