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「パパ、どうして⁉︎
今日は遊園地に行くって約束したのに。」
「ほんとうにごめんな。
仕事のトラブルの電話かかってきてしまって。」
そう言ってパパは急いで会社に行ってしまった。
「ひどいよ!休みの日には電話かけてこないでくださいって今度社長さんにお手紙書かなきゃ。」
ぶつぶつ文句を言ってたらママが言った。
「パパも最近忙しいからね。
洗濯が終わったら公園に行こうか。
それまでちょっと遊んで待ってて。」
「いやだよ。いやだ。
ママなんかにぼくの気持ちわからないよ。」
くさくさしたまま廊下にうずくまると
ふと扉が開いているのが見えた。
「パパの書斎だ。」
(いいか、のりひろ。パパの仕事場だから
絶対に入ったらダメだぞ。)
と、いつも言われてるけど構うもんか。
先に約束をやぶったのはパパだ!
ドアノブに手をかける。普段は鍵がかかってるけど、今日は慌てて閉め忘れたのだろう。
初めて中にはいった。
目の前には棚一面に本が並んでいた。
「うわぁ、パパこんなに沢山本もってるんだ。」
書斎の椅子によじ登って見渡すと、ふと一冊の本が目に入った。
「ぼ・く・の・と・も・だ・ち、絵本だ!」
その本をとろうと手を伸ばし掴んだと思ったら椅子から落ちてしまった。
「いてててて、パパの絵本かな?」
少し角が黄ばみがかった絵本の表紙を見ると、キツネの絵が描かれていた。
ページを開くと
「うわぁっ!」
キツネが絵本から飛び出してきた。
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「ああ、良かった。元気だったんですね。最近見かけないから心配しました。」
びっくりして寝転がったぼくの上に乗っかってキツネは言った。
「え?なんのこと?ぼく、きみのことしらないけど。」
そう、ぼくが答えると
「そうですか、君はぼくの知っているともだちではないんですね。」
キツネがあまりにも寂しそうに言うのでぼくは言った。
「そしたら、今日からぼくとともだちになろう。そして、君の友達も探してあげるよ。」
「ありがとう、ぼくの名前はギンです。」
「ぼくはのりひろ。よろしくね。」
ぼくたちは握手をした。
「その友達の名前はなんていうの?」
「えーと、それが。。。もう何年も会ってないので思い出せなくて。。。確か『とも』だったかな?」
「そうなんだ、『とも』くんかなぁ。いつもどこで遊んでたの?」
「近くの雑木林で。」
「『ぞうきばやし』ってなに?」
「木がいっぱい生えてるところです。小さい小川もあって。」
「うーん、そんな所、近くにあったかなぁ。あ、神社の裏は木がいっぱい生えてたかも!そこに探しに行ってみようか?」
洗濯を干しているママに見つからないように家を抜け出し神社へ向かった。
ギンの走りはおそろしく早くて
風のようにビュンビュンビュン。
「ちょっと待ってよ!
そこを曲がって右だよ。」
全力で追いかけるとすぐに神社についた。
だーれもいない。
「ギンが遊んでたのはここ?」
ギンはぐるりとあたりを見回して首をふる。
「似てるけど違うみたいです。」
「そっか、『とも』くんどこにいるかなぁ。」
「ありがとう。でも、友達のことは今日はいいです。折角なので一緒に遊びましょう。」
それから1人といっぴきで、木に登ったり、追いかけっこしたり、かくれんぼしたり、むしをつかまえたり、どんぐりをひろったりとめいっぱい遊んだ。
落ち葉に埋もれて遊んでいると、ギンが顔を出して言った。
「やっぱり君はぼくの友達にそっくりです。今日は一緒に遊べて楽しかった。のりひろくん、ありがとう。」
なんだか、まじまじと言われて気恥ずかしくなって、ぼくは思わず落ち葉に隠れた。
「ぼくもだよ、ギン。」
そう言おうとして顔を上げると、
そこは神社ではなく、パパの書斎だった。
ギンの姿も消えていた。
「え?あれ?ぼく、寝てたの?あれは夢?」
ふと手元を見るとページの開いた絵本がある。落ち葉で遊んでいるキツネが描かれていた。
(ああ、そうか!)
「のりひろーどこにいるの?洗濯終わったから公園に行くよー。」
ママの声がした。
「ちょっと待ってて!」
返事をして、パパの書斎の机からペンを借りる。
絵本を裏返して、名前を書く。
くりた ともひろ
のりひろ
パパの名前とぼくの名前も。
(これでギンもぼくらの名前忘れないよね。)
「のりひろー?じゅんびできたー?」
「待ってー今行くー!」
パパが帰ってきたら、この絵本を読んでもらわなきゃ。
(ギン、ちゃーんと見つけたよ。君の友達。今度は三人で遊ぼうね。)
土屋鞄製作所✖️note 絵本コンテスト応募作です。「長く大切にしたいもの」というテーマでしたので、「親から子へ受け継いでいく絵本」をテーマに、父の絵本や画集を見つけて勝手に引き継いでいる経験だったり、自分の子供の言動なども取り入れてみました。また自分が子供の頃よりも今は遊べる自然環境が減ってしまっていることも気になっているので、サブメッセージとして長く大切にしたい「子供たちが遊べる自然の環境」も込めてみました。絵はなかなかイメージ通り描けずかなり苦戦しました。
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