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変革の時代に対応する人材育成の新潮流:Aoba-BBTリカレントサミット2024ー神谷由夏氏、政元竜彦氏

 Aoba-BBTが毎年開いている経営者・人事向けの「リカレントサミット」の2024年版。7月5日に、Growth through innovation~一人ひとりのポテンシャルを最大限に引き出し、ビジネス成長へ~というテーマにて開かれました。登壇者は神谷由夏氏(アストラゼネカ株式会社 人事本部 人材組織開発部長)と政元竜彦氏(株式会社Aoba-BBT 取締役副社長)でした。

 人事の立場として、種々考えさせられるところがあり、応用すべきところもたくさんあります。

Aoba-BBTは、時代の変化に対応するための「人材育成」に焦点を当てたオンラインイベント「Aoba-BBTリカレントサミット2024」を開催します。
今回のテーマは、「次世代経営人材の育成」という、企業が持続的な成長を遂げるために不可欠な要素に焦点を当てます。
急速なテクノロジーの進化の中で、企業はどのようにして“道なき道を切り拓く”経営者を育成し、企業価値を創造していけるのか、という問いに取り組みます。
Aoba-BBTのオンライン映像講座の講師や、実務で活躍する企業の担当者とともに、この問題の本質について考えます。

https://www.bbt757.com/business/recurrent-summit2024spring_summer/

1.神谷由夏氏(アストラゼネカ)による講演

 神谷氏は、グローバル製薬企業であるアストラゼネカの会社概要と戦略的優先事項から講演を開始しました。同社の存在理由である「サイエンスの限界に挑み、患者さんの人生を変える医薬品を届ける」というビジョンを紹介し、これが全ての企業活動の基盤となっていることを強調しました。

価値基準(バリュー)

 アストラゼネカの価値基準(バリュー)として、以下の5つを詳しく説明されました。

  1. サイエンスの追求:革新的な医薬品開発の基礎となる科学的探究

  2. 患者第一:全ての意思決定において患者の利益を最優先する姿勢

  3. 勝利への注力:高い目標を設定し、その達成に全力を尽くす姿勢

  4. 正しい行動:倫理的かつ誠実な企業活動の推進

  5. 新しい挑戦:常に革新を追求し、現状に満足しない姿勢

 これらの価値基準は、社員一人一人の行動指針となっており、日々の業務から重要な意思決定まで、あらゆる場面で参照されているとのことでした。

 タレント育成に関しては、「エブリバディタレント」という考え方を基本に据えていることが紹介されました。これは、全ての社員がビジネスの成長に貢献できるポテンシャルを持っているという信念に基づいています。この考え方は、従来の一部のエリート社員のみを重点的に育成するアプローチとは一線を画すものであり、組織全体の底上げと多様な人材の活用を目指すものです。

具体的な取り組み

  • パフォーマンス開発(PD)制度
     この制度の特徴は、従来の5段階評価によるレーティングを廃止し、より柔軟で継続的なフィードバックを重視している点です。四半期ごとに上司と部下が「チェックイン」と呼ばれる対話の機会を持ち、業績の振り返りだけでなく、今後の計画や能力開発、キャリア開発についても話し合います。また、「フィードフォワード」という概念を導入し、過去の評価にとどまらず、未来の成長に向けた建設的な対話を促進しています。

  • コーチング文化の強化
     パフォーマンス開発制度の導入と同時に、組織全体でコーチング文化を強化する取り組みを行っています。具体的には、様々な研修プログラムの実施、上司同士のピアでのロールプレイ、180度フィードフォワード(部下からの上司評価)などを通じて、コーチングスキルの向上と文化の定着を図っています。

  • ライフロングラーニング文化の醸成
     社員一人一人が自身の成長に対するオーナーシップを持つことを重視しています。会社は学習の機会と環境を提供しますが、最終的に学習をどのように活用し、成長につなげるかは個人の責任であるという考え方です。この文化を支えるため、「3E」というフレームワーク(Experience:経験、Exposure:人との交流、Education:教育)を用いて、バランスの取れた成長機会を提供しています。

  • キャリア開発
     キャリア開発においては、「ルックイン」(自己理解を深める)、「ルックアウト」(外部環境や業界動向を理解する)、「ルックアバウト」(具体的な行動の方向性を探る)というフレームワークを活用しています。これにより、社員が自身のキャリアを主体的に考え、計画することを支援しています。

  • スキル開発
    オ ンラインの学習システム「ディグリード」を導入し、社員が自身のペースで学習を進められる環境を整備しています。また、職種や役職に関わらず全社員に共通して必要とされる20個のコアスキルを定義し、これらのスキル習得を支援しています。

  • インクルージョン&ダイバーシティ
     多様性を単なる社会的責任としてではなく、イノベーションを生み出すための戦略的要素として位置づけています。多様な背景や考え方を持つ人材が互いに尊重し合い、自由に意見を交換できる環境がイノベーションの源泉になると考えています。

新たな挑戦

  1. グローバル選抜研修の一部をセルフセレクト(手上げ制)に変更
    従来のノミネーション制から、意欲のある社員が自ら参加を希望できる仕組みに変更しました。これにより、より多様な人材が研修に参加する機会を得られるようになりました。

  2. 日本独自の次世代リーダー育成プログラムの開発
    グローバルプログラムでは対象とならない層も含め、幅広い層を対象とした日本独自のリーダー育成プログラムを開発しました。これには、6ヶ月間のアクションラーニングを中心とした選抜研修や、新卒入社者を対象とした3年間のローテーションプログラムなどが含まれています。

  3. 全社員向けのセルフリーダーシップ研修の導入
    コーチングを受ける側のマインドセットやスキルも重要であるとの認識から、全社員を対象としたセルフリーダーシップ研修を導入しました。これにより、社員一人一人が自身の成長に主体的に取り組む文化の醸成を目指しています。

 神谷氏は、これらの取り組みを通じて、アストラゼネカが「イノベーションを通じた成長」を実現し、患者さんの生活に意味ある変化をもたらすことを目指していると締めくくりました。

2.政元竜彦氏(株式会社Aoba-BBT取締役副社長)による講演

 政元氏は、次世代経営人材育成のポイントについて、現代のビジネス環境の特徴や課題を踏まえながら講演を行いました。

 まず、日本企業のCEO選抜年齢が欧米企業に比べて遅いことを指摘しました。日本企業のCEO就任年齢が平均60歳前後であるのに対し、欧米企業では50代前半や40代でCEOに就任するケースが多いことを示し、この差が日本企業の国際競争力に影響を与えている可能性を指摘しました。

 このような状況を背景に、経営人材の早期選抜と育成の重要性を強調しました。特に、VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)と呼ばれる現代のビジネス環境において、従来の延長線上にはない新しいビジネスを設計する能力(構想力)が求められていると指摘しました。

 そのため、若手を含めた幅広い階層からポテンシャルで人材を選抜し、中長期的に育成していく必要があると述べました。この approach は、従来の年功序列や実績主義とは異なり、将来のポテンシャルを重視する点が特徴的です。

育成における重要な要素

  1. 問題発見・解決力
    自分で答えを作っていく力を指します。日本の教育システムでは、正解を覚えることに重点が置かれがちですが、ビジネスの現場では正解のない問題に直面することが多々あります。そのような状況下で、問題の本質を見抜き、創造的な解決策を生み出す能力が求められます。

  2. 視野の拡大
    新しい方向性を打ち出すためのインプットの重要性を強調しました。自分の専門分野や所属する業界だけでなく、幅広い知識や情報を吸収することで、新たな発想や革新的なアイデアが生まれやすくなります。特に、デジタルトランスフォーメーションやサステナビリティなど、現代のビジネスにおいて重要なテーマについての理解を深めることの重要性を指摘しました。

  3. リーダーシップ
    人を巻き込んで結果を出す力の重要性について説明しました。いくら優れたアイデアや戦略があっても、それを実行に移し、組織全体を動かすことができなければ意味がありません。そのため、人々を inspire し、目標に向かって組織を導くリーダーシップスキルの開発が不可欠であると強調しました。

Aoba-BBTが提供する具体的なソリューション

  • Real Time Online Case Study(RTOCS)
     実在する企業の課題に取り組むことで、問題発見解決力を鍛えるトレーニングプログラムです。参加者は毎週、異なる企業のケースを分析し、自分なりの解決策を提案します。このプロセスを通じて、分析力、創造力、意思決定力などを総合的に向上させることができます。

  • BBTパーソナライズ
     最新のビジネストレンドから経営の基礎知識までをカバーする、カスタマイズ可能なオンデマンド学習プログラムです。個々の学習者のニーズや現在の知識レベルに応じて、最適な学習内容を提供します。特に、カリキュラムプランナーによる個別面談を通じて、各学習者に最適化されたラーニングパスを設計する点が特徴的です。

  • リーダーシップ開発プログラム
     自己理解から組織運営まで、段階的にリーダーシップスキルを学ぶプログラムです。「ファインドユアセルフ」と呼ばれる自己理解のステージから始まり、チームマネジメント、組織運営に至るまで、体系的にリーダーシップを学ぶことができます。

 政元氏は、これらのプログラムを通じて、次世代の経営人材に必要とされる能力を効果的に育成できると主張しました。特に、最新の経営トレンドを常にコンテンツ化している点や、独自の教育メソッドを活用している点を自社の強みとして説明されました。

まとめ

 両講演者とも、急速に変化する現代のビジネス環境において、人材育成の重要性を強く訴えかけました。特に、共通で以下の点が強調されています。

  1. 若手からの育成の重要性
    従来のように管理職になってから本格的な育成を始めるのでは遅すぎるという認識のもと、早い段階からポテンシャルの高い人材を見出し、育成を開始することの重要性が指摘されました。

  2. 自発的な学習文化の醸成
    企業が一方的に教育を提供するのではなく、社員一人一人が自身の成長に責任を持ち、主体的に学ぶ文化を作ることの重要性が強調されました。

  3. 経験(OJT)と学習(Off-JT)のバランス
    座学だけでなく、実際の業務経験や挑戦的なプロジェクトへの参加など、様々な経験を通じた学習の重要性が指摘されました。同時に、そ
    れらの経験を深い学びにつなげるための理論的フレームワークやリフレクションの機会の重要性も強調されました。

  4. 個々の社員のポテンシャルを最大限に引き出す組織文化
    多様性を尊重し、個々の社員が自身の強みを発揮できる環境作りの重要性が指摘されました。これは、イノベーションを生み出すための重要な要素であると同時に、社員のエンゲージメントを高める上でも重要であると強調されました。

  5. 継続的な学習と適応の重要性
    ビジネス環境が急速に変化する中、一度身につけた知識やスキルだけでは不十分であり、常に新しい知識を吸収し、変化に適応し続ける必要性が強調されました。

 これらの講演は、現代の企業が直面する人材育成の課題と、その解決に向けた先進的な取り組みを示す貴重な事例として、参加者に大きな示唆を与えました。特に、人材育成を単なる教育研修の問題としててではなく、組織文化や経営戦略と密接に結びついた重要な経営課題として捉える視点は、多くの参加者にとって新鮮な洞察となったと思われます。

 また、両講演者が強調した「エブリバディタレント」や「ライフロングラーニング」の概念は、従来の階層型組織や固定的なキャリアパスの概念を超えた、より流動的で適応力の高い組織のあり方を示唆しています。これは、多くの日本企業が直面している組織の硬直化や人材の固定化といった課題に対する一つの解決策を提示するものとして、大きな注目を集めたと考えられます。

 さらに、アストラゼネカの事例で紹介された「パフォーマンス開発(PD)制度」や「コーチング文化の強化」は、従来の上意下達型のマネジメントスタイルから、より対話的で協働的なマネジメントスタイルへの移行を示すものとして、多くの参加者の関心を引いたことでしょう。
 特に、レーティングを廃止し、継続的なフィードバックとフィードフォワードを重視するアプローチは、多くの企業にとって挑戦的でありながら、高い潜在的効果を持つものとして受け止められたと推測されます。

 政元氏が指摘した日本企業のCEO就任年齢の高さとその課題は、日本企業の国際競争力に関する重要な問題提起として受け止められたでしょう。これは、単に人材育成の問題だけでなく、日本企業のガバナンスや意思決定プロセス、さらには日本の企業文化全体に関わる深い議論を喚起する可能性を持っています。

 また、Aoba-BBTが提供するソリューションの紹介は、多くの企業が直面している「どのように次世代リーダーを育成するか」という具体的な課題に対する実践的なアプローチを示すものとして、高い関心を集めたと考えられます。特に、オンラインとオフラインを組み合わせた柔軟な学習環境や、個別カスタマイズされた学習パスの提供など、テクノロジーを活用した新しい教育の形は、多くの企業にとって参考になる情報だったでしょう。

 今回のサミット内容を通して、人材育成が単なるスキル開発にとどまらず、企業の競争力や持続可能性に直結する戦略的な課題であるという認識が共有されたことは、非常に意義深いものだったと言えます。特に、急速に変化する現代のビジネス環境において、従来の固定的な人材育成モデルでは対応しきれないという危機感と、それを乗り越えるための新たなアプローチへの期待が、参加者の間で強く感じられたことでしょう。

 私も、今回のサミットを通じて特に以下の点は継続して検討・考察しなければならないと感じたところです。重たい内容ですが、、、

  1. 若手人材の早期発掘と育成に向けた仕組みづくり

  2. 自発的学習を促進する組織文化の醸成と具体的な支援策

  3. 経験学習(OJT)と形式知学習(Off-JT)の効果的な組み合わせ方

  4. 多様性を活かしイノベーションを促進する組織づくり

  5. テクノロジーを活用した新しい学習環境の整備

  6. 継続的な学習と適応を組織全体で推進するための仕組みづくり

 なお、このサミットは、数年前から開かれていますが、人材育成に関する継続的な対話と実践の場を提供する重要なプラットフォームとなっっているものです。今後も同様のイベントが定期的に開催され、最新の知見や実践例が共有されることで、日本の人材育成の景色がさらに豊かになっていくことを期待したいと思います。

若手人材の早期発掘、自発的学習文化の醸成、多様性を活かしたイノベーション促進などをテーマにしたイメージです。多様なプロフェッショナルたちが協力し合い、デジタルツールを活用して学習やディスカッションを行う様子です。未来的でダイナミックな雰囲気が、組織の成長と適応力の重要性を強調しています。

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