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【書籍】孤独な戦いから世界的な認知へー工藤進英氏の内視鏡技術革命
『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)のp372「11月27日:月世界の常識を覆すがん治療(工藤進英 昭和大学横浜市北部病院消化器センター長)」を取り上げたいと思います。
工藤氏は、陥凹(かんおう)型早期がんの発見者として知られています。その発見は、がん治療の常識を覆すものとして大きな意義を持ちました。工藤氏が初めて陥凹型早期がんを見つけた瞬間を、彼は今でも鮮明に覚えています。粘膜の微細な変化に気付いた瞬間、興奮と驚きで足が震えました。それまでの検査方法ではこの微妙な変化を捉えることが難しかったため、その発見は医学界にとって画期的でした。
しかし、工藤氏の発見は当初、学会からはほとんど相手にされませんでした。大腸がんといえばポリープ型が主流であり、陥凹型早期がんという概念は理解されませんでした。国内外の学会でも「アジア病」や「秋田の風土病」「工藤病」などと揶揄され、孤立無援の状態でした。彼がこのがんの存在を広めようとする努力も、周囲からは無謀だと見なされ、支援は得られませんでした。工藤氏は部下もいない状況で、すべての業務を一人でこなさなければならず、孤独な戦いを強いられました。
早速学会に発表してみたところ結果は散々でした。大腸がんといえばポリープ型であると信仰する学会からはまったく相手にされず、海外では「アジア病」と囁かれ、日本にあっては「秋田の風土病」「工藤病」だなどと揶揄される始末です。なんとかこのがんに対する認識を医学界に広めていきたいという思いを仲間内に明かしても、「お前がやろうとしていることは一般病院でやることじゃない。ここは大学じゃないから無理だ」とにべもありません。部下もおらず、すべてを自分一人でこなさなければならないという孤独な闘いが続きました。
工藤氏は、大腸がん検査の効率を上げるために、内視鏡技術の向上が不可欠であると感じました。内視鏡を初めて使用したころは、一人の患者の検査に三人がかりで二時間もかかり、患者に大きな苦痛を与えていました。そんな中、米国で内視鏡検査の第一人者であるドクター新谷こと新谷弘実氏の講演を聞いた際、彼の内視鏡操作のスピードと技術に衝撃を受けました。新谷氏は内視鏡の挿入から操作までをすべて一人で行っており、その技術に感銘を受けた工藤氏は、一人操作法の習得に没頭しました。
その後、工藤氏は200回以上の改良を重ね、独自の「軸保持短縮法」を開発しました。この技法により、内視鏡操作のスピードが大幅に向上し、患者の苦痛も劇的に軽減されました。従来の方法では一時間以上かかる検査も、工藤氏の手法では一人あたりわずか五分で終了し、痛みを感じることもほとんどありませんでした。この技術的進歩の原点には、常に患者の負担を最小限に抑えたいという強い思いがありました。
工藤氏は約17万例の内視鏡検査を行い、その中で技術を磨き続けました。1996年にはフランスの学会で診療実演ライブが行われ、そのライブ中に陥凹型早期がんが発見されました。この瞬間の映像は衛星中継でパリの学会会場に伝えられ、世界中の医学関係者に衝撃を与えました。この出来事をきっかけに、欧州をはじめとする各国で陥凹型早期がんへの関心が高まりました。以降、工藤氏は250回以上の海外講演に招かれ、陥凹型早期がんの重要性とその治療法を広める活動を続けました。
陥凹型早期がんの発見から25年が経ち、工藤氏は大腸がん治療の分野で常に世界のトップを走り続けています。彼の努力と情熱は多くの患者の命を救い、多くの医学者に影響を与えました。一所懸命に一つのことに打ち込むことで、多くの成果を上げることができると工藤氏は信じています。彼の歩みは、医療の現場で何ができるかを問い続け、患者にとって最良の治療法を追求し続けた結果なのです。
工藤氏の成功の背景には、数々の困難と挑戦がありました。学会や周囲の無理解に直面しながらも、自らの信念を貫き通した彼の姿勢は、多くの人々に勇気を与えました。内視鏡技術の向上と普及に尽力し続ける工藤氏の姿勢は、医療の未来を切り開くものであり、今後もさらなる進化を遂げることでしょう。
彼の取り組みは単なる技術の発展にとどまらず、医療現場における患者の視点を重視した革命的なものでした。患者の負担を軽減し、早期発見・早期治療を可能にすることで、多くの命を救うことができるという理念は、現代の医療においても重要な教訓となっています。工藤氏の経験と知識は、これからも多くの医療従事者に受け継がれ、発展していくことでしょう。
工藤氏の取り組みは、大腸がん治療における新たな道を切り開き、多くの患者に希望をもたらしました。その功績は今後も医学界において重要な位置を占め続けることでしょう。
人事の視点から考えること
人事の観点から見ても、工藤先生の取り組みは非常に示唆に富んでいます。以下に、彼の経験をもとにしたいくつかの教訓を考察してみます。
革新と変化の受容
工藤氏が新しいがんの形態を発見し、それを認めさせるまでの過程は、組織における革新の重要性を示しています。新しいアイデアや発見は、初めは抵抗されることが多いですが、粘り強く証拠を示し続けることが必要です。人事部門でも、新しい採用方法や評価制度、教育プログラムの導入には抵抗が伴うことがありますが、データや実績を示して説得することが重要です。
技術の進化と研鑽:
工藤氏が内視鏡操作技術を向上させるために努力を惜しまなかったことは、職業上のスキルを常に磨き続けることの重要性を示しています。これは、どの職業においても通用する教訓です。人事部門でも、最新の人事管理ツールやデータ分析技術の習得に努めることが求められます。
国際的な視野の重要性:
フランスの学会での実演ライブが国際的な認知をもたらしたように、国際的な舞台での発表や交流は、自身の研究や技術を広めるために不可欠です。人事部門においても、グローバルな視野を持ち、国際的なベストプラクティスを学ぶことが求められます。これにより、グローバル企業としての競争力を高めることができます。
持続的な努力とコミットメント:
25年間にわたる工藤氏の取り組みは、長期的な視野を持ち、持続的に努力することの価値を示しています。組織の中で成功を収めるためには、短期的な成果だけでなく、長期的なビジョンとコミットメントが必要です。人事部門でも、社員のキャリア開発や組織の成長を長期的にサポートする施策が重要です。
患者(顧客)中心のアプローチ:
工藤氏が常に患者の負担を最小限に抑えることを目指していたように、どのビジネスでも顧客中心のアプローチが重要です。人事においても、社員の満足度や働きやすさを考慮した施策が求められます。これには、柔軟な働き方の導入や福利厚生の充実、社員のフィードバックを取り入れた制度設計などが含まれます。
まとめ
工藤氏の物語は、医学界における一つの成功例としてだけでなく、組織や個人の成長に対する重要な教訓を提供します。革新に対する抵抗を乗り越え、技術を磨き続け、国際的な認知を得るために努力し、持続的に取り組むことの価値を示しています。彼の経験は、人事部門におけるリーダーシップや革新の推進に対する貴重な洞察を与えてくれます。特に、人事担当者としては、以下の点に注目することが重要です。
新しいアイデアの推進:
工藤氏のように、新しいアイデアや発見を推進するためには、初期の抵抗に耐え、粘り強く証拠を示し続けることが必要です。これにより、組織全体が革新を受け入れやすくなります。
スキルアップの重要性:
工藤氏が内視鏡技術を進化させ続けたように、人事担当者も最新のツールや技術を習得し続けることが重要です。これにより、組織の効率性と競争力を高めることができます。
国際的な視野を持つ:
国際的な舞台での認知を得るためには、グローバルな視野を持ち、国際的なベストプラクティスを取り入れることが重要です。これにより、組織は国際的な競争力を持つことができます。長期的なビジョンとコミットメント:
工藤先生のように、長期的な視野を持ち、持続的に努力することが重要です。組織の成長と成功には、長期的なビジョンとコミットメントが必要です。社員中心のアプローチ:
工藤先生が患者の負担を最小限に抑えることを目指していたように、人事部門でも社員の満足度や働きやすさを考慮した施策が求められます。これにより、社員のエンゲージメントとパフォーマンスを最大化することができます。
工藤進英先生の経験は、私たちに多くの教訓を与えてくれます。彼の情熱、粘り強さ、そして革新へのコミットメントは、どの分野においても成功を収めるための鍵です。人事担当者としても、これらの教訓を活かし、組織の成長と成功に貢献していくことが求められます。
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独自の「軸保持短縮法」を使って内視鏡検査を行う場面を描いています。彼は集中し、自信を持って内視鏡を巧みに操作しています。病室には先端医療技術が備わっており、背景には彼の挑戦の軌跡が描かれています。最初の疑念から国際的な認知に至るまでの重要な瞬間がハイライトされており、がん治療への彼の貢献の意義が表現されています。また、患者がほとんど苦痛を感じていないことも描かれ、工藤先生の技術の革新とその影響が伝わってきます。
1日1話、「生き方」のバイブルとなるような滋味に富む感動実話を中心に365篇収録されています。素晴らしい書籍です。