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【書籍】テキスト時代のコミュ力教科書:オンラインで伝える技術と心構えー新山さん
新山さんの『伝わるコミュ力の教科書』(2024年)を拝読しました。
現代社会で日常的に行われる「オンラインコミュニケーション」における課題を明確化し、テキストベースのやり取りをスムーズかつ効果的にするための方法を解説する実践的なガイドです。
新山氏は、特に非対面のコミュニケーションで感じやすい「誤解」「行き違い」「意思疎通の難しさ」などの課題を解消するために必要なスキルや考え方を、具体的な事例や実践方法を通じて伝えています。この本の中心的なテーマは「断絶しないコミュニケーション」であり、感情や意図を正確に伝え、相手との理解を深めることを目指しています。
非対面コミュニケーションの重要性と課題
オンラインコミュニケーションが一般的となった現代では、私たちのやり取りの多くが対面ではなく、メール、チャット、SNSといったテキストを用いた非対面の形式で行われています。このようなコミュニケーションは非常に便利である一方で、対面と比べて感情やニュアンスが伝わりにくいという課題があります。たとえば、顔が見えない状態では相手の感情を察することが難しく、意図しない形で誤解を招くことが少なくありません。また、文字だけのやり取りでは、相手の反応をリアルタイムで確認することができず、コミュニケーションが断絶しやすいという特徴もあります。
このような課題を乗り越えるために、本書では「断絶しないコミュニケーション」を実践するための具体的な方法論が提示されています。その中で特に重要視されているのは、読解力、コミュニケーション力、そして文章力の3つの柱です。これらのスキルを磨くことで、非対面のやり取りでも相手に寄り添い、誤解を防ぎながら信頼関係を築くことができるようになります。
読解力:相手を理解する力
読解力とは、単に文章を読む力にとどまらず、相手の意図や背景、感情を正確に読み取る能力を指します。非対面のコミュニケーションでは、相手の表情や声色といった視覚的・聴覚的情報が欠けているため、文字だけから相手の心情を読み解くスキルが求められます。本書では、メラビアンの法則(視覚情報が55%、聴覚情報が38%、言語情報が7%を占める)を例に挙げ、テキストコミュニケーションがいかに情報量の少ない手段であるかを説明しています。
例えば、対面コミュニケーションでは、相手の表情や声色を観察しながら、その場でリアルタイムに軌道修正を行うことができます。一方、文字だけのやり取りでは、相手が何を感じ、どう解釈しているのかを想像しながら文章を作成する必要があります。そのため、読解力を鍛えることが、テキストコミュニケーションを成功させる第一歩となるのです。
読解力を高めるために「相手を具体的に想像する」ことを推奨しています。たとえば、相手の性別、年齢、地域、趣味などの情報をもとに、その人の人物像を立体的にイメージすることで、より的確なメッセージを作成することができます。また、相手のメールアドレスや文面から人柄を読み取り、共通点を見つけることで、相手との距離感を縮めることが可能です。
コミュニケーション力:関係を築く力
コミュニケーション力とは、相手に自分の意図を正確に伝え、好感や信頼を生む能力を指します。特にオンラインビジネスにおいては、相手との信頼関係を築くことが重要です。本書では、非対面のコミュニケーションでありがちな「見えない溝」を埋める方法として、相手に寄り添う姿勢を持つことを提案しています。
具体的には、テンプレート文をそのまま使用するのではなく、そこに自分らしい温かみのある表現を加えることで、相手に安心感や親近感を与えることができます。また、相手の反応を想像しながら文章を構成することで、より効果的なコミュニケーションを図ることができます。本書では、例として絵文字や視覚的な補助要素を適切に活用することで、文字だけでは伝わりにくい感情を補完する方法も紹介されています。
文章力:感情を動かす力
文章力とは、相手に誤解を与えず、自分の意図を正確に伝える力を指します。本書では、文章力を高めるための具体的なステップとして、以下の方法が挙げられています。
相手の感情を動かすメッセージを書く
相手が共感できる言葉や表現を選び、感情に訴えかけるメッセージを作成する。文章の構成を工夫する
伝えたい内容を整理し、分かりやすい順序で伝える。相手の反応を想像する
送信する前に、相手がその文章をどう受け取るかを想像し、必要に応じて修正する。
また、相手の背景や状況を考慮した上で、適切な言葉を選ぶことも重要です。たとえば、ビジネスの場面では、相手が理解しやすい専門用語や簡潔な表現を用いる一方で、感情的な場面では、相手の気持ちに寄り添う柔らかい言葉を使うことが効果的です。
まとめ
読解力、コミュニケーション力、文章力という3つのスキルを磨くことで、非対面のコミュニケーションでも相手との信頼関係を築き、スムーズなやり取りを実現する方法を提案しています。これらのスキルは、オンラインビジネスだけでなく、日常の人間関係やプライベートな場面でも大いに役立つものです。特に、現代社会においてテキストコミュニケーションの重要性がますます高まる中で、本書が提供する実践的な知識とノウハウは、多くの人にとって貴重な学びとなるでしょう。
人事の視点から考えること
「断絶しないコミュニケーション」や「読解力」「コミュニケーション力」「文章力」は、人事業務領域においても重要なスキルとして活用できます。以下、いくつのかの観点で検討をしてみます。
1. 採用活動におけるテキストコミュニケーションの重要性
採用プロセスでは、応募者と企業の間の多くのやり取りがメールやチャットなど、非対面のテキストベースで行われます。この場合、採用担当者は応募者に企業の魅力や価値観を正確に伝え、応募者の意図や疑問を適切に読み取る能力が求められます。本書で紹介されている「読解力」は、応募者の質問やメールからその背景や意図を正確に理解し、的確な返信を行う際に役立ちます。
さらに、テンプレート文を利用する場合でも、本書で提案されているように温かみのある言葉や個別対応を加えることで、応募者との関係性を深めることができます。例えば、「お忙しい中、応募いただきありがとうございます」という一文に加え、応募者の具体的な経歴に触れるような一言を添えることで、応募者に「この企業は自分をしっかり見てくれている」という印象を与えることができます。
2. 社内コミュニケーションの円滑化
人事としては、社内の従業員と経営陣の間の架け橋として、情報の伝達や意図の調整を行う役割があります。特に、リモートワークが一般化している現在、テキストコミュニケーションを活用した円滑な情報共有が求められます。本書で述べられている「ペルソナ設定」の考え方は、従業員のニーズや背景をより具体的に理解し、適切なコミュニケーションを図るうえで有益です。
例えば、異なる世代や職種の従業員に対して情報を発信する際、それぞれの理解度や関心事に合わせた表現や言葉選びを工夫することで、情報がより効果的に伝わります。また、誤解を防ぐために文章を客観的に見直すプロセスを取り入れることも、本書が提案する「相手の反応を想像する」スキルに通じます。
3. 従業員エンゲージメントの向上
従業員エンゲージメントを高めるためには、従業員一人ひとりに寄り添ったコミュニケーションが不可欠です。本書の「相手に寄り添う文章力」の考え方は、従業員が企業や人事部に対して信頼感を持ち、より積極的に意見を表明できるような環境を整えるうえで役立ちます。
例えば、定期的なアンケートやフィードバックを実施する際、ただ形式的に質問項目を並べるのではなく、従業員の感情や意図を引き出すような問いかけを意識することが重要です。「現在の業務に満足していますか?」という質問だけでなく、「最近の業務で特に挑戦したことや、もっとサポートが欲しいと感じたことがあれば教えてください」という形で、従業員の心情や背景を読み取る工夫が考えられます。
4. トラブル対応における柔軟なコミュニケーション
時に従業員との間で誤解や行き違い、トラブルの調整を求められることがあります。私も幾度も幾度も巡り会いました。このような場面では、誤解を生む要因を排除し、相手の感情に配慮した柔軟な対応が必要です。本書で述べられている「誤解を生まない表現力」や「感情を動かすメッセージ」の技術は、こうした場面で役立ちます。
例えば、問題が発生した際、当事者の意図を正確に読み取りつつ、「あなたの意見を大切に受け止めています」といった言葉を添えることで、相手に寄り添う姿勢を示すことができます。また、解決策を提案する際には、相手が受け入れやすいように順序立てて説明するスキルも重要です。
5. リーダーや評価者の育成支援
人事としては、リーダーやマネージャーを育成し、彼らがチーム内で適切な評価とコミュニケーションを行えるよう支援する役割も担います。本書の内容は、特にリーダーシップ研修や評価者トレーニングで活用できる要素が豊富です。
例えば、評価者が部下にフィードバックを行う際には、ただ数値や事実を伝えるだけでなく、相手の努力や成長ポイントに具体的に触れることが重要です。「今回の目標達成に向けたあなたの取り組みは非常に参考になりました。次回はさらにこういった方法も試してみると良いかもしれません」というように、相手を尊重しつつ建設的なアドバイスを行うことで、部下のモチベーションを高めることができます。
総まとめ
本書で述べられている「断絶しないコミュニケーション」は、単に個人間のやり取りを円滑にするだけでなく、組織全体の信頼感や効率性を向上させるうえで、非常に有効なツールとなります。人事部門においては、採用、評価、エンゲージメント向上、トラブル対応、そしてリーダー育成といった多岐にわたる業務の中で、このスキルを活用することが可能です。
人事の役割は、単に従業員の管理や採用にとどまらず、組織全体のコミュニケーションを円滑にし、従業員一人ひとりの可能性を引き出すことにあります。本書の内容を参考に、自身が「断絶しないコミュニケーション」を実践し、組織全体にその価値を広げていくことが求められるでしょう。
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オンラインでのコミュニケーションがスムーズに行われている様子です。ソフトな色合いが温かみを感じさせ、参加者同士の信頼や相互理解が醸し出されています。ラップトップやスマートフォンなど、現代のツールを通じて感情や意図がしっかりと伝えられている様子が印象的です。「断絶しないコミュニケーション」の重要性が直感的に伝わります。
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— 竹内明仁@あり方とやり方の両立サポーター (@H_S36lab) November 15, 2024