AI時代におけるリスキリングの重要性とその実践ー後藤宗明氏
Aoba-BBTの番組後藤宗明氏による「AI時代のリスキリング6:新たな時代におけるリスキリング」を聴講しました。
リスキリングのテーマは、特にAI技術の急速な進化に伴い、現代社会においてますます重要になっています。これまでの仕事のやり方やスキルセットでは対応できない新しい課題が次々と出てくる中で、個人や組織がどのようにして成長分野に適応し、新たなスキルを身に付けていくかが問われています。
特に現在のAI時代では、AIやロボットが多くの仕事を自動化する方向に向かっており、これまで人間が担っていた多くの業務が、今後はAIによって代替される可能性が高くなっています。したがって、人間がAIと共存していくためには、どのような新しいスキルが必要になるのかを深く考える必要があります。この点がまさにリスキリングの本質的なテーマです。
AIがますます高度化していく中で、リスキリングが特に重要である理由として、AIの進展が既存の仕事を変革していく一方で、私たちがまだ知らない新しい仕事や役割が次々と生まれているという現実があります。したがって、今後の社会では、成長分野で活躍するためのリスキリングがますます必要になってくるのです。
その中でも、特に重要視されている分野がデジタル技術の分野です。AI時代においてデジタルスキルは必須のスキルセットとなり、これを習得することが今後のキャリア形成において大きな差を生むことが予想されています。例えば、日本はデジタル技術の進展において国際的なランキングで32位に位置しており、この分野での成長が課題となっています。個人レベルでの努力だけでは限界があり、組織全体でのリスキリング推進が不可欠であることが強調されています。
人事の視点でも非常に興味深い、重要なテーマであるため、考察を拡げてみたいと思います。
デジタルスキルと日本の課題
日本がデジタル技術の面で世界的に遅れを取っているという問題が深刻です。特に、個人の努力だけでは十分な効果を上げることが難しく、企業や政府、教育機関などが一体となって支援し、スキルアップを促進する仕組みを作る必要があります。これにより、日本全体の競争力を高め、将来的な成長を支える基盤を築くことが求められています。
特にデジタルスキル不足が解消されれば、多くの新しい仕事が生まれる可能性があり、それが日本の経済発展にも大きく貢献するでしょう。AI時代における新たな技術革新に対応するためのスキルは、単に技術的な知識だけでなく、それをどう活用し、ビジネスや社会全体にどのように適応させるかという視点が必要です。
AIが変える仕事の未来
この講義では、未来の仕事の姿についても触れられています。例えば、AI技術が進展する中で、今後の仕事は「AIを作る人」「AIを使う人」「AIに使われる人」の3つのカテゴリーに分類されるという予測が紹介されています。
AIを作る人
これには高度な技術を持った研究者やエンジニアが含まれます。特にAIの設計やプログラミングといった高度な技術を扱う人々がこのカテゴリーに該当します。AI技術が進化する中で、AI自体がAIを作る時代が到来する可能性も示唆されていますが、それでも人間の高度な専門知識が不可欠であることには変わりありません。AIを使う人
経営者や意思決定者がこのカテゴリーに入ります。AI技術を導入し、それをビジネスや組織運営に活用するための判断を行う役割です。単にツールとしてAIを使うのではなく、どのタイミングで、どのようにAIを活用するかを見極める能力が必要とされています。AIに使われる人
AIが提供する指示やアルゴリズムに基づいて業務を遂行する人々です。例えば、配送業務において、AIが最適なルートを指示し、それに従って配送を行うケースが既に見られています。このように、今後多くの事務的な仕事でもAIが大きな役割を果たすことになるでしょう。
グローバルスキルとデジタルマーケティングの重要性
日本においてリスキリングが求められる分野の一つが、グローバルスキルです。日本人の多くは、海外での仕事や生活を想定しておらず、パスポートの保有率が低いことがその一例として挙げられています。コロナ禍の影響もあり、さらにその保有率が下がっている現状では、日本の優れた製品やサービスを世界に広めるチャンスを逃しているといえます。
一方、同じ島国であるイギリスやアメリカでは、多くの人がパスポートを持ち、国際的な視野で活動しています。これに対して日本では、特定の地域に限定された活動が主流であり、海外市場への進出が十分に進んでいないという課題があります。
このため、デジタルマーケティングを活用し、戦略的に海外市場にアプローチするスキルが今後ますます求められます。デジタル技術を駆使して、多言語での情報発信やマーケティング活動を行うことが、インバウンド需要の増加や輸出拡大に繋がるでしょう。
グリーンスキルについては、以下にもまとめました。
「グリーンスキル」の拡大とその重要性
環境問題に対応するためのスキル、いわゆる「グリーンスキル」も、リスキリングの一環として重要視されています。特に、脱炭素化や気候変動対策に向けたビジネスプロセスの改革が求められる中で、こうした分野でのスキルがビジネスとしても非常に価値を持つようになっています。
例えば、ヨーロッパやアメリカでは、すでにグリーンスキルを持った人材の需要が高まっており、これに対応するための教育や訓練プログラムが整備されています。日本でも、グリーンスキルを活用した新規事業の創出や、既存事業のグリーン化が求められており、この分野でのリスキリングが今後の成長分野となることが予想されています。
AI時代における人間のスキル
AIが正解を導く時代において、人間に求められるのは、「問いを立てる力」や「探索する力」です。AIが高度な計算やデータ分析を行う一方で、人間には未解決の問題を発見し、それに対する独自のアプローチを試みることが求められています。このようなアプローチを可能にするのが「学際的スキル」です。
学際的スキルとは、異なる分野の知識や経験を組み合わせ、新たな洞察を生み出す力です。例えば、デジタルスキルとリーダーシップスキル、環境スキルとビジネススキルといった異なる分野のスキルを統合することで、これまでにない解決策を見つけ出すことができます。
このスキルを高めるためには、日常的に挑戦や課題に取り組み、未知の領域に踏み込む勇気が必要です。経験を積むことで、ストリートスマートな知恵や適応力が身に付き、それが将来の大きな武器となるでしょう。「学際的スキル」は以下にて深掘りしてみました。
まとめ
リスキリングは、個人や組織が未来の変化に対応し、成長していくための重要な手段です。AI時代においては、デジタルスキルやグリーンスキル、そして学際的スキルがますます重要になっていきます。これからの社会で成功するためには、常に新しいスキルを学び、変化に適応していく姿勢が求められます。そして、こうしたスキルの獲得は、単に仕事のためだけでなく、社会全体の発展にも寄与することが期待されています。
人事の視点から考えること
リスキリングの重要性が増す現代において、人事部門が果たすべき役割は非常に多岐にわたり、重要性も増しています。特に、AI技術の進展に伴う業務の変革と、それに伴う人材育成の必要性を踏まえると、人事部門がどのように対応していくべきかは深く考えるべき課題です。人事の視点からリスキリングを推進するために考えるべき具体的な点について、考察してみます。
1. リスキリングの戦略的導入と計画立案
企業がAI時代に適応していくためには、リスキリングの導入を戦略的に行うことが不可欠です。リスキリングを単なるトレンドや一過性の教育プログラムとして捉えるのではなく、企業の長期的な成長戦略の一部として明確に位置付ける必要があります。特に、AIや自動化の進展によって従来のスキルセットでは対応できない新たな業務や職務が増加している中で、組織が求める新しいスキルを明確にし、それに応じたリスキリングを計画的に推進することが求められます。
具体的な計画を立てる際には、企業のビジョンやミッションに基づき、将来的にどのようなスキルが求められるかを予測することが重要です。例えば、AIやデジタル技術の進化に伴い、業務の自動化が進む職種が増えることが予想されますが、これに対処するためには、人間にしかできないスキルや高度な判断力、創造力が必要となるでしょう。そのため、はリスキリング計画を設計する際に、各部門ごとの現状を正確に把握し、今後のビジネスニーズに対応できるスキルを特定し、それに応じた研修プログラムを設計する必要があります。
さらに、リスキリングの計画を推進する際には、現場のリーダーや中間管理職との連携が非常に重要です。リスキリングの意義や目的を社内で共有し、現場がスムーズに新しいスキルに適応できるようにサポートする役割を人事部門が担うべきです。リーダーシップ層がリスキリングの重要性を理解し、従業員に対して積極的にサポートを行うことで、組織全体のスキルアップを促進する環境が整います。
2. 成長分野におけるスキルギャップの把握と適切な研修プログラムの提供
AIやデジタル技術、そしてグリーン分野における成長は今後ますます加速していくため、企業がこれらの分野で競争力を維持するためには、従業員が適切なスキルを持っていることが不可欠です。人事部門としては、組織内で現在どのようなスキルが不足しているか、どのようなスキルが今後必要とされるかを正確に把握するためのスキルギャップ分析を行う必要があります。
スキルギャップを明確にすることで、適切な研修プログラムを提供することができ、従業員が新たなスキルを習得するためのサポートを行うことが可能となります。特にAI時代においては、技術的なスキル(ハードスキル)だけでなく、創造性やコミュニケーション能力、問題解決力といったソフトスキルもますます重要になっています。人事部門は、これらのスキルを伸ばすための研修プログラムを企画し、特に中間管理職やリーダー層を対象にした研修を行うことが求められます。
また、リスキリングは単なる業務遂行のためのスキルアップではなく、従業員一人ひとりのキャリア形成やモチベーション向上にも繋がるものであるため、個々のニーズに合わせた研修を提供することが重要です。特に、キャリアパスに沿ったスキルアップの機会を提供することで、従業員が自分自身の成長を実感し、組織に対するエンゲージメントが向上することが期待されます。
3. リーダーシップとマネジメントスキルの強化
AI技術が進展する中で、企業内の管理職やリーダー層に求められるリーダーシップスキルも変化しています。従来のトップダウン型のリーダーシップスタイルから、複数のAIやデジタルツールを効果的に活用し、チーム全体を調整し導く能力が重要視されるようになっています。このため、人事部門は、リーダーや管理職に対するマネジメントスキル強化のためのプログラムを提供し、彼らが新しい技術環境に適応できるようサポートすることが不可欠です。
特に、AIを含むデジタル技術を効果的に導入し、それをどのように活用するかの意思決定がリーダーに求められる時代において、AIが提供するデータや分析結果を正確に理解し、それに基づいて適切な行動を取る能力が必要です。AIが提供する情報をもとに、チームをどのように導くか、プロジェクトをどう進めるかを判断するためには、プロジェクトマネジメントやデータリテラシーといった新しいスキルが求められます。
さらに、リーダー層はAIやデジタルツールだけでなく、チーム内外の利害関係者(ステークホルダー)を調整する「ステークホルダーマネジメント」のスキルも強化する必要があります。特に、異なるバックグラウンドを持つチームメンバーや外部パートナーとの協力が求められる現代のビジネス環境では、このスキルが非常に重要です。人事部門は、これらのスキルを育成するためのプログラムを提供し、リーダーが効果的にチームをまとめ上げる力を身に付けることを支援すべきでしょう。
4. 人材の多様性とインクルージョン(D&I)の促進
リスキリングを推進する際に重要なもう一つの視点が、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の考慮です。AIやデジタル技術が進化することで、従来の性別や年齢に基づく職務の区分が曖昧になる可能性が高まっています。このような状況下で、人事部門は、あらゆるバックグラウンドを持つ従業員がリスキリングの機会を平等に得られるように、学習環境を整備する必要があります。
特に、技術に対して抵抗感を持つシニア層や、家庭の事情でフルタイム勤務が難しい女性従業員など、さまざまなニーズを持つ従業員に対して柔軟な学習プランを提供することが重要です。例えば、シニア層には段階的なデジタル教育を、若い世代には最新技術を迅速に習得できるプログラムを提供するなど、個別のニーズに応じた対応が求められます。
また、多様な視点や経験を持つ人材がリスキリングを通じて成長することは、組織全体のイノベーションや問題解決力の向上に繋がります。D&Iを推進することは、企業の競争力を高めるだけでなく、従業員一人ひとりの成長を支援するための重要な手段でもあります。
5. リスキリングによるキャリア開発と従業員エンゲージメントの向上
リスキリングを成功させるためには、単にスキルの習得だけでなく、従業員のキャリア開発を見据えた長期的な戦略が必要です。リスキリングを通じて従業員が新しいスキルを習得することで、社内でのキャリアアップの機会を提供し、従業員のエンゲージメント(企業への貢献意識)を高めることが可能です。
例えば、新しいスキルを習得した従業員が、そのスキルを活かして新たな業務に挑戦できる環境を整えることで、従業員が自身の成長を実感できるようになります。これにより、企業に対する満足度やモチベーションが向上し、結果として離職率の低下や生産性の向上が期待されます。従業員が成長を実感できる環境を提供することは、人事部門の重要な役割ではないでしょうか。
さらに、リスキリングによって得られたスキルが企業全体のイノベーションや競争力強化に繋がることも期待されます。従業員一人ひとりが自信を持って新しいスキルを活用できるようになれば、企業全体の成長にも寄与します。人事部門は、従業員のキャリアパスを考慮したリスキリングの機会を提供し、長期的な視点での人材育成に努める必要があります。
6. リスキリングによる組織の変革と未来志向の企業文化の醸成
リスキリングは、単に個々の従業員のスキルアップを図るだけでなく、組織全体の変革を促すための手段でもあります。リスキリングを通じて組織全体が成長し、未来志向の企業文化を醸成することが可能です。特に、従業員が新しい技術や知識を積極的に学ぶ姿勢を持つことで、企業全体のイノベーション力が高まり、変化に対応できる柔軟な組織を作り上げることができます。
人事部門としては、このような未来志向の文化を育てるために、従業員がリスキリングを積極的に取り組めるような環境を整備する必要があります。学び続ける文化を推進するためには、リーダーシップの育成や、オープンで協力的な企業文化を形成することが重要です。従業員が自発的にスキルアップに取り組む姿勢を持つことが、企業の持続可能な成長に繋がります
まとめ
総じて、リスキリングは人事部門にとって単なる教育プログラムの一環ではなく、企業全体の未来を形作る重要な要素です。AIやデジタル技術が急速に進化する現代において、組織全体がリスキリングを戦略的に推進し、未来の成長に備えることが、成功するための鍵となるでしょう。人事部門は、従業員一人ひとりの成長をサポートし、組織全体が変革に対応できるよう支援する役割を果たすべきでしょう。
AI時代におけるリスキリングのプロセスを描いています。多様な背景を持つプロフェッショナルたちが、AIインターフェースやデジタルツールを活用しながら新しいスキルを習得している様子が中心に描かれています。周囲には、グローバルなネットワークや持続可能な技術、そして創造性を象徴するシンボルが配置され、未来志向の働き方を表現しています。全体的に明るく、ポジティブで、継続的な学びと革新の雰囲気が漂うデザインとなっています。