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企業変革の鍵は人材育成にあり:パラダイムシフトを牽引するリーダー像とは:Aoba-BBTリカレントサミット2024ー内田和成氏、政元竜彦氏

 Aoba-BBTが毎年開いている経営者・人事向けの「リカレントサミット」。2024年11月15日に、「企業変革の鍵「パラダイムシフト」を牽引するリーダー育成」というテーマで実施されました。登壇者は内田和成氏(早稲田大学名誉教授、東京女子大学特別客員教授)と政元竜彦氏(株式会社Aoba-BBT 取締役副社長)でした。

 人事の立場として、種々考えさせられるところがあり、応用すべきところもたくさんあります。

https://www.bbt757.com/business/recurrent-summit2024autumn

 現代のビジネス環境は「なんでもあり」の極めて不確実な時代に突入しています。9.11テロ、リーマンショック、東日本大震災、コロナパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻など、予測不能な事態が次々と発生し、経営環境を一変させています。さらに今後も、台湾有事、米中戦争、日本の財政破綻など、様々な事態が起こりうる状況にあります。
 このような環境下では、従来の経営手法や意思決定プロセスが通用せず、経営者やリーダーには新たな対応力と変革力が求められています。特に重要なのは、不確実性を前提とした経営判断と、組織の変革を推進する力です。

現代のリーダーシップの二面性

 現代のリーダーには、二つの相反する役割が求められています。一つは「今日を生き延びる」という短期的な視点での経営です。これは現在の事業を守り、収益を確保し、組織を維持することを意味します。
 もう一つは「明日を作る」という長期的な視点での変革です。将来の不確実性に備え、新しいビジネスモデルを創造し、組織の持続可能性を高めることが求められます。特に重要なのは、パラダイムシフトを牽引する役割です。不確実性の高い環境下で、完全な確信が持てない状況でも決断を下し、組織を正しい方向へ導いていく必要があります。
 さらに、その決断に対して責任を持ち、組織のメンバーに対して明確な方向性を示し、変革への共感を得ることが求められます。

リーダーシップの4類型と特徴

 リーダーシップは大きく4つの類型に分類されます。
第一に「軍師型」は、明確な目標とゴールを示し、論理的な戦略立案によって人を動かすタイプです。組織の方向性を明確に示し、効率的な実行を促進します。
第二に「ビジョナリー」は、魅力的な未来像を描き、感情的な共感を通じて人々を巻き込むタイプです。組織に変革のエネルギーをもたらし、イノベーションを促進します。
第三に「堅実派」は、着実なプロセスと仕組みづくりによって組織を動かすタイプです。安定的な成長と持続可能な変革を実現します。
第四に「率先垂範型」は、自ら行動で示し、現場での実践を通じて組織を引っ張るタイプです。具体的な変革の道筋を示し、組織の信頼を獲得します。

パラダイムシフター育成の4要素

 パラダイムシフターの育成には、4つの重要な要素が必要です。
 第一の「常識を疑う力」は、既存の前提や慣習に疑問を投げかけ、新しい視点を見出す能力です。この力を養うためには、意図的に異なる視点からの分析や、批判的思考のトレーニングが効果的です。
 第二の「フィールドワーク重視」は、実際の現場で課題を発見し、解決策を見出す実践的なアプローチです。机上の理論だけでなく、現実の状況に即した判断力を養います。
 第三の「ビジネスモデル思考」は、新しい価値創造の方法を構想し、実現する能力です。既存の枠組みにとらわれない、創造的な思考力を育成します。
 第四の「越境的な経験」は、異なる業界や文化との交流を通じて、多様な視点と知見を獲得することです。これにより、イノベーションの種を見出す力を養います。

組織変革のための要素

 組織全体としての変革を推進するためには、いくつかの重要な要素があります。
 まず、チャレンジを積極的に評価する文化の醸成です。失敗を恐れずに新しいことに挑戦できる環境作りが、イノベーションの基盤となります。次に、多様な人材の活用と育成です。異なる背景や専門性を持つ人材を組み合わせることで、新しい価値創造の可能性が広がります。また、継続的な学習と成長の機会提供も重要です。組織全体の知識と能力を高め、変革への対応力を強化します。さらに、変革の成功事例を共有し、組織全体の変革マインドを高めることも効果的です。

具体的な育成プログラムの展開

 企業内でのパラダイムシフター育成には、体系的なプログラムの実施が効果的です。例えば、常識を疑う力を養うためのクリティカルシンキング・ワークショップ、実地でのフィールドワーク、新規ビジネスモデル構築の演習、異業種交流会への参加などが含まれます。これらのプログラムを通じて、参加者は実践的な変革力を身につけることができます。
 また、プログラムの成果を組織内で共有し、学びを横展開することで、組織全体の変革力を高めることができます。さらに、育成された人材を中核として、新規事業開発や組織変革のプロジェクトを推進することで、実践的な成果につなげることができます。

今後の展望

 不確実性の高い現代において、パラダイムシフトを起こせる人材の育成は、企業の持続的な成長にとって不可欠な要素となっています。そのためには、個々のリーダーの育成だけでなく、組織全体としての変革力を高めていく必要があります。具体的には、チャレンジを推奨する文化の醸成、多様な人材の活用、継続的な学習機会の提供、成功事例の共有などが重要です。
 また、これらの取り組みを通じて、組織全体のイノベーション力を高め、持続的な競争優位を築いていくことが求められます。今後も、環境の変化に応じて育成プログラムを進化させ、より効果的な人材育成と組織変革を実現していく必要があります。

人事の立場から考えること

 従来の採用基準や選考プロセスでは、パラダイムシフトを起こせる人材の発掘が困難になっています。新しい採用戦略では、学歴や職歴といった従来の指標に加えて、チャレンジ精神、創造性、変革への意欲などを評価する必要があります。具体的には、ケーススタディやプロジェクト型の選考を導入し、候補者の思考プロセスや問題解決能力を深く評価することが重要です。また、多様なバックグラウンドを持つ人材を積極的に採用することで、組織に新しい視点と発想をもたらすことができます。中途採用においては、異業種での成功体験や変革の実績を持つ人材を戦略的に獲得することも効果的です。

育成・研修システムの抜本的改革

 パラダイムシフターの育成には、従来の階層別研修や知識伝達型の研修では不十分です。新しい育成システムでは、実践的な経験と越境的な学習機会を重視する必要があります。
 例えば、他社や他業界との交流プログラム、実際の事業課題に取り組むプロジェクト型研修、失敗から学ぶ機会を意図的に設計した育成プログラムなどが有効です。特に重要なのは、座学だけでなく、実際の事業変革に関わる経験を通じた学習機会の提供です。また、外部の知見や最新のトレンドを積極的に取り入れ、常に研修内容をアップデートしていく必要があります。

革新的な評価・報酬制度の確立

 変革を推進する人材を適切に評価し、動機づけるためには、従来の業績評価の枠組みを超えた新しい制度が必要です。短期的な成果だけでなく、チャレンジの質や組織変革への貢献度を評価する基準を設定し、中長期的な視点での評価を行うことが重要です。
 また、イノベーション創出に対する特別なインセンティブ制度を設計し、変革への取り組みを促進することも効果的です。失敗を恐れずにチャレンジできる環境を作るため、失敗から得られた学びや組織への示唆も積極的に評価する仕組みが必要です。

戦略的キャリア開発の推進

 パラダイムシフターの育成には、多様な経験を通じた成長機会の提供が不可欠です。部門を越えた異動や新規事業立ち上げへの参画機会を戦略的に創出し、幅広い視点と実践的なスキルを養成します。また、専門性の深化と越境的な経験のバランスを考慮したキャリアパスを設計し、個人の成長と組織のニーズを両立させることが重要です。さらに、社外での経験機会(副業・兼業など)も積極的に活用し、新しい視点や知見の獲得を促進します。

変革を促進する組織風土の醸成

 パラダイムシフトを実現するには、組織全体の文化や風土の変革も必要です。チャレンジを称賛し、失敗から学ぶ姿勢を評価する文化を築くとともに、部門間の壁を低くし、自由なコミュニケーションと協働を促進する環境を整備します。また、変革の成功事例を積極的に共有し、組織全体の変革マインドを高めていくことも重要です。経営層からの明確なメッセージと支援も、風土改革の重要な要素となります。

効果的な推進体制の構築

 パラダイムシフター育成の取り組みを効果的に推進するには、強力な推進体制が必要です。人事部門がリーダーシップを発揮しつつ、事業部門と密接に連携し、現場のニーズと育成施策をマッチさせていくことが重要です。また、経営層の強力なコミットメントを獲得し、必要な投資と支援を確保することも不可欠です。変革推進のための専門チームを設置し、継続的な取り組みを支援する体制も検討に値します。

施策の効果検証と継続的改善

 パラダイムシフター育成の取り組みの効果を適切に測定し、継続的に改善していく仕組みが必要です。具体的な効果測定指標を設定し、定期的なモニタリングと評価を行うとともに、受講者からのフィードバックを丁寧に収集・分析します。また、外部環境の変化や組織のニーズの変化に応じて、柔軟にプログラムを進化させていく姿勢も重要です。

 このように、従来の人事施策の枠組みにとらわれず、新しい発想で人材育成と組織開発に取り組むとともに、これらの取り組みを継続的に発展させていく仕組みづくりが求められています。また、これらの取り組みを通じて、組織全体の変革力を高め、持続的な競争優位の源泉としていくことが、人事部門の重要な使命となっているように思います。

「パラダイムシフトを牽引するリーダー育成」をテーマに、混沌から明確な方向性を示すリーダーの姿です。左側では不確実性の象徴として抽象的な形状や線を用い、右側では光の道筋と多様なチームメンバーが協力する明るい場面が、成長と変革の可能性を強調しています。柔らかな色合いが希望と調和を視覚的に伝えています。







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