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【書籍】富士通CHROの挑戦:成果主義の失敗を乗り越えた人事改革から学ぶことー日記ビジネス記事

 日経ビジネス2024/9/6の記事に、「富士通CHRO、耐え忍んだ「成果主義の失敗」 執念の人事改革」が出ていました。

 この記事では、富士通の現CHRO(最高人事責任者)である平松浩樹氏が、かつて富士通で導入した「成果主義」の失敗から得た教訓をもとに、長年温めてきた人事改革を遂行している姿を描いています。

 平松氏は、成果主義によって富士通が経験した混乱や失敗を乗り越え、ジョブ型人事制度を導入することで、富士通の組織全体の改革を推し進めています。

富士通HPより(2024/9/6現在)

 当時大学生であった私は、ニュースで、1990年代の富士通の成果主義のスタート~失敗を目の当たりにしました。その後、人事としてのキャリアをスタートし、今に至っています。改めて振り返り、考察もしてみたいと思います。

1. 成果主義の導入とその失敗、影響の広がり

 1993年、富士通はバブル崩壊後の経済環境に対応するため、成果主義を導入しました。これは、意欲のある社員を評価し、努力に報いるという目的で導入されたものでしたが、年功序列的な要素が根強く残ったことから、制度としてうまく機能せず、逆に社員たちの間に不満と混乱を広げる結果となってしまいました。

 成果主義の導入には大きな期待が寄せられていましたが、その結果として生じたのは、組織内のモチベーション低下や不公平感でした。特に、現場の社員からは「努力が正当に評価されていない」といった怨嗟の声が上がり、人事部門への信頼も大きく損なわれました。2003年3月期には、2期連続で最終赤字を計上し、富士通は経営的にも厳しい局面に立たされました。

 この一連の失敗により、成果主義は行き詰まり、人事部門は「低迷の元凶」と見なされ、富士通内での人事部の存在意義は揺らぎ、社内で肩身の狭い状況が続くことになったのです。この影響は、単に経営指標や収益にとどまらず、組織全体の文化や社員の働き方にも深刻な悪影響を及ぼしました。

2. 平松氏の人事改革への挑戦と長年の悲願

 そのような中で、平松氏は、一貫して人事部門に携わり続けてきました。彼の思いは、「先輩たちが描いた理想は決して間違っていない」という信念に支えられており、いつか自らが人事制度を改革し、先輩たちの無念を晴らす日が来ることを信じていました。彼の悲願は、「社員一人ひとりが自らの意思でキャリアを切り開き、挑戦する場を提供すること」、そして「そのような社員を適切に評価し、成長を支える人事制度を作ること」でした。

 そのための鍵として、平松氏が注目したのがジョブ型人事制度でした。しかし、ジョブ型の人事制度を学ぼうと外資系企業を訪れた際、担当者から「日系企業では無理だ。社員が自立していないから」と厳しく突き放される経験をしました。この言葉は平松氏にとって非常に衝撃的であり、同時に深い悩みを抱えるきっかけにもなりました。

 なぜ自立していないと見られるのか、富士通には多くの優秀な人材がいるにもかかわらず、なぜそう評価されるのかという問いが、彼の中で長く燻ることになります。そして彼がたどり着いた結論は、「人事部は社員を信頼せず、統制しようとしすぎていた。それが社員の自立を阻んできた」というものでした。平松氏は、これを大きな転機と捉え、今後の改革の方向性を明確にしました。

3. ジョブ型人事制度の導入と社員の自立支援

 平松氏は、社員を信頼し、その自立を後押しするための新たな人事制度を構築する決意を固めました。ジョブ型人事制度は、職務を明確にし、社員が自らのスキルを磨きながらキャリアを築くための制度です。この制度の導入によって、誰もが公平に挑戦できる環境を提供することが可能となり、社員の成長を促進するとともに、組織全体の活力を高める効果が期待されました。

 さらに、平松氏は、社員が希望するポジションに応募できる「ポスティング制度」や、社内で副業ができる「社内副業制度」など、社員の多様な働き方を支援するための施策も積極的に導入しました。これにより、社内の人材の流動性が高まりつつあり、実際に組織の中で多くの社員がキャリアを自己主導的に切り開くようになっています。

 2026年度には、富士通は新卒採用にもジョブ型制度を導入する計画を進めており、富士通全体での人事改革の波はさらに広がっています。この改革は、社員が単に「指示を受ける存在」から「自らのキャリアを選び、成長を目指す主体」へと変わることを目指しており、その意味で、富士通の人事制度は大きな転換点を迎えているといえます。

4. 人事部の存在意義と変革の重要性

 平松氏の改革は、単なる人事制度の変更にとどまらず、富士通全体にとっても組織文化や社員の働き方に大きな影響を与えるものでした。彼が目指したのは、社員を統制するのではなく、信頼し、その成長をサポートすることでした。このような考え方は、これまでの日本企業の人事部門の役割を根本から見直すものであり、人事部が単なる「コストセンター」として存在するのではなく、社員一人ひとりの「人的資本」を最大限に活用するためのパートナーとなることを求めています。

 しかし、改革にはリスクも伴います。企業の人事部が変わるということは、企業全体の組織構造や働き方に影響を与えるため、慎重な対応が求められます。一歩間違えれば、会社全体が機能不全に陥る可能性もあり、その責任はすべて人事部に降りかかることもあります。だからこそ、平松氏のような強い執念と覚悟を持ったリーダーが必要となります。彼のように、過去の失敗から学びつつも、社員の未来を見据えた大胆な変革を推進する姿勢が、これからの日本企業の人事部に求められているのでしょう。

5. 日本の人事部の将来

 現在、日本企業の多くは、人材不足や働き方改革の波を受けて、人事部門の役割を見直す局面に立たされています。これまでの「統制型」から「支援型」への転換が求められており、平松氏の取り組みはその先駆けとなるものでしょう。今後も、多くの企業が平松氏のようなリーダーシップを持った人事リーダーを中心に、変革を進めていくことが期待されます。

 人事部が単なる管理部門ではなく、社員と共に未来を築くパートナーとなるためには、平松氏のような強いビジョンと実行力が不可欠です。富士通の取り組みは、その成功例として今後の日本企業の人事改革に大きな影響を与えることでしょう。私自身も長く人事に従事してきた一人として、感慨深いものがありますし、これからどうしていくのか、ということに対する一つの解を与えてくれる記事でありました。

成果主義の人事制度によるプレッシャーを感じるオフィスの様子です。社員たちはそれぞれ、真剣な表情でパソコンに向かい、一部の社員はストレスを感じた様子が見られます。上司がパフォーマンスチャートを指しながら高い期待を伝える場面や、背景にはKPIや売上目標が表示され、結果重視の緊張感が漂う雰囲気です。オフィス全体が競争的かつ高パフォーマンスを求められる環境を反映しています。


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