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日本企業の未来を創る:パナソニック コネクトに学ぶ組織変革と人材戦略ー新家伸浩氏

 Aoba-BBTの「ピープルストラテジー 5」(鵜澤慎一郎氏)を拝聴しました。今回は、新家伸浩氏(パナソニック コネクト株式会社 執行役員、ヴァイス・プレジデント、CHRO)でした。
 伝統的な日本企業が現代的な組織へと進化を遂げる過程を示す貴重な事例です。組織変革の具体的な施策と成果、そして今後の展望についての解説がされました。

 パナソニックコネクト社は、2022年4月にパナソニックグループの事業会社として新たに発足した企業です。航空機向けエンターテインメントシステム、製造装置、サプライチェーン管理ソフトウェアなど、7つの事業部門を展開し、特にB2Bソリューション分野で強みを発揮しています。売上高は約1.2兆円規模、グローバルで約3万人の従業員を抱え、日本を代表する技術系企業の一つとして知られています。各事業部門は高い専門性と技術力を持ち、それぞれの市場で確固たる地位を築いています。

改革の全体像:3階層アプローチ

 同社の企業改革は、3つの階層で構成される包括的なアプローチを採用しています。
 第1階層の「カルチャー&マインド改革」では、従来の階層的で硬直的な企業文化を刷新し、よりフラットでアジャイルな組織風土の醸成を目指しています。この改革では、従業員の心理的安全性の確保や、自律的な行動の促進に重点が置かれています。
 第2階層の「ビジネスモデル改革」では、各事業の専門性強化とオペレーション改革を推進し、市場競争力の向上を図っています。
 第3階層の「事業立地改革」では、事業ポートフォリオの最適化を通じて、経営資源の効率的な配分を実現しています。これら3つの改革は相互に連携しながら、組織全体の変革を推進する原動力となっています。

人材マネジメント改革:5つの重点施策

 人材マネジメント改革では、5つの重点施策を展開しています。
 第一に、従来の年功序列型からジョブ型人事制度への移行を進め、職務と報酬の明確な関連付けを実現しました。この変更により、社員のキャリアパスがより明確になり、スキルや成果に基づく公平な評価が可能となりました。
 第二に、評価制度を抜本的に見直し、上司と部下の対話を重視した新しい評価の仕組みを導入。定期的な1on1ミーティングを通じて、目標設定から成果確認まで、より密接なコミュニケーションが図られるようになっています。
 第三に、職種別の市場競争力のある報酬体系を整備し、従来の画一的な給与体系からの脱却を図りました。この変更により、高度な専門性を持つ人材の獲得・維持が容易になりました。
 第四に、社員一人ひとりのキャリアオーナーシップを促進し、自律的なキャリア開発を支援。キャリア開発プログラムの充実や、社内公募制度の活性化などを通じて、社員の主体的なキャリア形成を後押ししています。
 第五に、現場のマネージャーへの権限委譲を進め、より機動的な人材マネジメントを可能にしました。これにより、各部門の特性に応じた柔軟な人材配置や育成が実現しています。

具体的な取り組み:組織文化の変革

 組織文化の変革を促進するため、数々の具体的な施策が実施されています。最も象徴的な取り組みは、フォーマリティの排除です。ドレスコードの廃止、役員室の撤廃、フリーアドレス制の導入など、物理的な環境変更を通じて、より開放的な職場環境を創出しました。また、1on1ミーティングの全社展開では、現在88%という高い実施率を達成し、上司と部下のコミュニケーションの質的向上に成功しています。ハラスメント対策も強化され、明確な処分基準の設定や行為内容の公表など、透明性の高い取り組みを実施。これらの施策により、職場の心理的安全性が大きく向上しました。さらに、DEI(多様性・公平性・包括性)の推進にも注力し、全職場にDEIリーダーを設置するなど、組織全体での意識改革を進めています。これらの取り組みは、単なる制度変更にとどまらず、組織の価値観そのものを変革する試みとして評価されています。

改革の成果:データで見る変化

 これらの改革の成果は、具体的な数字として表れています。従業員意識調査では、76%の社員が働きやすさの向上を実感しており、特に公平な扱いや個人の尊重に関する評価は、過去5年間で着実な向上を示しています。ハラスメント案件も大幅に減少し、2023年度下期にはゼロを達成。また、生産性指標や従業員エンゲージメントスコアも改善傾向にあり、改革の効果が定量的にも確認されています。これらの成果は、改革が組織の実質的な変化をもたらしていることを示す証左となっています。

今後の展望:さらなる進化への挑戦

 今後の方向性として、同社はさらに踏み込んだ改革を計画しています。雇用環境のグローバル化への対応では、海外人材の積極的な登用や、グローバル共通の評価基準の導入を検討しています。また、フリーランスなど多様な雇用形態の積極的な受け入れを進め、より柔軟な働き方を可能にする制度設計を進めています。スキルベースの人材マネジメントでは、より詳細なスキル評価システムの導入や、スキルに基づいたキャリアパスの設計を予定。さらに、データやAIを活用した人事施策の高度化を通じて、より精緻な人材配置や育成計画の立案を目指しています。これらの取り組みにより、生産性と人材流動性のさらなる向上を実現し、社員一人ひとりの成長と企業価値の持続的向上の両立を図っていく方針です。

まとめ:日本企業変革のモデルケース

 パナソニックコネクトの組織改革は、伝統的な日本企業が現代的な経営手法を取り入れながら、いかに組織を進化させることができるかを示す重要なモデルケースとなっています。特に、段階的かつ包括的なアプローチ、具体的な施策の実行力、そして改革の成果を定量的に示せている点は、多くの日本企業にとって参考となる要素と言えます。今後も同社の取り組みは、日本企業の組織改革における重要なベンチマークとして注目され続けることでしょう。

人事の視点から考えること

 パナソニックコネクトの組織変革事例について、実務的な観点からの考察をしてみます。

変革推進の本質的要件と実践的アプローチ

 組織変革を成功に導くためには、まず経営トップの強力なコミットメントが不可欠です。パナソニック コネクトの事例では、CEO樋口氏自らが変革を体現し、率先垂範する姿勢を示したことが、組織全体の変革モメンタムを生み出す原動力となりました。特に注目すべきは、人事部門だけでなく、経営課題として全社的に取り組む体制を構築したことです。これにより、部門間の壁を越えた統合的なアプローチが可能となり、より実効性の高い変革を実現できています。

 段階的なアプローチも重要な成功要因です。特にカルチャー改革を第一階層に位置付け、組織変革の土台作りを重視した点は、多くの示唆を含んでいます。制度変更とマインドセット変革を両輪として進めることで、形式的な改革に終わることなく、実質的な組織の進化を促すことができました。各施策の効果を定量的に測定し、PDCAサイクルを回しながら地道な改善を積み重ねていく姿勢も、持続的な変革を実現する上で重要なポイントとなっています。

実務上の重要課題と具体的な対応策

 評価制度の移行においては、評価者となるマネージャーの育成が最も重要な課題となります。パナソニックコネクトでは、マネージャー向けの研修プログラムを充実させ、評価スキルの向上を図るとともに、評価基準の明確化と標準化を進めることで、評価の公平性を担保しています。また、報酬決定権限の委譲に伴うガバナンス体制の整備も重要な課題となりますが、適切なチェック機能とモニタリング体制を構築することで、権限委譲のリスクを最小限に抑えています。

 報酬制度の設計においては、職種別報酬体系への移行に伴う内部均衡の確保が大きな課題となります。特に日本市場においては、職種別の市場価値を正確に把握することが難しく、適切な報酬水準の設定には慎重な検討が必要です。また、既存社員の処遇変更に関しては、丁寧なコミュニケーションと移行期間の設定など、細やかな配慮が求められます。

 人材流動性の向上に関しては、社内公募制度の実効性確保が重要な課題となります。スキルの可視化と育成機会の提供を通じて、社員の自発的なキャリア開発を支援するとともに、外部労働市場との接続における課題にも取り組む必要があります。特に、専門性の高い人材の獲得と定着においては、市場競争力のある処遇制度の整備が不可欠です。

人事部門の進化と新たな役割

 これからの人事部門には、戦略的パートナーとしての進化が求められます。事業戦略と人材戦略の連動を図り、データに基づく意思決定支援を提供するとともに、現場に寄り添ったソリューションを展開することが重要です。そのためには、HRBPの専門性向上やデジタル技術の活用、グローバル対応力の強化など、人事機能の高度化が不可欠となります。

実務への具体的な示唆

 変革を推進する上では、小さな成功事例を積み重ねていくアプローチが効果的です。現場の声を丁寧に拾い上げ、定量的な効果測定と可視化を通じて、変革の成果を組織全体で共有することが重要です。また、労使関係への配慮やコンプライアンス体制の整備、変革に伴う社員のストレス管理など、リスク管理の視点も忘れてはなりません。

 制度の運用負荷への配慮やシステム基盤の整備、継続的な改善サイクルの確立など、持続可能な仕組みづくりも重要な課題です。特に、デジタル化への対応やHRテックの効果的な活用、データ分析能力の向上など、テクノロジーの活用は今後ますます重要性を増していくでしょう。

実務担当者に求められる姿勢と能力

 人事実務を担当する立場においては、現場との対話を重視し、段階的な導入計画の策定と効果測定の仕組み構築に取り組むことが重要です。そのためには、ビジネスパートナーとしての視点やデータ分析力、プロジェクトマネジメント力など、多様なスキルが求められます。また、長期的な視点での取り組みと粘り強い姿勢、柔軟な発想と実行力も不可欠です。

 人事変革は、一朝一夕には実現できません。しかし、パナソニックコネクトの事例が示すように、明確なビジョンと戦略的なアプローチ、そして地道な実行力を組み合わせることで、着実な成果を上げることができます。人事としても、こうした事例から学びながら、自社の状況に応じた最適な変革の道筋を見出していくことが求められていると改めて感じたところです。

革新を目指す日本企業の職場文化が現代的に表現されています。明るいオフィスの中で、社員たちがホワイトボードを使ったブレインストーミングや、共有テーブルでのチームワークを行っている様子が描かれています。一方で、リーダーが少人数のグループにビジョンを語る場面は、戦略的思考と社員のエンパワーメントを象徴しています。自然光や植物、上昇トレンドのモニターディスプレイが、成長と包括性のムードを強調し、活気と前進のエネルギーを感じさせます。

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