人事における挑戦と革新ー「これまで思考」から「これから思考」への移行

　「これまで思考」と「これから思考」の概念は、人事領域においても非常に重要であり、組織の持続的な成長と適応力を支える基盤となります。私がこれまで、長年にわたり様々な人事業務を経験してきた観点から、「これまで思考」に固執してしまうことのリスクと、「これから思考」を重視することの必要性をより深く掘り下げ、具体的なアプローチを考察したいと思います。

参考記事：

「これまで思考」と「これから思考」目標を達成するにはどちらが重要か | 戦略｜DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

これまで思考

　「これまで思考」とは、これまでの経験や成功体験に基づいて物事を考える方法を指します。この思考法には一見して利点があるように感じられるかもしれません。過去の成功例や既存の知識を活用することで、既存の仕組みを維持し、効率的に業務を遂行できるように見えます。

　しかし、この「これまで思考」に固執することには大きな落とし穴が潜んでいます。特に人事領域においては、ビジネス環境や社会の変化、そして次世代の価値観が急速に変化しているため、過去の成功体験に依存することは、新しい状況に対応できなくなる危険性を伴います。
　例えば、採用活動において従来の手法や基準をそのまま適用し続けると、多様化する働き方や新しい働き手のニーズに対応できないことがしばしばあります。
　今日では、リモートワークやハイブリッドワークといった新たな働き方が広まりつつありますが、これまでの手法に固執していると、それに対応する柔軟な採用基準や評価制度が欠如し、結果的に優秀な人材を取りこぼす可能性が高まります。

　また、「これまで思考」に陥ると、過去の失敗に対する恐れが新たな挑戦を阻む要因となります。確かに、失敗から学ぶことは重要ですが、その失敗を過度に恐れてリスクを取らない姿勢を取ることは、組織全体の成長を著しく妨げてしまいます。特に、人事部門は組織内で失敗を学びの機会として捉え、それをポジティブな組織文化として根付かせる役割を担うべきでしょう。失敗を恐れるあまり、新しい制度やアプローチの導入に消極的になると、組織は次第に停滞し、競争力を失う可能性があるのです。

　さらに、長年同じ業務を続けていると、自己満足に陥りやすくなり、変化に対する感度が鈍くなるリスクもあります。しかし、労働市場の変化や技術革新、法規制の変更など、環境は常に変化し続けており、人事領域にも新たな課題が次々と提起されています。こうした変化に適応できないままでいると、組織としての競争力が徐々に低下してしまうのです。

これから思考

　一方で、「これから思考」を重視することには非常に大きなメリットがあります。「これから思考」とは、未来に目を向け、今後どのような変化が起こるかを予測し、それに対応するための行動を取る思考法です。特に人事部門においては、組織の未来像を描き、その未来を実現するためにどのような人材が必要か、そしてどのような組織文化が育成されるべきかを考えることが非常に重要です。
　人事戦略は単に目の前の問題を解決するだけではなく、将来的なビジョンに基づいて計画を立て、長期的な組織の発展を見据えたアプローチが求められます。これには、変化する労働市場や社会のニーズに対応するために、柔軟でクリエイティブな思考が不可欠です。

　例えば、リモートワークの導入やフレックスタイム制度の実施、多様性を重視した採用基準の見直しといった施策は、時代のニーズに応じた「これから思考」の具体例です。これらの新しい働き方を積極的に取り入れることで、組織は従業員の満足度を向上させるだけでなく、競争力を維持し、優秀な人材を引き寄せることができます。
　また、評価や報酬システムにおいても、「これまで思考」に囚われず、時代の変化に応じて柔軟に改善していくことが重要です。たとえば、SMART（Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound）な目標設定を行い、それに基づいた逆算思考で具体的なアクションプランを策定することで、従業員一人ひとりが目標に向かって着実に進むことができます。これにより、組織全体で効果的な人材育成計画や評価制度が構築され、持続可能な成長が可能となります。

「これから思考」を実践するにあたり

　「これから思考」を実践するためのいくつかのヒントも考察してみます。まず、人事業務において大量のデータを活用することで、組織や従業員のニーズに対してより深い洞察を得ることが可能です。人事データを分析することで、効果的な人材配置や育成のための具体的な方策を講じることができ、これにより組織の成長を後押しすることができます。

　また、革新的な思考や柔軟な働き方を促進する組織文化の醸成も、組織の長期的な成長には欠かせません。人事部門は、このような文化形成を支える施策の企画や実行を担う立場にあります。さらに、人事のプロフェッショナルとして、最新の人事トレンド、法規制の変動、労働市場の変化に対して常にアンテナを張り続けることが重要です。時代の変化に迅速に対応できるスキルと知識を磨き続けることで、組織の変化に対応することができます。

　加えて、組織内での知識共有や学びの文化を推進することも重要です。研修や教育プログラムの充実を図り、従業員のスキルや知識を向上させることで、未来に向けた組織の成長を支援することが可能です。特に人事部門は、こうした教育施策を推進し、全体の人材育成戦略と連携させていく役割を担っています。

まとめ

　「これまで思考」と「これから思考」のバランスをうまく保ちながら、常に進化し続ける労働市場や社会のニーズに応えることが、人事領域におけるプロフェッショナルとしての使命といえるでしょう。過去の経験を大切にしながらも、未来を見据えた柔軟な思考と行動力を持つことが、組織の持続的な成長と発展につながっていきます。
　人事部門は、この重要な役割を担い、「これから思考」を実践することで、組織と個人の可能性を最大限に引き出し、変革をリードする存在となることが期待されているように感じます。

人事領域における「これまで思考」から「これから思考」へのシフトを視覚的に表現しています。左側の暗く乱雑なオフィス空間は、過去の方法への固執と変化への抵抗を象徴しています。これが右側に向かって、明るく現代的なオフィス環境に徐々に変わっていきます。この新しい空間は、新しいアイデア、多様性、職場の柔軟性に対する開放性を象徴しており、人事管理における伝統的で硬直的な構造から、革新的で適応性のあるアプローチへの移行を視覚的に伝えています。画風は柔らかく、未来思考への肯定的なシフトを強調しています。