【書籍】50代からのキャリア再生術:ジョブ・クラフティングで働きがいを見つけるー高尾義明氏
高尾義明著『50代からの幸せな働き方 働きがいを自ら高める「ジョブ・クラフティング」という技法』(ダイヤモンド社、2024年)を拝読しました。
本書は、ビジネスパーソンが職場でのモチベーションや充実感を再発見し、さらに向上させるための具体的な手法を提案しています。本書は、特に50代という節目を迎え、キャリアに行き詰まりを感じている人々に対して、どのように現在の仕事や将来の仕事をより有意義にしていくかを考える際に役立つヒントを提供しています。
私も近い年代になり、また、人事の立場に立ってもこのような方々にどのようにモチベーションを保っていただくかを検討するにおいて、大変興味深い内容でした。内容を確認し、考察したいと思います。
「キャリア・プラトー」と行き詰まり感
本書の冒頭で、50代に差し掛かると多くの人が感じる「キャリア・プラトー」という概念が紹介されています。これは、キャリアの発展が停滞し、昇進や新たな挑戦が難しくなる状況を指します。特に、日本企業においては、役職定年制が導入されていることが多く、50代を迎えると役職を外されるケースや、子会社への出向、さらには給与の減額といった現実が待ち受けています。これにより、多くのビジネスパーソンが「働かないオジサン」と揶揄されることもあり、自分のキャリアに対する不満やモチベーションの低下を感じることが少なくありません。
このキャリア・プラトーの状態において、働き手がどのようにモチベーションを再構築し、仕事に対する充実感を取り戻すことができるのかは、個々人のキャリア形成において非常に重要なテーマです。50代は、仕事人生の後半に差し掛かる大切な時期であり、ここで再び自身のキャリアを見直し、軌道修正することは、定年後も含めた人生全体において大きな影響を与える可能性があります。
「ジョブ・クラフティング」とは何か
こうした状況に対して、本書は「ジョブ・クラフティング」というアプローチを提案しています。ジョブ・クラフティングとは、自分の仕事を主体的に捉え直し、やりがいを見出すために仕事の内容や方法、人との関わり方、さらには仕事に対する認識そのものを変える手法です。この概念は、単に与えられた仕事をこなすのではなく、自分自身で仕事に変化を加え、より自分にとって意味のあるものにすることを目指しています。
ジョブ・クラフティングは、仕事に対する主体的なアプローチを促進するものであり、自らの役割や仕事の意義を再構築することで、仕事への取り組み方やモチベーションを大きく変えることができます。この手法は、特に50代のビジネスパーソンにとって、キャリアの後半における自己再生を助ける強力なツールとなり得るのです。
ジョブ・クラフティングの具体的な手法
ジョブ・クラフティングには、いくつかの具体的なアプローチがあります。本書では主に以下の3つの手法が紹介されています。
業務クラフティング
業務クラフティングとは、日々の仕事の内容や進め方を見直し、そこに自分なりの工夫を加えることを指します。たとえば、これまで定型的に行ってきた作業に新たな視点を加えたり、自分の得意分野を活かして業務を改善することが該当します。具体的には、これまでの業務手順を改良したり、新しいアイデアを取り入れて仕事をより効率的に、そして自分にとって意味のあるものに変えることです。
業務クラフティングの具体例としては、ルーチンワークに新しいアプローチを導入したり、業務プロセスを見直して効率化を図ることなどが挙げられます。
例えば、顧客対応の手順を改善し、顧客満足度を向上させるための新しい方法を試みたり、マーケティングの資料作成に自分の得意なデザインスキルを活かすことで、資料の品質を高めるといった取り組みが考えられます。こうした業務の工夫は、日常の仕事に対する意欲を高め、結果的に仕事全体に対する満足感を向上させることに繋がります。
「ジョブ・クラフティング」を考える場合、この「業務クラフティング」が最も考えやすいアプローチでしょう。
関係性クラフティング
関係性クラフティングは、仕事における人との関わり方を変えることによって、仕事の体験そのものを変えていく手法です。たとえば、職場の同僚や上司、部下とのコミュニケーション方法を見直し、より積極的な関係を築くことで、仕事に対するモチベーションを高めることができます。また、取引先や顧客との関係を見直し、新たな価値を生み出すことも関係性クラフティングの一環です。このような人間関係の変化が、結果的に自分の仕事の意味合いを大きく変えることが多いとされています。
関係性クラフティングの具体的な実践としては、例えば、定期的にミーティングを行い、チーム全体で進捗状況を共有する機会を増やすことが考えられます。また、部下や後輩に対して積極的にフィードバックを行い、彼らの成長をサポートすることで、職場全体のモチベーションを引き上げることも可能です。さらに、取引先との関係を強化するために、普段の業務の合間にカジュアルなコミュニケーションを取り入れることも、関係性クラフティングの一つとして挙げられます。こうした取り組みは、職場環境をより良くし、仕事に対する満足感を向上させる重要な要素となります。
認知的クラフティング
認知的クラフティングとは、仕事に対する捉え方や見方を変えることで、仕事の価値や意義を再評価することを意味します。たとえば、単なるルーチン作業と捉えていた仕事を、自分や他者にとって意義のあるものと見直すことで、仕事に対する態度が大きく変わります。この手法は、特に精神的な側面からのアプローチとして有効であり、仕事そのものに新たな価値を見出すことができます。
認知的クラフティングの実践例としては、例えば、日々の単調な業務に対して、その業務が会社全体や社会にどのように貢献しているのかを再考し、その意義を見出すことが挙げられます。例えば、単なるデータ入力の仕事も、それが会社の戦略的な意思決定に役立つ重要なデータの一部であると認識することで、その業務に対するモチベーションが高まることがあります。また、自分の仕事が他の人々にどのような影響を与えているのかを考えることで、仕事に対する誇りや満足感を感じることができるようになるでしょう。
ジョブ・クラフティングによるワーク・エンゲージメントの向上
ジョブ・クラフティングの実践は、単に仕事の内容を変えるだけではなく、ワーク・エンゲージメント、つまり仕事に対する積極的な関与を高める効果があります。ワーク・エンゲージメントとは、仕事に対して前向きで充実した心理的状態を指し、仕事から得られる活力や誇り、集中力などが向上することを意味します。
多くの研究から、ジョブ・クラフティングがワーク・エンゲージメントにポジティブな影響を与えることが確認されています。具体的には、ジョブ・クラフティングを通じて、仕事に対するミスフィット感(不適合感)を軽減し、自分の仕事に意義を見出すことができるようになります。たとえば、病院の清掃スタッフが単なる掃除業務ではなく、患者の治癒に貢献していると認識することで、仕事への取り組み方やモチベーションが大きく変わるという事例も紹介されています。
ワーク・エンゲージメントが向上すると、働き手は仕事に対してより高い満足感を持ち、結果として業務の成果も向上する傾向があります。ジョブ・クラフティングによって、自分自身の仕事に主体的に取り組むことで、仕事に対する意識が変わり、それが個人のパフォーマンスや職場全体の生産性にも良い影響を与えることが期待されます。
実践への移行とジョブ・クラフティングの継続
ジョブ・クラフティングを実践するためには、まず自分自身の仕事に対する「ひと匙」を見つけ、それを仕事に取り入れることが重要です。これにより、仕事がより個人的な価値を持ち、充実感を得られるようになります。この「ひと匙」とは、他者と比較する必要はなく、自分にとって意味があることであれば十分でしょう。
ジョブ・クラフティングの実践には、最初の一歩を踏み出すことが大切です。まずは、自分の仕事の中で、どの部分に自分らしさを加えることができるかを考えてみることで。
例えば、日々のルーチンワークに対しても、自分の得意なスキルや新しいアイデアを取り入れることで、仕事に対するモチベーションを高めることができます。また、他者とのコミュニケーションを改善することで、職場環境をより良いものに変えることができます。こうした小さな変化が積み重なって、仕事全体に対する満足感を向上させることができるでしょう。
さらに、ジョブ・クラフティングは一度実践しただけで終わるものではありません。継続的に自分の仕事に変化を加え続けることで、長期的なキャリアの満足感を維持することが可能になります。
本書では、ジョブ・クラフティングを継続的に行うための方法や、モチベーションを維持するためのヒントも紹介されています。たとえば、日々の業務の中で小さな成功体験を積み重ねることが、ジョブ・クラフティングのモチベーションを維持するための重要な要素となります。また、職場の仲間と協力してジョブ・クラフティングを実践することで、より大きな成果を得ることもできます。
ジョブ・クラフティングを継続的に実践することで、働き手は自分の仕事に対する主体的なアプローチを維持し、職場での充実感やモチベーションを長期的に保つことができるでしょう。これにより、仕事に対する満足感が向上し、結果として個人のキャリア形成にも良い影響を与えることが期待されます。
ジョブ・クラフティングの重要性とその効果
ジョブ・クラフティングの実践は、50代以降のビジネスパーソンにとって、特に重要な意味を持っています。50代は、キャリアの後半に差し掛かり、これまでの経験を活かしつつ新たな挑戦をするための重要な時期です。この時期において、ジョブ・クラフティングを実践することで、自分自身のキャリアを再構築し、長期的なキャリア満足度を高めることができます。
ジョブ・クラフティングの実践により、働き手は自分自身の仕事に対する意識を変え、より積極的に仕事に取り組むことができるようになります。また、ジョブ・クラフティングによって得られる満足感は、働き手のメンタルヘルスにも良い影響を与えることが期待されます。仕事に対するモチベーションが向上し、仕事に対するストレスや不満を軽減することができます。
さらに、ジョブ・クラフティングの実践は、職場全体の生産性向上にも寄与するものです。働き手が自分自身の仕事に対する意欲を持ち、積極的に取り組むことで、職場全体の雰囲気が改善され、結果として業務の効率化や成果向上につながることが期待されます。ジョブ・クラフティングは、個人のキャリア形成だけでなく、職場全体のパフォーマンス向上にも貢献する重要な手法であると言えるでしょう。
まとめ
本書が提唱するジョブ・クラフティングの手法は、50代以上のビジネスパーソンが自らの仕事に積極的に向き合い、仕事や人生における充実感や生きがいを見出すための強力なツールです。50代という節目を迎え、キャリアの行き詰まりを感じる人々にとって、このアプローチは新たな活力をもたらす可能性を秘めています。また、この手法は50代に限らず、若手からシニア層まで、幅広い世代にとっても役立つ内容が含まれており、キャリアのどの段階においても応用できるものです。
ジョブ・クラフティングを通じて、自分自身の仕事に新たな価値を見出し、50代からの働き方をより幸せで充実したものにしていくことができるというのが本書の主張です。このアプローチを取り入れることで、仕事に対する見方や態度を大きく変え、長期的なキャリアの満足感を得ることができるでしょう。
人事の視点から考えてみる
ジョブ・クラフティングが個人のキャリア形成だけでなく、組織全体の生産性や従業員エンゲージメント向上にどのように貢献できるかを理解することが、人事とっては非常に重要であり、また有益であります。いくつかの観点で考察してみたいと思います。
1.従業員エンゲージメントの向上
ジョブ・クラフティングは、従業員が自発的に仕事の内容や方法、人との関係性を見直し、再構築することを促進します。このプロセスは、従業員が仕事に対して主体的に関与し、より高いレベルのエンゲージメントを持つようになることを意味します。人事部門にとって、エンゲージメントの向上は、離職率の低下、従業員の満足度向上、生産性の向上につながるため、非常に重要です。
例えば、50代の従業員がジョブ・クラフティングを通じて仕事に新たな価値を見出し、これまでとは異なる方法で自分の経験やスキルを活かすことができれば、その従業員は仕事に対するモチベーションを再燃させることが期待されます。結果として、組織全体の士気向上にも寄与するでしょう。
ジョブ・クラフティングとエンゲージメントの関係は、以下の記事でも記載しておりますので、是非ご覧下さい。
2.キャリア開発と持続的成長の支援
50代はキャリアの終盤に位置するように思われますが、現代の長寿化とともに労働期間が延長される傾向にあり、この年代のキャリア開発は無視できない課題です。ジョブ・クラフティングを取り入れることで、従業員が自分のキャリアを持続的に発展させることが可能になります。
人事部門としては、50代以上の従業員に対して、ジョブ・クラフティングの概念を広め、彼らが自分の役割を再定義し、成長し続けるための機会を提供することが重要です。これには、研修プログラムやワークショップを通じてジョブ・クラフティングの具体的な手法を学ばせたり、コーチングやメンタリングを通じて個別のキャリア開発を支援したりすることが含まれます。
3.組織文化の変革と適応力の向上
ジョブ・クラフティングが広く実践される組織では、従業員一人ひとりが自分の仕事に主体的に取り組み、創意工夫を凝らす文化が醸成されます。これは、組織全体の適応力や柔軟性の向上につながり、変化の激しいビジネス環境において競争力を維持するために不可欠です。
人事部門は、こうした文化を促進するために、従業員が安全に新しいアイデアを試すことができる環境を整える必要があります。たとえば、失敗を許容する文化や、チャレンジ精神を奨励する評価制度の導入が考えられます。これにより、従業員は自信を持ってジョブ・クラフティングを実践し、組織全体のイノベーションを推進することが可能になります。
4.シニア層のリーダーシップと後進の育成
50代の従業員がジョブ・クラフティングを通じて仕事に新たな価値を見出し、自身のキャリアを活性化させることは、彼らがリーダーシップを発揮し、後進を育成する際にも重要です。人事部門は、シニア層が自分の経験や知識を後輩に伝える機会を積極的に設けることで、組織全体の知識の共有と継承を促進することが求められます。
このためには、メンタリングプログラムや逆メンタリング(ジュニアがシニアを教える)など、世代間の知識交換を促進する仕組みを導入することが有効です。シニア層が自分の経験を活かし、後進に貢献できる場を提供することで、彼らの働きがいも向上し、組織全体の知識資産の充実にもつながります。
5.働き方の多様化と柔軟性の推進
現代の労働環境においては、柔軟な働き方が求められる場面が増えています。ジョブ・クラフティングは、従業員一人ひとりが自分のライフスタイルや価値観に合わせて仕事をカスタマイズする手段としても有効です。人事部門は、テレワークやフレックス勤務など、柔軟な働き方を推進しつつ、従業員が自分のペースでジョブ・クラフティングを実践できる環境を整えることが重要です。
また、柔軟な働き方を支援するためのツールやテクノロジーの導入も欠かせません。たとえば、オンラインでのコラボレーションツールやプロジェクト管理ソフトを活用することで、従業員が物理的な制約を超えて効果的に仕事を進められるようにすることが求められます。
まとめ
「ジョブ・クラフティング」という概念は、従業員が自らの仕事に主体的に関与し、仕事の意義を再発見するための強力なツールです。人事部門としては、この概念を組織全体に広め、従業員がより充実したキャリアを築けるよう支援することが求められます。これにより、従業員エンゲージメントの向上、キャリア開発の支援、組織文化の変革、シニア層のリーダーシップ強化、そして柔軟な働き方の推進といった、さまざまな面で組織全体にポジティブな影響を与えることが可能になることでしょう。
「ジョブ・クラフティング」の手法を取り入れて、仕事に新たな価値を見出し、充実感を持って取り組んでいる様子です。明るく温かいオフィス環境の中で、自然光が差し込み、植物が配置されたリラックスした雰囲気が伝わってきます。仕事に没頭しながらも楽しそうな表情が印象的で、キャリアの後半に向けた新たなモチベーションが感じられるシーンです。
「ジョブ・クラフティング」にについては、以下の記事も参考にしてください。
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