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「プラットフォーム」の感想
みんな好きな食べ物のアンケートに対して「ドカ盛りの○○」って答えればよかったのにね。「エスカルゴ」って答えた奴はどうかしてるよ。
以下、雑なあらすじ。
・そのタワーは最上階の0階から下に向かって伸びている。何階まであるのかは不明。
・1階層につき2人の人間が住んでいて、1ヶ月ごとに住む階層がシャッフルされる。
・毎日一度、食事の載った台が上層から下層へと降りていって、上層の人間から順に食事をすることになる。
そんなタワーで目を覚ました主人公が、食べ物を独占する上層の奴らに心を痛めたり、同居人の老人と喧嘩したり、下層に行って餓死しかけたり、でも老人や心優しい女性のおかげで助かったり。
最終的にこのタワーをより良くしようと、食べ物をみんなに行き渡るように配りながら食事台に乗って下層まで降りて行って、最下層で(さほどやつれてもいない)少女と出会って、パンナコッタと少女を台に乗せて爆烈スピードで最上階のキッチンへと送って終わってた。
このタワーって何?
このタワーが何階建てかを知った上で考えると、これまで最低でも132階までしか降りたことのなかった同居人のおじいちゃん運良過ぎじゃない?
って思ったけど、生存者バイアスがかかってるから当然かと思い直した。
真の下層に降ろされた人間はその時点でほぼ死亡確定なので、必然的に体験談として残るのはある程度浅い層の話だけになる。
あと、暴力によって相手を制圧しながら下層へ降りていくことが出来るなら、非協力的な人間を殺して回るのが正着手なんじゃない?とか思ってしまった。自己中な人間を全員殺せばこのタワーは優しいタワーになる。
でもたぶんこれはそういう話じゃない。システム(上の人から順に取っていく)によって作られる地獄のような格差社会。それに対する回答としての信仰って感じか。(補足1)
とはいえ、主人公の取りうる選択肢として暴力を認めてしまうと、極論そういう屁理屈が成り立っちゃう。という話はある。外部(0階)に救いを求めるのではなく、地獄の中での自治。
補足1
この映画は、社会システムというハード面が引き起こす問題を、人心というソフト面から解決しようよ。っていう主張までしてる。
問題提起だけでなく回答も提示してくれるのは結構ポイント高い。それに同意できるかは置いておいて。
(例えば、このタワーを破壊しようぜってなったら、それはファイトクラブ的な結論になる。つまりはハード部分を壊すことによる解決)
そんでメッセージは届くの?
そもそもパンナコッタを0階へ送ることがどれほどのメッセージになるの?とも思う。(女の子が案外元気そうだよなとも思った)
女の子を0階までぶっ飛ばしたこの映画の顛末の後には、まだ「それでもメッセージが誰にも理解されない、一考だにされない」という絶望の可能性が残っていて、個人的にはその可能性はかなり高そうだと思っている。
メッセージが届いたところで……。と言う問題もある。
地獄に救い(食事)をもたらす0階の人々は、しかし下層で何が起こっているのかを知らず、下に送る食べ物に髪の毛が入ってるかどうかなんて些事にばかり注力する。送られてくる食事には、0階の人間の見当違いな美学が込められている。
この映画の終盤付近の構図を単純化すると、0階からの、地獄の実情に一切コミットしていない一方的な美しい救いに対して、最下層から返答を送ることで双方向のコミュニケーションが成立するのかどうかという話になっている。
しかし、0階の人間も別に神的な存在ではなく、ただ雇われ人として料理を作っているだけであって、彼らを雇っている人間達は画面に出てきすらしない。
なので、0階の人間にメッセージが届いたところで特に意味はないんじゃないかなと思ってしまう。
結局
「気付いたら部屋の中」系の映画ってコンセプトがしっかりし過ぎてて雑味が少ないからちょっと退屈なんだよな。って思ったりもした。
何というか、タワーなどの設定の裏に隠された意味を探るって楽しみ方をするにしても、この映画自体を見る必要なくないか?(補足2)
これは観るよりも観た後にあーだこーだ言う方がメインの映画だ。(さらに言えばネットにころがってるあらすじだけ読んでもそれなりに語って楽しめそう)
補足2
ふーむ、この映画は資本主義社会を批判的に描いているんですな?とか、補足1で書いたようなことなんかは別に本編を観なくたって言える。
何が描かれているかというよりは、どうやって描かれているかが映画を見る意味なのであって、その意味でこの映画はつまらないと思った。
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てか画面の色味が絶望的に食べ物に合ってない。これは監督の狙い通りの感想なんだろう。
結論、映画外の文脈を使った読み解きに面白さが集中していて退屈だった。メタファーとしてしか機能していない描写、展開を多数入れ込まれても、見ていて特に面白くはない。