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スポーツ組織から得る経営のヒント:日本フェンシング協会の改革と成長:いまのたかの組織ラジオ#199

 今野誠一氏(GOOD and MORE)と高野慎一氏(aima)によるユニット『いまのたかの』。マネジメントと組織の現場についてカジュアルに語る、「組織ラジオ」です。

 今回のテーマは、「日本フェンシング協会に経営を学ぶ」です。
 2024年パリオリンピックでの日本フェンシングチームの歴史的成功を起点に、日本フェンシング協会の経営戦略と組織改革について深く掘り下げた内容とです。
 このエピソードは、スポーツ組織の改革が一般的な企業経営、特にベンチャー企業の運営に適用できる貴重な洞察を提供しているという点で非常に興味深い内容となっていました。

パリオリンピックにおけるフェンシングの大活躍

 パリオリンピックでの日本フェンシングチームの活躍に焦点が当てられました。過去の大会で通算3個だったメダル数が、今大会では一気に5個に増加し、男女ともにメダルを獲得するという画期的な成果を挙げたことが強調されています。
 この成功は、2008年の北京オリンピックで太田雄貴選手が銀メダルを獲得して以来、わずか16年という比較的短期間での飛躍的な強化の結果であると指摘されています。この急速な成長は、組織的な取り組みと戦略的な投資の成果であり、限られたリソースを効果的に活用した好例として評価されています。

日本フェンシング協会の改革と強化策

 日本フェンシング協会の改革と強化策については、多岐にわたる取り組みが紹介されました。まず、限られた予算と少ない競技人口(約6,000人)の中での戦略的な強化が挙げられます。国からの予算が限られている中で、効率的な資源配分を行い、競技人口の少なさをむしろ強みに変え、個別指導に注力できる環境を活かしたことが成功の鍵となりました。

 次に、海外のトップコーチの招聘とその効果的な活用が重要な役割を果たしました。世界トップレベルの技術と戦略を日本チームに導入するだけでなく、外国人コーチの選定において、単に技術指導だけでなく、選手の個性を理解し尊重できる人材を重視したことが、チームの急速な成長につながりました。

 さらに、フルーレ種目への集中投資による効率的な強化も特筆すべき点です。リソースを分散させず、日本人選手が適性を持つフルーレに焦点を当てることで、短期間で世界トップレベルの競技力を獲得することができました。この戦略的な選択と集中は、限られたリソースを最大限に活用する上で重要な役割を果たしました。

 選手の個性を重視したコーチング手法の導入も、日本チームの強さを支える要因となりました。画一的な指導ではなく、各選手の特性に合わせたカスタマイズされた指導を実施することで、多様な戦型を持つ選手を育成し、団体戦での強みを作り出すことができました。この個別化されたアプローチは、選手一人一人の潜在能力を最大限に引き出すことに貢献しました。

 また、通訳者の役割も含めた、コーチと選手間の信頼関係構築にも注目が集まりました。言語の壁を越えて、コーチと選手が直接的なコミュニケーションを取れる環境を整備し、通訳者が「自分がいないかのように会話させる」ことを心がけることで、より自然な信頼関係の構築を促進しました。この細やかな配慮が、チーム全体の一体感と高いパフォーマンスにつながったと考えられています。

太田会長の就任と改革

 特に注目されたのは、2017年に31歳という若さで会長に就任した太田雄貴氏による改革です。彼の取り組みには、従来のスポーツ団体の常識を覆す斬新なアプローチが多く含まれていました。

 まず、明確な理念の策定が挙げられます。「感動体験の提供」を中心に据えた企業理念を確立し、単なるスポーツ団体ではなく、エンターテインメント企業としての自己定義を行いました。この新しい視点は、フェンシング協会の活動の方向性を大きく変え、観客やファンを中心に据えた戦略の基盤となりました。

 次に、ビジョンの明確化が重要な役割を果たしました。「他のスポーツのロールモデルになる」という大胆な目標を設定し、マイナースポーツがメジャーになるプロセスのモデルケースを目指すという野心的な方向性を打ち出しました。この高い目標設定は、組織全体に大きな動機づけと方向性を与えました。

 戦略的な人材採用も、太田氏の改革の特徴的な点です。副業・兼業限定での戦略プロデューサー募集により、千人以上の応募から優秀な人材を確保しました。このイノベーティブな手法は、多様な経験と専門性を持つ人材を低コストで獲得することを可能にし、組織に新しい視点と能力をもたらしました。

 意思決定の迅速化も重要な改革の一つでした。執行部を4人に限定することで、素早い判断と実行を可能にし、組織の肥大化を避け、ベンチャー企業のような俊敏性を維持しました。この小規模で機動力のある執行体制は、変化の激しい環境に迅速に対応する上で重要な役割を果たしました。

 さらに、メダル獲得数ではなく、感動体験の提供を目標とする新しい方向性の提示も注目に値します。従来の「メダル至上主義」から脱却し、より幅広い観客層の獲得と、競技の持続的な発展を目指す長期的視点を導入しました。この方針転換は、フェンシングの普及と人気向上に大きく貢献しました。

 マーケティングと観客体験の改革にも大きな注力がなされました。フェンシングをエンターテインメントとして位置づけ直し、競合を他のスポーツではなく芸能界に設定したことは、非常に斬新なアプローチでした。この戦略的な再定義により、フェンシングの魅力を新しい角度から伝えることが可能になりました。

 東京グローブ座のような劇場型会場での大会開催も、観戦体験を劇的に向上させる取り組みでした。従来の体育館とは異なる雰囲気で競技を行うことで、観客に新鮮な体験を提供し、チケット価格を高めに設定することでエンターテインメントとしての価値を強調しました。

 デジタル技術を活用した観戦体験の改善も重要な施策でした。LED床面ライトなどの導入により、競技の見やすさと演出効果を向上させ、段階的な開発と導入により、コストを抑えつつ効果的な改善を実現しました。これらの技術革新は、フェンシングの魅力を最大限に引き出し、新たな観客層の獲得に貢献しました。

まさにベンチャー企業、経営への応用が利く

 これらの取り組みは、ベンチャー企業の経営にも通じる戦略的アプローチとなります。明確な理念とビジョンの重要性、迅速な意思決定と実行、革新的なマーケティング戦略、限られたリソースの中での効果的な投資、トライアンドエラーの文化、そして顧客(観客)中心の思考などが、その特徴として挙げられています。

 特に、明確な理念とビジョンの重要性は、組織の方向性を定め、メンバーの意識を統一する上で重要な役割を果たしました。長期的な目標を設定することで、短期的な困難を乗り越える原動力を生み出し、組織全体の求心力を高めることができました。

 迅速な意思決定と実行は、小規模な執行部による素早い判断と行動を可能にし、環境の変化に柔軟に対応し、機会を逃さない組織体制の構築につながりました。この俊敏性は、急速に変化するスポーツ界やエンターテインメント業界において、競争優位性を確保する上で重要な要素となりました。

 革新的なマーケティング戦略は、従来の枠にとらわれない新しい市場開拓を可能にし、競合の再定義により、新たな価値提案と差別化を実現しました。フェンシングを単なるスポーツではなく、エンターテインメントとして位置づけ直すことで、新たな観客層の開拓に成功しました。

 限られたリソースの中での効果的な投資は、重点分野への集中と外部人材の活用を通じて実現されました。特に、副業・兼業人材の活用など、コストを抑えつつ高い専門性を獲得する工夫は、リソースの制約がある組織にとって大いに参考になる戦略です。

 トライアンドエラーの文化も、組織の成長と革新に大きく貢献しました。新しいアイデアを迅速に試し、成果を検証する姿勢や、失敗を恐れず常に改善と革新を追求する組織文化の醸成は、急速な環境変化に対応する上で重要な要素となりました。

 顧客(観客)中心の思考は、競技者だけでなく、観客の体験を重視したサービス設計を可能にしました。感動体験の提供を通じて、ファン層の拡大と競技の普及を同時に達成するという戦略は、スポーツビジネスの新しいモデルを示すものとして注目されています。

 この話では、スポーツ団体の改革が単なる競技力向上だけでなく、組織マネジメントや経営戦略の観点からも非常に示唆に富むものであると結論づけています。日本フェンシング協会の事例は、リソースが限られた環境下での組織改革と成長戦略のモデルケースとして、ベンチャー企業や他の組織にも多くの学びを提供しているとしています。

 特に、若いリーダーシップの下で大胆な改革を行い、従来の常識にとらわれない新しいアプローチを採用したことが高く評価されています。この事例は、組織の規模や業界に関わらず、明確なビジョンと戦略的な実行力があれば、短期間で大きな成果を上げることが可能であることを示しています。

 この話は、スポーツマネジメントと企業経営の接点を探ることで、異分野からの学びの重要性を強調しています。組織の改革と成長には、自身の業界だけでなく、異なる分野の成功事例からも多くのインスピレーションと実践的な戦略を得ることができるという貴重な洞察を提供しています。

 日本フェンシング協会の改革は、スポーツ界のみならず、ビジネス界にも適用可能な普遍的な組織改革のモデルとして、多くの示唆を与えています。リーダーシップ、戦略的思考、イノベーション、そして顧客中心のアプローチなど、成功に不可欠な要素が凝縮されたこの事例は、今後の組織運営や経営戦略を考える上で参考となるでしょう。私自身も大いなる学びとなりました。

このフェンシングの試合のシーンは、選手たちの技術と緊張感を見事に描写しています。赤い防具を着たフェンサーが正確な突きを繰り出し、緑の防具を着たフェンサーが素早いパリイでそれに応じる瞬間が捉えられています。背景には観客の歓声が響く大きなアリーナがあり、明るい照明が試合を照らしています。この画像は、スポーツの活気とエネルギーを柔らかな画風で表現しており、フェンシングの魅力を存分に伝えています。


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