第4話 夢現【死生の天秤】小説
■第4話の見どころ
・ありえない光景
・混乱する箕島
・愛しさより戸惑い
-1-
笛木と話してから、一ヶ月が過ぎた。
あのとき感じた思いを否定するつもりはないが、生活には特に変化はなかった。相変わらず、時間いっぱいのスケジュールで一日を埋め、時間があるときは頭痛が止まらなくなるほど飲む。時々知夏にあって、遊びに行ったり、話をしたり、体を重ねたりするものの、生活に変化はなかった。
(今日やることは全部終わったか。まだ昼……長いな)
書斎を出てキッチンまで歩くと、棚の中のウィスキーを取り出したが、すぐに元に戻して、冷蔵庫を開けた。
「また食材がほとんどない。どうなってんだこの家は」
“ピンポーン”
自分に悪態をついていると、インターホンが鳴った。
宅配は頼んでいない。知夏との約束は明日で、今日は誰ともアポは取ってないし、取っていたとしても、家で会うことはない。
まさか笛木が? ふとそんなふうに思ったが、家の住所までは教えていない。教えていたとしても、あの男なら電話かメッセージを送ってくるはずだ。
(保険屋か? 新聞屋は随分前に論破したから来ないだろうし、押し売りの類か? だったらだって、あえて話を聞いて記事にしてやっても……)
ドアスコープから外を見る。が、誰もいない。左右にできるだけ視線を動かしても、何も見えない。
(いたずらか?)
念のため確認しようとドアを開けて、箕嶋は固まった。
自分が何を見ているのか、理解ができなかった。昨日は仕事が忙しくて酒は一滴も飲んでいない。朝起きてシャワーを浴び、すでにひと仕事終えているし、今は昼の12時過ぎ。寝ぼけているということもなければ、まだ夢の中ということもない。
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