【書籍】禅とビジネスの交差点ー窪田慈雲師と見性の旅
『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)のp278「8月29日:見性してからが本当の修行の始まり
(窪田慈雲 代々木上原禅堂師家)」を取り上げたいと思います。
窪田慈雲師が25歳で安谷白雲老師に見性を許されたのは、彼にとって仏道修行の大きな転機でした。しかし、見性後も修行は終わらず、600以上の公案を解決する過程でさらに深い悟りを求める旅が続きました。30歳で公案の調べを終えた時、多くの修行者が参禅の修行を終えたと考えるかもしれませんが、窪田師はそうは思いませんでした。彼の心にはまだ解決されていない大きな疑問、生死についての問題が残っていました。この深い疑問を安谷老師に正直に伝えたところ、更なる修行の必要性を示唆され、再び公案の修行に取り組みました。
二度目の公案の調べを36歳で終えた後、山田耕雲老師の指導のもとで、独特な公案を通じて多大な啓発を受けることになります。山田老師の接心に参加する中で、徐々に生死問題に対する執着が薄れていきました。そして、40歳で仏道修行終了の証しである「罷参斎」を受け、「慈雲軒」という軒号をいただくことにより、一つの区切りを迎えます。
しかし、真の転機はロンドンへの転勤後に訪れました。異国の地での生活の中で、言葉の壁や文化の違いに直面しながらも、ある日の地下鉄での体験が彼の人生を変えることになります。疲れ果てて長いエスカレーターを下りる途中、電車の轟音と共に自我が消失し、夢のような深い静けさの中での存在感を体験しました。この体験は、坐禅を組まなくても深い三昧状態を味わうきっかけとなり、その後のある夜、目が覚めた時には自我が完全に消失していると感じました。夢うつつに、自己の死と再構成を経験し、「生きていたんだ」という実感と共に目覚めた瞬間、彼は真の悟りに達したと感じました。
この体験を通じて、窪田師は「般若心経」の教え、「色即是空」「空即是色」の意味を実体験として理解しました。自己という存在が本質的にはどこにもなく、「空」であることを悟り、この深い理解が彼にとって真の見性となりました。窪田師はこの体験を通して、お釈迦様が大悟を開かれた時に見た世界と同じものを見たと感じ、『般若心経』の深い教えが体験を通じて語られることの重要性を強調しています。窪田師の修行と悟りの旅は、外部の指導だけでなく、内面の深い探求と実体験に基づくものであり、仏道を求めるすべての人にとって大きな示唆を与えています。
人事としてどう考えるか
窪田師の体験を人事の視点から考察すると、組織内での個人の成長、リーダーシップの発揮、そして組織文化の醸成において重要な示唆を与えます。人事管理におけるタレントマネジメント、リーダーシップ開発、組織開発は、禅の修行と見性の体験から学ぶことが多くあります。
個人の成長と自己実現
窪田師の見性体験とその後の修行は、個人が自己実現を遂げる過程を象徴しています。人事の視点からこれを見ると、社員一人ひとりが自らのポテンシャルを最大限に引き出し、自己実珀へと向かうことの重要性が浮かび上がります。人事部門は、社員が自らのキャリアパスを見つけ、それを追求するためのサポート体制を整えることが求められます。これは、社員の能力開発プログラムの提供や、キャリアコンサルティング、メンタリング制度の整備などを通じて実現されます。
リーダーシップと師弟関係
窪田師が安谷白雲老師や山田耕雲老師から学んだ経験は、リーダーシップと師弟関係の重要性を示しています。組織内でリーダーは、部下や後進の指導者としてだけでなく、彼らの成長を促すメンターとしての役割も果たすべきです。人事部門は、メンターシッププログラムを通じて、経験豊富な社員が若手社員の成長をサポートする文化を育むことができます。このような師弟関係は、組織内での知識の伝承、スキルの向上、そして個人の成長を促進します。
組織文化とエンゲージメント
窪田師の体験からは、持続可能な修行と成長のための環境がいかに重要であるかが示されています。同様に、組織文化は社員のエンゲージメントとパフォーマンスに大きな影響を与えます。人事部門は、組織のビジョン、ミッション、価値観を明確にし、それらが社員の行動や意思決定に反映されるよう取り組む必要があります。また、開かれたコミュニケーション、相互尊重、継続的な学びの機会を提供することで、肯定的で支援的な組織文化を築くことが可能です。
持続的な学びと成長のサポート
窪田師の禅修行の過程は、個人の成長が一朝一夕には達成されず、持続的な努力と実践を必要とすることを示しています。人事部門は、社員が持続的に学び、成長するための環境を提供する責任があります。これは、継続的な教育と研修プログラム、パフォーマンスマネジメントシステムの整備、そして個人の成長と組織目標との整合性を確保することで実現できます。
まとめ
窪田慈雲師の経験から得られる教訓は、人事管理においても深く反映されるべきです。個人の成長支援、リーダーシップの発展、肯定的な組織文化の醸成、そして持続的な学びと成長の機会の提供は、組織の成功に不可欠な要素です。人事部門は、これらの要素を組織内で促進し、社員が自己実現を果たし、組織全体が目標に向かって進むためのサポートを行う重要な役割を担っています。
1日1話、「生き方」のバイブルとなるような滋味に富む感動実話を中心に365篇収録されています。素晴らしい書籍です。
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