「ガリバー旅行記」感想（「26世紀青年」と比較して）

カンフーパンダやジュマンジでのジャックブラックは大好きなんだけど、テネイシャスDとかスクールオブロックとか、彼が一定以上前面に出てくるような映画はなぜか苦手で、さてこの映画はどっちだろうと思いながら見てみると……。

新聞社に勤めるガリバーは、仕事も恋もパッとしない郵便係。バミューダ・トライアングルの取材という大仕事を手に入れたガリバーだったが、大嵐に巻き込まれ遭難。浜辺で気が付くと、小人たちに拘束されていて...。
（Googleトップに出てきたガリバー旅行記のあらすじ）

嫌いな映画でした。

この映画において観客は、可愛らしい衆愚の様子を笑いながら、主人公がこの「程度の低い」文明を啓蒙していくのを見守ることになる。
イジワルな書き方になってしまったけど、この楽しみ方は僕の大好きな26世紀青年と共通している。

極秘実験で一時的な冬眠状態にされるも手違いで500年後に覚醒した男が、国全体がおバカになっている有様に驚愕しながらその改善へ奔走する姿を描いたSFコメディ。
（Googleトップに出てきた26世紀青年のあらすじ）

26世紀青年は大好きだけどガリバー旅行記は嫌い。じゃあ何が二つの映画を分けているのかというと、主人公がこの世界を楽しんでいるかどうかだろう。もちろんこれだけでは何も言ってないも同然なので、それがどういうことなのかを以下で説明していく。

まず手頃なところから行くと、26世紀青年の世界では、みんながあまりに馬鹿すぎるせいで対話が不可能だったのに対して、ガリバー旅行記の小人達は文化的に「未熟な」だけで話は通じ、「成熟した」価値観を持ったガリバーのことをヨイショしてくれる。
（小人達を文明化されていない人々として描き、彼らに巨大な主人公を見上げさせるという構図はかなり気持ち悪かった。この点については後でまた触れる）

また、26世紀青年は自分のいた時代と地続きの未来での話だったのに対して、ガリバー旅行記の舞台になるのは自分のいた世界とは全く関係のない異世界だ。
26世紀青年では主人公にも少なからずこの「程度の低い」世界を作ってしまった責任がある。訂正、責任という言葉を使うと言いたいことからズレてしまうけど、とにかく、悲惨な状況になってしまった世界の歴史に主人公も名を連ねている。
それに対してガリバー旅行記では、主人公は完全なアウトサイダーとしてこの世界にやってくるので、無責任にこの世界を楽しむことができる。
故郷が世紀末になってしまったという悲劇と、世紀末な世界を物見遊山してみたという喜劇は似てるようで全然違うものだ。

こういった違いから主人公達のスタンスにも違いが出てくる。
26世紀青年の主人公はなんとか元の世界に帰ろうとするも、最後にはこの世紀末を生きるしかないとなった。
それに対してガリバーのスタンスは以下の変遷を辿る。

元いた世界は自分を必要としてないけど、ここの小人達は自分を賞賛してくれる。
↓
元の世界には帰りたくない。
↓
好きなあの子が来て、自分のことを必要としてくれた。しかも彼女は帰りたそうにしてる。
↓
じゃあ帰ろっか！

何だこのしょうもない話。
葛藤とかは何もなく、ただちょっといい気分になって帰ってくる。こんなもんただの旅行じゃねーか、と思ったところでこの映画のタイトルがガリバー"旅行記"であったことを思い出す。

そしてここまでガリバー旅行記の嫌な点を書いてきて、ジャックブラックが前面に出る映画の何が嫌いなのかを理解した。

現世で軽んじられていたガリバーのことを小人達はヨイショしまくってくれて、ガリバーが元の世界に帰りたくなったら直ぐに帰れるようになる。
この映画ではガリバーが望んだものは全て勝手に叶い、ガリバーはずっとお気楽でいられる。映画の中には彼の欲望に対する抵抗が無い。
思い返してみればスクールオブロックでもそういう風に話が進んでいってたし、僕が嫌いなのはそこなんだろう。

要はジャックブラックはどの映画でも基本図々しくて、僕はそこに喝が入らない映画が嫌いだということだった。

唯一の慰め。

小人達を文明化されていない人々として描き、彼らに巨大な主人公を見上げさせるというめちゃキモな構図は、のちの展開で相対化される。

終盤、ガリバーは巨人の世界に飛ばされて、そこで巨人の子供に捕らえられる。ガリバーを捕らえた巨人の子供は彼を使って人形遊びを始める。

この展開は、相手と意思疎通できず、この場からなんとかして逃げ出したい、という点で26世紀青年と一致しており、ここからようやく話が面白い方に転がるかも！
と思っていたが特に何も起きず、人形遊びに使われるジャックブラックの面白仕草をひととおり見せて、5分くらいで脱出していた。
マジでなんなん？「とりあえず入れときました笑」って感じが非常にムカつく。

しかしもちろんこのシークエンスを、「ガリバーが小人達に褒められていい気になっていたのも、この巨人の人形遊びと何も変わらない」という皮肉な示唆として見ることもできる。（冒頭でガリバーがスターウォーズの人形にアテレコして遊んでいたのを見るに、この読みにはある程度の妥当性がある）
その場合、巨人の国から逃げ帰ったガリバーが歌って踊って小人達の戦争を止めるというクライマックスはジャックブラックの人形を使ったオナニーの絶頂に相当する。
「成熟した」価値観で小人達を啓蒙しているように見えて、実のところ未熟なガキの人形遊びと何も変わりはしない。さあみんなでこの小太りなおっさんを嘲笑おう！

基本的にずっと面白くないし、ジャックブラックは最後まで自分の図々しさに気付かないけど、それに対する批判的な視線が映画に内包されてるというのはささやかであれ慰めになった。

終わりに

これは言うまでも無いことだけど、いい気になってこの映画を貶しまくる僕はいい気になって人形遊びをするガリバーに対応しており、そんな僕に向けられるあなたの目線は先に挙げた批判的シークエンスに対応している。
ここには2重のメタ構造があり、そろそろあなたの目線に耐えきれなくなってきたので感想はこの辺で切り上げる。

・水の粘性を見るに、ガリバーは小人の国に行ってしまったのではなく、ガリバー自身が巨大化したってのが真相っぽいなと思ったりした。