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オマージュ/シン・スウォン監督

シン・スウォン監督の「オマージュ」を見る。1960年代の韓国のまだ女性映画監督が珍しい時代の、とある残されたフィルムをめぐる物語である。

40代半ばくらいなのだろうか。映画監督のジワン(イ・ジョンウン)は、3作目となる映画も鳴かず飛ばずで、母であり妻でもある日常の家族との関係もギクシャクとしている。そんな時、ホン・ジェウォンという女性監督が残した映画の、欠落した音声部分を再現して吹き込むという「アルバイト」を紹介される。

「女判事」というその映画は、韓国初の女性判事をめぐる事件を元にしているのだが、ホン・ジェウォン監督について調査を進めると、監督には娘がおり、無いとされていた台本が見つかった。ジワンが残されたフィルムと台本とを見比べていくと、音声の欠落のみならずフィルム自体に欠落があることがわかる。当時の検閲で切られたらしい(後でわかるが、主人公の女判事がタバコを吸っていただけでカットされてしまった)のだが、物語の辻褄すら合わない状態で、当時この映画は公開されたようなのだ。ジワンは、映画業界で女性が活躍することが(今よりもさらに)困難な時代を生きたホン・ジェウォン監督に興味を抱き、彼女の周辺を巡り足取りを追い始める。

この物語の半分は実話であり、韓国初の女性映画監督であるパク・ナモクと、2人目の女性監督ホン・ウノンについてのテレビドキュメンタリーをシン・スウォン監督が撮る過程で、二人とも親交があったフィルム編集者の女性に出会ったことに遡る。「女判事」を撮ったホン・ウノン監督は「オマージュ」ではホン・ジェウォン監督と呼ばれ、フィルム編集者の女性が、映画後半で重要な位置を占める杖をついたイ・オッキである。もちろんメガネをかけた冴えない中年女性/映画監督のジワンがシン・スウォン監督自身であり、この映画自体が、ありし日の女性たち、差別を受け、孤独を強いられた彼女たちへの「オマージュ」であるのは言うまでもない。

ジワンを演じるイ・ジョンウンは、「パラサイト 半地下の家族」で家政婦役を演じた名脇役でもあり、今回が初の主演作品であるという。韓国にはまだまだ優れた映画作品があり、優れた映画監督がいるのだと思う。物語の展開のしかたも、単に家族⇄仕事の関係性だけに留めるのでなく、共同住宅の見知らぬ隣人との、ある意味では「再会」をも包み込んだ、優しさの映画でもある。

「私はアニエス・ヴァルダのように映画を撮り続けることがのか。」と、シン・スウォン監督は言う。我々のような制作者は、常に日常の重さに耐えながら、その葛藤と戦うのだと、あらためて思う次第である。

監督:シン・スウォン  
出演:イ・ジョンウン | クォン・ヘヒョ | タン・ジュンサン

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hideonakane
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