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【書籍】「無理しない人間関係で成功するー内向的な人のためのピンポイント人脈術ー竹下隆一郎氏

 竹下隆一郎著『内向的な人のための スタンフォード流 ピンポイント人脈術』(ディスカバー・トゥエンティーワン、2019年)を拝読しました。
 著者の竹下氏が、自らの内向的な性格を活かし、仕事や日常生活の人間関係で効果的に成功を収めるための方法を記した書籍です。

 本書では、従来の「人脈モンスター」と称されるような、幅広く多くの人と関わりを持つネットワーキングスタイルとは一線を画し、心から「好きだ」と感じられる少数の人々と深く、信頼できる関係を築くことに重きを置く「ピンポイント人脈」の重要性について解説しています。

 現代社会ではSNSやインターネットの普及により、広範なネットワーキングをしなくても、必要な人と簡単にアクセスが可能となっており、この利便性を最大限に活かした関係づくりが「ピンポイント人脈」として紹介されています。

 人事の視点でも多くの気づきがありました。考察してみます。

「ピンポイント人脈」とは何か

 本書で提唱される「ピンポイント人脈」は、内向的な人々が活用できる人脈術として、むやみに広く浅い人脈を築くのではなく、内面的に共鳴する、信頼できる少数の人々との深い関係を築くアプローチです。竹下氏は、自身が内向的な性格であるがゆえに、外向的な社交性や大量の人脈を構築することに疲弊し、違和感を覚えた経験があると述べています。従来の日本社会においては、ビジネスの成功には「多くの人と付き合い、多くの人脈を持つことが必要」とされる傾向が根強く、広く浅い関係を持つことが重視されがちです。しかし、竹下氏はそうした従来型のネットワーキングに対して疑問を持ち、むしろ内向的な人でも実践できるピンポイント人脈こそが、現代社会においては有効であると主張します。

 竹下氏が「ピンポイント人脈」の考え方にたどり着いたのは、スタンフォード大学での経験が大きかったと語っています。アメリカ留学中、竹下氏は日本とは異なるネットワーキングの考え方や文化に触れ、内向的な自分にとってどのような人付き合いが心地よく、どのような関係がビジネスにおいても実利をもたらすのかについての見解が変わりました。この経験から得た学びをもとに、「好きな人」「心地よい関係」を基盤とする人間関係づくりを目指したのが、この「ピンポイント人脈」です。

人脈の逆ピラミッド化

 竹下氏は、SNSやインターネットの普及によって情報の流れが変化し、人脈の構造も従来の「ピラミッド型」から「逆ピラミッド型」へと変わりつつあると述べています。従来のピラミッド型では、組織の上層部が情報を独占し、それを下層部に流していくというモデルが一般的でした。しかし、現代のビジネス環境では、顧客やクライアントと直接対話する立場にある現場社員や若手社員に重要な情報が集まるケースが増えています。このように情報の流れが変化し、上下関係が逆転する構造が「逆ピラミッド型」と呼ばれるものであり、これにより組織や人脈の構造が大きく変わりつつあります。

 「逆ピラミッド」化した人脈では、上層部からの指示や既存のルールに縛られることなく、若手社員や現場担当者が独自に重要な人物とつながり、情報を直接交換することが可能になっています。例えば、ある若手社員がSNSを通じて異業種のキーパーソンとつながり、その関係を活かしてプロジェクトの成功につなげるようなケースが考えられます。これまでであれば、上司の紹介や組織の序列を経由してしかつながれなかったような人と、直接連絡を取ることができる時代になっているのです。

 こうした変化により、従来の「たくさんの人と幅広くつながることが重要」という考え方から、ピンポイントでの人脈づくりが有効であるとされる時代が到来しているのです。

内向的な人が持つピンポイント人脈の可能性

 内向的な人は、外向的な人と比べて、対話や社交の場において表現が控えめなことが多く、表面的には人脈を築くのが苦手に見えるかもしれません。しかし竹下氏は、むしろ内向的な人の方が、自分にとって本当に信頼できる人、心から「好き」と思える人を直感的に見極める力を持っていると述べています。内向的な人は相手の内面に共鳴しやすく、表面的な社交性にとらわれることなく、長期的な視点で人間関係を築くことが得意です。そのため、内向的な人が築く人脈は、むやみに拡大せず、少数精鋭で濃密な関係を保ちやすいという特徴があります。

 竹下氏が提唱する「ピンポイント人脈」は、内向的な人にとって非常に有効な方法であり、心地よく深い人間関係を通じて、ビジネスや日常生活における信頼と安心を得ることができると述べられています。実際、広く浅い人脈よりも少数の信頼できる人と深くつながる方が、キャリアの成長やプロジェクトの成功にもつながりやすいと考えられています。

ピンポイント人脈の具体的なメリット

 本書では「ピンポイント人脈」を築くことのメリットについても触れられています。その主なメリットとして、キャリアの自由な設計、プロジェクトの成功、組織の変革が挙げられています。

キャリアを自由にデザインできる
 信頼できる少数の人との強固な関係は、キャリア形成や新たな挑戦の際に支援を得やすく、他の人を巻き込む力となります。たとえ大規模な人脈を持たなくても、ピンポイントで関わる相手からの支援や助言によって、自分自身のキャリアをより柔軟に設計することが可能です。

プロジェクトが成功しやすい
 ピンポイントな人脈によって価値観や目標を共有する仲間と出会うことで、効率的にプロジェクトを進められます。広く浅い人間関係にエネルギーを使うのではなく、深い信頼関係を築いた人と協力することで、目標達成が容易になります。

組織を変革できる
 ピンポイントで築いた信頼関係は周囲に影響を与え、組織内の環境改善や業務の進行にも良い影響をもたらす可能性があります。信頼できる少数の人と築く深い人脈は、単なる業務の効率化だけでなく、組織の構造そのものを変えていく力を持っているのです。

現代の変化とピンポイント人脈の必要性

 現代の社会は急速に変化し続けており、テクノロジーの発展に伴い、会話のスピードや仕事の効率が求められる場面も増えています。SNSやインターネット上でのやり取りが増加することで、外部との接触頻度も高くなり、情報も高速で流れる時代です。しかし、こうした中で竹下氏は、家庭やプライベートな時間を大切にすることの重要性を強調しています。これまでのように、仕事や社交にすべての時間を費やすのではなく、家庭や自分との時間を重視することが、内向的な人にとって心地よく社会と関わるために必要だと述べています。

 また、ピンポイント人脈を通じて仕事と家庭生活のバランスを保ちながら、精神的な充足感を得ることも可能です。これにより、少数の信頼できる人と築いた人脈が、個人にとっての安心感と満足感をもたらし、長期的な成功へとつながるのです。

内向的な人のための具体的な人脈術

 竹下氏は、内向的な人が社会で活躍できるための具体的な方法論も提示しています。たとえば、まずは「好きだ」と思う7人の人を見つけ、その人たちとの関係を深めていくことを推奨しています。また、「うん、でもね」や「そうは言っても」という口癖のある人を避け、自分がポジティブに付き合える相手と関わるようにすることも、ピンポイント人脈づくりの一環とされています。

 竹下氏は、自分にとって心地よい関係を築くための方法として、「名刺交換をあえてせずに会話をはじめる」「抽象的なテーマで話を広げてみる」「ビジネスコーチをつけて会話と思考の幅を広げる」など、他者とのコミュニケーションに対する柔軟なアプローチを提案しています。これらの方法は、無理をせずに少人数と深くつながるためのステップであり、内向的な人でも自然体で築ける人間関係を可能にしています。

まとめ

 本書は、内向的な人が自分の性格や特性を活かしつつ、ビジネスや日常生活で充実した人間関係を築くためのヒントを提供しています。竹下氏が提唱する「ピンポイント人脈」は、従来の社交的なネットワーキングとは異なり、内向的な性格でも実践可能なアプローチです。無理に広い人脈を持つことに焦らず、心地よく信頼できる相手と少人数で深い関係を築くことが、現代において成功するための新しいスタイルとして推奨されています。

 「人脈モンスター」の時代は終わり、心から信頼できる少数の人とピンポイントで関係を築くだけで、十分に仕事や生活での充実感が得られる時代に突入しています。内向的な人が無理をせず、自分のペースで豊かな人間関係を築くことで、ビジネスやプライベートの場面においても安心感や成功を得られることを、本書は教えてくれています。

人事の視点から考えること

 本書が示す、「ピンポイント人脈」の考え方は、これからの組織づくりや人材マネジメントにおいて重要な視点となるでしょう。以下では、企業の人事として考えることを考察してみます。

1. 多様な人材の活用と多様なネットワーキングの価値

 企業内には、外向的で社交的なタイプだけでなく、内向的で一対一の深い関係を好むタイプなど、さまざまな性格やコミュニケーションスタイルを持つ人材が存在します。特に「人脈モンスター」的な関係づくりが重要視されがちな企業文化では、内向的な人が自己を活かす場面が限られてしまいがちです。しかし、本書が示す「ピンポイント人脈」は、社交的でない人にとっても、自分に合った形で周囲とつながり、組織に貢献できる可能性を広げてくれます。

 内向的な人材が自分のペースで能力を発揮できる環境を整え、多様なネットワーキングの在り方を尊重する企業文化を醸成することが大切です。社内イベントや交流の機会においても、外向的な交流を強要するのではなく、少人数での深い対話や、関心を共有する人が集まりやすい場を提供するなど、幅広いネットワーキングの形を認める姿勢が重要です。

2. 人材育成における「深い関係」を築くことの重要性

 人材育成の観点からも、ピンポイント人脈が示唆する「深い関係」は大きな効果をもたらします。多くの人と広く浅い関係を築くことではなく、少人数と深い信頼関係を築くことで、社員同士の協力や支援が強化され、プロジェクトやチーム全体のパフォーマンスが向上する可能性が高まります。人事担当者としては、新人育成やリーダー育成において、メンター制度やピアサポート制度など、深い関係が築きやすいサポート体制を構築することが重要です。

 また、内向的な社員にも有効なコミュニケーションの場を設けることで、彼らが持つ洞察力や集中力が組織全体に貢献できるような環境づくりができます。内向的な人材が他者との深い対話や関係づくりを通じてその能力を発揮できるよう、単なる研修やワークショップだけでなく、心理的安全性の高い環境を整備することも検討すべきです。

3. 人事評価とプロジェクトへの適材適所の配置

 企業の中で多くの人脈を持ち、社交的に振る舞える人が評価されやすい文化があると、内向的な人材が自分の特性を活かせずにいることも少なくありません。ピンポイント人脈を重視する内向的な社員の良さを理解し、それを正しく評価する視点を持つことが求められます。特に、プロジェクトリーダーやマネジメント職においては、広い関係よりも少数精鋭のチームを率いるのが得意な人材もいるため、個々の性格や得意分野に応じた適材適所の配置が重要です。

 さらに、内向的な人材が持つ観察力や集中力を評価するための評価基準を設定することも有効です。評価基準を多様化し、表面的な社交性や人脈の広さだけではなく、深い関係を築く力や信頼構築の能力を加味することで、内向的な人材も正当に評価され、意欲を持って仕事に取り組むことができるでしょう。

4. 社員同士の相互支援を促進する人事施策

 ピンポイント人脈は、信頼関係のある少数の人々との間で相互支援や助言を得やすいという利点を持っています。これは、企業内の支援体制やチームワークの強化にも活かせる視点です。たとえば、社内のメンター制度やリーダーシップ開発プログラムを通じて、社員同士が深く信頼し合える環境を整備することで、組織全体でのパフォーマンス向上を図ることができます。メンターとメンティーの関係をピンポイント人脈に似せて設計することで、成長しやすい環境が生まれるでしょう。

 また、プロジェクトチームやタスクフォースなど一時的なグループ編成においても、内向的な社員が少人数で信頼関係を築きやすい形での配置を検討し、内向的な人材がストレスなく成果を出せるよう配慮することも大切です。

5. 内向的な人の強みを活かす組織風土の構築

 竹下氏が指摘する「ピンポイント人脈」は、内向的な人の強みを引き出す考え方です。企業においても、全員が社交的である必要はなく、むしろ社員の多様な性格や特性を活かすことで、組織全体が安定し、持続的な成長を実現できます。内向的な人材は、思慮深く観察力があり、細やかなコミュニケーションが得意であることが多いため、彼らの特性を活かした業務やプロジェクトに配属することで組織に貢献できる可能性が高まります。

 内向的な人が自己の強みを活かしやすい組織風土の醸成に努める必要があります。具体的には、無理に社交的な場に参加させることを避け、個々の特性に応じた成長機会を提供しつつ、内向的な社員が力を発揮できるようサポートすることが重要です。例えば、リモートワークの導入や柔軟な働き方の制度化も、内向的な人材にとって適した環境を提供する一環となります。

6. 社内のコミュニケーション多様化と心理的安全性の確保

 ピンポイント人脈の実践においても重要なのが、社内におけるコミュニケーションの多様化と心理的安全性の確保です。内向的な人が自己のペースで周囲とつながりやすくするために、オープンな社内文化を育むとともに、無理なコミュニケーションを強いるのではなく、社員が自然に関係性を深められる環境を整備することが求められます。

 リモートミーティングやスモールグループでの対話を活用するなど、多様なコミュニケーション手段を提供することで、内向的な人が心地よく参加できる場を増やすことが重要です。また、内向的な社員が発言しやすい場や、アイデアを安心して共有できる場を設けることで、心理的安全性を高め、組織全体の一体感を生み出すことができます。

まとめ

 ピンポイント人脈は、企業における人材マネジメントや組織開発に多くの示唆を与えてくれます。従来の「人脈モンスター」的な広範なネットワーキングではなく、少数の信頼できる関係を深めることで、内向的な人材も自己のペースで活躍できる環境を整備することができます。内向的な人材がもつ洞察力や一対一の信頼関係を築く力を企業全体の力として活かし、多様な働き方や価値観を尊重する風土を育むことで、現代の複雑なビジネス環境にも適応しやすい組織づくりが可能になるでしょう。

 人事としても、ピンポイント人脈の考え方を基に、社員が自身の強みを発揮できる人間関係を形成し、安心して働ける環境づくりに努めることで、個人と組織の双方にとっての成長を促進することができると考えられます。

少人数で深い信頼を築く「ピンポイント人脈」と、広く浅い関係を築く従来のネットワーキングの対比を表現しています。前景にある少人数のグループが、柔らかな光に包まれたカフェでリラックスしている姿は、内向的な人が自分にとって心地よい信頼関係を持つ様子を描写しています。背景にぼんやりと描かれた多数の人々は広範なネットワーキングの象徴であり、対照的に冷たいトーンで描かれ、表面的なつながりを表しています。


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