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女性活躍の推進ー企業のイノベーションと生産性向上のために

 企業における女性活躍推進は、単に社会的な要求に応えるだけではなく、企業成長のための戦略的取り組みとして重要視されています。近年、政府や社会全体で女性の活躍推進が叫ばれる中、企業もその流れに乗り遅れまいと、様々な施策を打ち出しています。

 特に、女性版骨太の方針2023が示すように、女性役員比率を2030年までに30%以上にする目標は、日本企業における性別多様性の必要性を浮き彫りにしています。この目標は、単に数値を達成すればよいというものではなく、企業文化や働き方そのものを変革していく必要があります。

 しかし、この目標に向けた推進は多くの課題を伴います。長年にわたって根付いてきた男性中心の企業文化や固定観念を変えていくのは容易なことではありません。また、女性自身のキャリア意識の向上や、仕事と家庭の両立支援など、多方面からのアプローチが求められます。ここでは、女性活躍推進の意義と、それを実現するための人事担当者の役割について考察してみます。


女性活躍推進の目的と意義

 女性活躍推進は、組織の多様性と包摂性を高めることで、イノベーションの促進、人材不足への対応、企業イメージの向上、従業員エンゲージメントの向上といった多面的なメリットを企業にもたらします。多様な視点や価値観を取り入れることで、これまでにない発想やアイデアが生まれ、新たな市場開拓や商品開発につながる可能性があります。また、優秀な女性人材を獲得・定着させることで、人材不足の解消や生産性の向上が期待できます。

 加えて、女性活躍推進に積極的に取り組む企業は、社会的評価や企業イメージの向上につながり、投資家や消費者からの支持を得られやすくなります。さらに、性別にかかわらず、全ての従業員がその能力を十分に発揮できる環境を整えることで、従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上、離職率の低下などの効果も期待できます。特に日本のようにジェンダーギャップが大きい国では、まず女性の活用から始めることが多様性の施策の第一歩となります。

社員の反発や不満の解消

 しかし、女性活躍推進の実現には、社員の反発や不満といった障壁が立ちはだかります。「男だから」「女だから」という固定観念や能力・経験不足への不安、業務負担の増加など、女性活躍推進に対する反発や不満は多岐にわたります。男性社員からは、「女性ばかり優遇されている」「逆差別だ」といった声が上がることもあります。一方、女性社員からは、「単なるポーズで終わるのでは」「仕事と家庭の両立が難しい」といった不安の声も聞かれます。

 これらを解消するためには、トップのコミットメントの示示、アンコンシャスバイアスの解消、具体的な数値に基づいた説得と施策、双方向のコミュニケーションの重要性が指摘されています。トップ自らが女性活躍推進の意義を語り、行動で示すことが何より重要です。また、無意識の偏見や先入観を取り除くための研修や啓発活動も欠かせません。数値目標を設定し、その達成に向けた具体的な施策を示すことで、社員の理解と協力を得ることができます。さらに、社員との対話を重ね、現場の声に耳を傾けながら、施策を柔軟に見直していくことが求められます。

人事担当者の役割

 女性活躍推進を実現するためには、人事担当者の役割が非常に重要です。人事担当者は、女性活躍推進を成功させるために、経営層への理解促進、施策の企画・実行、職場環境の整備などの役割を担います。まず、経営層に女性活躍推進の必要性と意義を理解してもらい、トップのコミットメントを引き出すことが求められます。そのためには、自社の現状を数値やデータで示し、女性活躍推進がもたらすメリットを明確に伝える必要があります。

 次に、女性活躍推進の具体的な施策を企画し、実行に移していくことが重要です。特に、評価や管理職登用要件の改革、長時間労働の是正、柔軟な働き方の推進が重要なポイントです。女性が能力を発揮し、キャリアを築いていけるよう、公平な評価制度や登用基準を整備する必要があります。

 また、長時間労働を前提とした働き方を見直し、テレワークやフレックスタイムなどの柔軟な働き方を推進することで、仕事と家庭の両立を支援することが求められます。さらに、女性活躍推進を実現するには、職場の環境整備も欠かせません。ハラスメントの防止、育児・介護休業制度の拡充、社内の託児施設の設置など、女性が安心して働ける環境を整えることが人事担当者の重要な役割です。

施策の実例

 女性活躍推進の施策は多岐にわたりますが、大きく分けると、女性への施策、会社全体の施策、多様な働き方の推進、男性の家庭参画の促進、周囲の人への支援などが挙げられます。

女性への施策
女性のキャリア意識を高め、リーダーシップを発揮できるよう、リーダー研修や能力開発の機会を提供することが重要です。また、ロールモデルとなる先輩女性社員とのコミュニティを形成したり、メンターやスポンサーを提供したりすることで、女性社員のモチベーションを高めることができます。

会社全体の施策
管理職を中心に、ダイバーシティや無意識の偏見についての研修を実施し、女性活躍推進への理解と協力を促すことが重要です。また、管理職登用の際に、女性だけの登用リストを作成したり、管理職要件を見直したりすることで、女性登用の機会を増やすことができます。

多様な働き方の推進
テレワークやフレックスタイムの適用範囲を拡大し、全ての従業員が柔軟な働き方を選択できるようにすることが重要です。特に、育児や介護との両立が必要な社員への支援を強化することが求められます。

男性の家庭参画の促進
女性活躍推進は、男性の働き方改革とも密接に関わっています。男性の育児休暇の取得を促進し、男性も家庭責任を担うことができるような環境を整備することが重要です。

周囲の人への支援
育児休暇や時短勤務などの両立支援制度を利用する人の周囲への支援を強化することが重要です。制度を利用する人をサポートする体制を整え、周囲の理解と協力を得ることが求められます。

 これらの施策は、性別にかかわらず全ての従業員が能力を最大限に発揮できる環境を整えることを目指しています。また、組織全体としてのダイバーシティと包摂性の向上を促進するためにも、多角的な取り組みが求められます。

 女性活躍推進は単なる社会的責任を超え、企業の持続可能性と成長に不可欠な戦略的要素であると言えます。多様な人材が活躍できる組織は、変化の激しい時代を乗り越えていく力を持っています。しかし、そのためには、トップのコミットメントと、現場の理解と協力が不可欠です。

 人事としても、この変革を推進するために中心的な役割を果たし、企業文化の変革をリードする必要があります。女性活躍推進は、一朝一夕では実現できません。しかし、着実に一歩一歩前進していくことで、多様性を尊重し、全ての人が輝ける社会を実現することができるでしょう。


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