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第10話 策【口裂け女の殺人/伏見警部補の都市伝説シリーズ】小説

■第10話の見どころ

・事件と記憶がリンク
・常磐激怒
・伏見暗躍?

第1話を読んでみる(第1話はフルで読めます)

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(どうしよう、どうすれば……)

警察署を出た奈津美は、ショルダーバッグのベルトを両手で握って、駅へ急いでいた。約束の時間まで、あと一時間ほど。竹神に連絡して日程を変えることも考えたが、常磐の言葉が、チャットを打つ手を重くした。伝えたとしても、みづきに連絡する術もなく、結局何も言えないまま、奈津美は約束の時間の五分前に公園に着いた。
誰もいなかったが、一分ほどすると、竹神が来て声をかけてきた。

「どうかしました?」

俯いている奈津美を見て、竹神は言った。

「えっと、その……」

「なにか、まずいことでも?」

竹神は、ベンチに座るよう促しながら言った。

「実は……」

常磐のことを聞いた竹神は、眉をひそめた。

「そんなこと、やっていいのかな。だってそれ、脅してるようにしか聞こえないですよ」

「私もそう思ったんですけど、でもじゃあ、私たちのしてることって正しいのかなって思うと、それも違う気がして……みづきさんは、その……」

「それは、そうだけど……」

竹神は、凝り固まった首と肩をほぐすように、ストレッチしながら周囲を見た。
誰もいない。すでに真っ暗な公園を照らすものは、等間隔で設置されている外灯だけ。虫が少し集まってきている以外、何もない。

「常磐は、どこかで見張ってる?」

竹神が小声で言った。

「たぶん……」

「橘さんが来たら、出てくる気かもしれないですね、どこかに隠れてて」

「でも隠れる場所なんて……」

「この公園、周りに木があるし、外に車を停めてその中にいるとしても、双眼鏡でも使えば、俺達のことは確認できると思います」

「みづきさんに、今は来ないでって伝えたいけど……」

「彼女、連絡取れるものを持ってないですからね……」

約束の時間から、10分が過ぎた。
みづきはまだ現れず、代わりにパトカーのサイレンが鳴り響いた。

「何か事件ですかね」

竹神がサラリと言った。

「え? まさか……」

「橘さんがとは言ってませんよ」

「あ、そうですよね……すみません」

「いえ、別に謝らなくても……でもなんか、ただ事じゃないぐらい、ずっと鳴ってますね」

奈津美は、顔を上げて公園の外に目を向けた。
パトライトが、所々に見える。自分が何をしたわけでもないのに、不安が大きくなって、無意識に竹神を見た。
焦りは見えないが、警戒しているのか、目立たないように周囲を気にしているように見える。

「……!」

ズボンのポケットに入れたスマホが揺れて、奈津美は声を上げそうになった。

「もしもし……え? 伏見さん? 警部補さん、ですか?」

「……?」

「はい、はい……あ、いえ、彼女はまだ……」

「常磐……!」

竹神が言うと、奈津美は咄嗟に通話を終えて、ポケットに戻して立ち上がった。

「これはどういうことかな?」

二人の前に歩いてきた常磐の顔は、明らかに苛立っていた。後ろには木野はいて、二人ではなく、常磐のほうに視線を向けている。

「橘みづきはどうした? 約束の20時はとっくに過ぎてる。もう15分以上だ」

「私たちにも分からないんです、連絡も取れないし……」

「ほう、ついさっきまで電話していたようだが?」

常磐の視線が刺さる。
奈津美は体が震えだして、俯いた。

「誰と電話してた?」

「そんなこと、あなたに話す必要があるんですか?」

竹神が言った。
奈津美を隠すように前に立ち、まっすぐに常磐を見ている。

「あんたには聞いてないよ、竹神さん」

「俺はあんたに聞いてるんですよ、常磐さん」

「なんだその態度は!!!」

「何を怒ってるんです? 市民は警察に頭を下げなきゃいけないんですか? 何も悪いことをしていないのに、上司にするように頭を下げて言うことを聞けと?」

「殺人事件の捜査だぞ! 分かってるのか!! おまえらが庇ってる女は殺人犯なんだよ!!」

「庇ってると言い切るなら、明確な証拠はあるんですか?」

「なんだと……」

「庇ってる証拠ですよ。俺と雨草さんが殺人犯を庇ってる、警察に捕まらないように手を回してる証拠です」

「いえ、そういうものはありません」

木野が言った。

「口を挟むな!」

「証拠がないなら、俺達を問い詰める理由もないはずです。誰と電話してようと自由だし、あんたに報告する義務もない」

「この……!」

「常磐さん、諦めましょう」

木野は、常磐と奈津美たちの間に立った。

「橘みづきは来ません。彼らを責めても何も出ません。だったら、他の場所を探したほうが良くないですか?」

「……」

常磐は木野を睨みつけてから、舌打ちしてその場を去った。去り際、竹神の肩に常磐の肩がぶつかったが、失礼とだけ言って歩いていってしまった。代わりに謝罪した木野が後を追いかけ、公園は再び二人になった。

「最低ですね、あの常磐ってヤツ」

竹神は鼻息を荒くした。

「ありがとうございます、竹神さん……」

「え?」

「さっき、庇ってくれて……」

「ああ、そんなこと、別に。常磐の態度がありえなかったんで。あ、それよりさっきの電話……」

「あ、そうなんです。さっきの、私が最初に警察署に行ったときに話を聞いてくれた刑事さんで」

「なんで、わざわざ電話を?」

「それが……」

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