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【書籍】信念と行動の価値ー勸山弘氏のアイバンク運動の教訓

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)のp386「12月9日:百人のわれにそしりの火はふるも(勸山 弘 真宗大谷派真楽寺住職)」を取り上げたいと思います。

百人のわれにそしりの火はふるも、ひとりの人の涙にぞ足る。

 九条武子氏の名言です。一人でも涙を流してくれる人がいたならば、たとえどれほど多くの方に謗られても十分というもの。

 この一節は、個人の信念と行動が、多くの批判にさらされながらも、たった一人の心を動かし、助けることの価値を示しています。本文に記されている勸山弘氏の経験は、その一例として非常に感動的です。

 勸山氏は、真宗大谷派真楽寺の住職として、ある夏の夜、89歳で亡くなられた檀家の方のご遺体から目を提供するアイバンク運動の一端を目の当たりにしました。この出来事が、彼にとってアイバンク運動に携わるきっかけとなりました。彼が目撃したのは、献眼という行為がどれほど善意と人間性に基づいたものであるかということでした。特に、深夜に東京・信濃町の慶應病院から若い医師が駆けつけ、亡くなった方に対して敬意を払いつつ目を摘出する様子は、深い感銘を与えました。

 アイバンク運動は、視覚障害者に新たな視界を提供するための活動ですが、その根底にあるのは、無償の善意の連鎖です。献眼を申し出た方、遺族の同意、そして医師の無償の奉仕が一つになり、視力を失った人々に光をもたらす。この運動が広がることで、多くの人々が視覚を取り戻し、その生活を劇的に改善することができるのです。

 勸山氏がライオンズクラブにアイバンク運動の支援を依頼した際、多くの人々からの無関心や批判に直面しました。特に、仏教の教えに反するといった批判や、勸山氏の動機を疑う声は、彼を深く悩ませました。しかし、九条武子さんの歌が彼を支えました。「百人のわれにそしりの火はふるも、ひとりの人の涙にぞ足る」という言葉は、多くの人が批判する中でも、一人の人が喜ぶことができれば、それで十分だという信念を象徴しています。

百人が自分を非難する矢を注ごうとも、一人の人が涙を流して喜べばそれでいいじゃないかという意味です。こんなことで挫けるなんて、お前は本当に坊主かと言われているようで、どうにか批判の中を突破することができたんですよ。
前からこの歌は知っていたのですが、自分が困難に直面して初めてこの歌がどんなに奥行きの深いものかが分かったのです。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)p386より引用

 この歌に勇気をもらった勸山氏は、批判を乗り越え、アイバンク運動を広める活動を続けました。結果として、多くの視覚障害者が光を取り戻すことができました。この経験は、勸山氏にとって大きな意味を持つとともに、私たちに重要な教訓を教えてくれます。すなわち、自分の行動が他者にどれだけの影響を与えるか、そしてその影響がたとえ一人であっても、その価値を認識することの重要性です。

人事の視点から考えること

 人事の立場から見ても、このような信念と行動の重要性は、組織の中でも大いに適用できる教訓です。企業や組織の中で、新しいアイデアやプロジェクトを提案する際に、必ずしも全員の賛同を得られるとは限りません。むしろ、時には激しい反対や批判に直面することもあります。しかし、そのアイデアやプロジェクトが一人でも多くの人に利益をもたらすものであるならば、その価値は計り知れません。

 例えば、新しい福利厚生制度の導入や、社員のキャリア開発プログラムの実施など、組織の中で革新的な取り組みを行う際には、多くの障害や反対意見に遭遇するかもしれません。しかし、それが一人の社員でも救い、成長を促し、やりがいを感じさせることができるならば、その取り組みは必ずしも失敗とはいえないでしょう。

 勸山氏の経験から学ぶべきもう一つの教訓は、善意と無償の奉仕の力です。組織の中でも、無償での貢献やボランティア活動は、社員のモチベーションを高め、組織全体の結束を強化する重要な要素です。例えば、社員が自主的に参加するボランティア活動や、社内でのメンタリングプログラムなど、無償での貢献が推奨される環境を整えることで、組織の文化が豊かになります。

 さらに、勸山氏のように、一人のリーダーが信念を持ち続けることで、組織全体に良い影響を与えることができます。リーダーシップは、単に指示を出すだけでなく、自らの行動で他者に影響を与える力を持っています。リーダーが困難な状況でも信念を曲げずに行動する姿勢は、他の社員にも勇気とインスピレーションを与えます。

 最後に、勸山氏が批判に耐えながらも、アイバンク運動を続けたように、組織内でも新しい挑戦や改革を推進する際には、批判を恐れず、目的を見失わずに行動することが重要です。批判や反対意見に直面しても、自分の信念を持ち続け、その行動が一人でも多くの人に良い影響を与えるものであるならば、その努力は必ず報われるでしょう。

 勸山氏の経験と九条武子氏の歌は、私たちに信念を持ち続けることの大切さと、他者に良い影響を与える行動の価値を教えてくれます。人事の立場から見ても、この教訓は組織の中での行動指針として非常に重要であり、社員一人ひとりがこの信念を持ち続けることで、組織全体がより良い方向に進むことができるのです。

静かな田舎の仏教寺院を背景に、僧侶と若い医師が対話する情景を描いています。医師は現代的な医療服を着ており、アイバンク運動を象徴する器具を持っています。夏の穏やかな夜に、柔らかい月明かりが寺院と周囲の木々を照らしています。僧侶の目から一筋の涙が流れ、献眼の感動を反映しています。個人の行動が他者に与える大きな影響と、無償の善意の力を強調しています。直面した感動的な経験と、それを通じて示された人間性と献身の価値が美しく表現されています。


1日1話、「生き方」のバイブルとなるような滋味に富む感動実話を中心に365篇収録されています。素晴らしい書籍です。




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