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【書籍】信念が導く宇宙への挑戦ー川口淳一郎氏が語る『はやぶさ』プロジェクト

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)のp354「11月9日:誰にも譲れない信念があるかどうか(川口淳一郎 宇宙航空研究開発機構シニアフェロー)」を取り上げたいと思います。

 川口氏は、「誰にも譲れない信念」について自身の経験から語っています。彼は、宇宙開発プロジェクトが他のプロジェクトと決定的に異なるのは、試行錯誤が効かない点だと指摘します。
 例えば、自動車の開発では試作品を作り、実際に走らせて改良を重ねていくことが可能ですが、宇宙開発は予算が膨大なため試作品をそのまま打ち上げることになり、一度の挑戦で完璧に動作させる必要があります。そのため、慎重な計算と計画が求められるのです。

 川口氏自身、様々なプロジェクトに携わってきましたが、一発勝負の性質上、思い通りにいかないことも多く、失敗も経験しました。しかし、それらの経験を積み重ねて成長し、1995年に「はやぶさ」プロジェクトを提案するに至ります。彼が40歳のときのことでした。この提案には、10年前にNASAに横取りされた小惑星接近計画への意地も含まれていましたが、それ以上に、自身が満足できる挑戦であると感じたからこそ、困難なミッションに取り組む決断をしたのです。失敗しても、難しいミッションであるがゆえに誰も責めないだろうと思ったのが当初の考えでしたが、実際には失敗が許されない厳しい世界であることを痛感します。どんなに惜しくても、多額の予算が無駄になったと報道されて終わりです。

 こうした厳しい世界で育ったため、川口氏は「少しのチャンスも逃してはならない」と強く感じるようになりました。特に小惑星を狙う機会は4年に一度しか訪れず、次の機会を待っていたらまたアメリカに先を越されてしまうと危機感を持っていました。

 帰還までには様々な困難がありましたが、川口氏は周囲の言葉を鵜呑みにしない性格が功を奏しました。「はやぶさ」にはリアクションホイールという制御装置が3台搭載されていましたが、1年目に1台、2年目にもう1台と次々に壊れていき、3台目も同様に壊れる恐れがありました。製造メーカーはスピードを落とすことは危険だと警告しましたが、川口氏はその言葉に耳を貸さず、自分の判断で飛行スピードを落とすように指示しました。その結果、最後のホイールは7年間無事に機能しました。

 もし当時スピードを落とさなければ、ホイールは壊れていたかもしれません。しかし、川口氏はその場合でも責任を問われることはなかったでしょう。製造メーカーの推奨に従っていただけだと言えば済む話だからです。しかし、その選択が失敗を招いていたのは明らかです。そこで彼は、人の言葉を信じるだけでは成功は得られず、自分自身に譲れない信念を持つことが必要だと強く感じました。

もしあの時スピードを落としていなければ、壊れていたかもしれません。ただ、壊れたとしても私はおそらく責められなかった。 製造メーカーがそう言っている、その推奨に従っただけだと言えば済む話ですから。でも結果として見てみれば、それは失敗に終わるわけでしょう。だから、どんな時にも人の言うことを信じれば救われるかというと、そうじゃない。自分自身の中に譲れない信念が必要じゃないかと思いましたね。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)p354より引用

 川口氏の経験は、組織や人の意見に流されず、自分の直感や信念に従って行動する重要性を示しています。失敗のリスクが高い宇宙開発の分野では、確かな信念に基づいた行動が、成功への道を切り開くのです。

人事の視点から考えること

 川口氏の「はやぶさ」プロジェクトへの取り組みや、その姿勢から得られるリーダーシップのあり方、組織文化の形成、人材育成の重要性などについて、人事の視点から考えてみます。

リーダーシップの役割と影響

 川口氏がプロジェクトのリーダーとして示した強い信念は、リーダーシップの重要性を鮮明に示しています。未知の領域で挑戦する際、リーダーがビジョンと戦略を持ち、チームを導くことが重要です。川口氏のように、リーダー自身が強い信念を持つことで、チーム全体が困難な課題に取り組む意欲を引き出しやすくなり、一体感が高まります。この一体感は、特にリスクの高いプロジェクトにおいて欠かせません。信念に基づいたリーダーシップは、メンバーの士気を高め、迅速かつ柔軟な意思決定を可能にします。人事の役割は、このようなリーダーを見極め、育成し、適切に配置することにあります。

信念を貫くリーダーの育成

 リーダー育成プログラムの一環として、信念を持ちチームを牽引できる人材を育てることが求められます。川口氏の事例に見るように、リーダーは他者の意見に流されず、自らの経験と分析に基づく判断でプロジェクトを導く必要があります。失敗が許されない状況で大胆な意思決定をすることは困難ですが、川口氏はリアクションホイールの事例でその重要性を示しています。人事でも、リーダー候補者に信念の強さやリスクテイクの意識を持たせる教育プログラムを提供し、適切なフィードバックを通じて成長を促すことが重要と認識します。

組織文化の形成

 川口氏がプロジェクトで示した姿勢は、組織文化にも大きな影響を与えます。挑戦的でありながらも冷静なリスク判断ができる文化を形成するには、組織全体で信念に基づくリーダーシップが尊重される環境が必要です。人事の視点からは、川口氏のようなリーダーを称賛することで、そのような文化が自然と組織に浸透する仕組みを整えることが求められます。評価制度の透明性を高め、信念を持って挑戦する行動が適切に評価されるようにすることは、組織文化の醸成に不可欠です。

 さらに、失敗に対する寛容さも組織文化を支える要素です。川口氏が示したように、失敗から学び、それを次の成功につなげる姿勢は重要です。人事部門は、社員が失敗を恐れずに挑戦し続けられるような環境作りに注力し、成功と失敗の両面から振り返りとフィードバックの機会を提供するべきです。フィードバックループの確立は、チーム全体の成長を促すための重要なステップとなります。

プロジェクトマネジメントスキルの向上

 川口氏が成功した理由の一つは、彼の優れたプロジェクトマネジメントスキルです。リスク管理、リソースの適切な配分、チームメンバーとの効果的なコミュニケーションなど、プロジェクトマネジメントには多くのスキルが必要です。人事部門は、リーダー候補者がこれらのスキルを体系的に学べるプログラムを提供し、プロジェクトの成否を左右する意思決定ができるリーダーを育てることが求められます。さらに、川口氏のリアクションホイールのエピソードに見られるような、予測不能な問題に対処する能力を養うためのシミュレーションやケーススタディを取り入れることで、リーダーのスキルを向上させることが可能です。

チームの多様性と協力

 「はやぶさ」プロジェクトは、川口氏一人のリーダーシップだけで成功したわけではなく、さまざまな専門知識を持った技術者や関係者たちの協力があってこその成果です。プロジェクトチームの構成を検討する際、異なる背景やスキルを持つメンバーを配置することが重要です。多様性のあるチームは、異なる視点から問題を分析し、独自の解決策を生み出す可能性が高まります。多様なメンバーが協力し合い、相互に補完し合える組織文化を醸成することがプロジェクトの成功に不可欠です。

まとめ:成功への教訓

 川口氏の経験から得られる教訓は、プロジェクトマネジメント全般で通用するものです。信念に基づいたリーダーシップの重要性、組織文化の醸成、リスクを恐れずに挑戦する精神、人材育成、プロジェクトマネジメントスキルの向上、チームの多様性の確保など、多くの要素が相互に関連しています。人事部門としては、これらの要素をバランスよく取り入れ、組織全体が挑戦的でありながらも冷静なリスク判断ができるような環境を作ることがビジネス全般での成功につながると考えられます。

 これらを組み合わせることで、個々のプロジェクトが持続的に成功し、組織全体の成長が促進されます。川口氏のように信念を持って挑戦する姿勢は、多くのビジネスパーソンにとって模範であり、組織の未来を切り開く上で非常に有益な教訓となるでしょう。


ビジョナリーなリーダーがエンジニアのチームに向けて、宇宙研究センターでモチベーションを高めるスピーチをしているシーンの画像です。高エネルギーでインスピレーションを与える雰囲気が描かれ、リーダーの揺るぎない信念がプロジェクトに対するチームの情熱を引き出しています。


1日1話、「生き方」のバイブルとなるような滋味に富む感動実話を中心に365篇収録されています。素晴らしい書籍です。



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