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人事視点で考えるOTセキュリティ対策と従業員教育

 Aoba-BBTの番組「ITライブ#314」を拝聴しました。今回は、産業分野におけるOT(オペレーショナルテクノロジー)セキュリティの重要性が、江崎浩教授と佐々木弘志氏によって議論されています。

 IOTやAIなどの先端技術の導入が進む中で、工場やプラントの制御システムにおいては自動化が進展し、データ駆動型の運用や遠隔監視の普及が加速しています。この変化により、従来の人手を中心とした管理方法から脱却し、サイバーリスクに対応した新たな管理手法が求められるようになってきています。私自身も製造業の経験が長く、社会人となった頃と比較すると考えられない状況になっています。

 技術的な話も然ることながら、人事視点でも、教育など考えられなければならない視点は数多くあります。その点からも考察してみたいと思います。

 江崎氏は、これまでの工場管理はオンライン化されておらず、人手に頼った安全対策が可能でしたが、AIやロボットの導入、データの活用が進む現代では、サイバー攻撃のリスクが避けられないと指摘しています。特に、ネットワークに接続されたシステムやIOT機器が増加することで、ハッキングや不正アクセスのリスクが高まっている現状が挙げられています。過去には、中東の核施設がサイバー攻撃を受けた事例があり、これが企業や国にとって深刻な脅威であるとされています。自動車や電子機器などの産業も、サプライチェーンの中で多くの企業がグローバルに連携する中で、サイバー攻撃への対策が必要不可欠となっています。

 佐々木氏は、フォーティネットジャパンでのサイバーセキュリティビジネスを通じて、従来のファイアウォールだけでは対処しきれないサイバー攻撃が増加していると説明しています。ファイアウォールをすり抜けてくる攻撃や、内部の機器に直接押し込まれる脅威に対して、これまでの防御手段では限界があることを強調しています。工場やプラントの現場では、ファイアウォールを導入しているから安全だと考える方が多いですが、これは一部の安全性しか確保していないと指摘されています。また、サプライチェーンのプレイヤー同士が密接に繋がることで、一企業のセキュリティ体制が不十分であれば、それが全体に影響を及ぼすというリスクが顕著になっているとのことです。

 さらに、政府のガイドラインや「能動的サイバー防御」といった政策の動向も取り上げられています。例えば、経済産業省はサイバーセキュリティガイドラインを発表し、重要インフラの安全性を確保するための基準を設定しています。また、日本独自の「能動的サイバー防御」では、従来の受動的な防御とは異なり、脅威を先取りしてプロアクティブに対応することが求められています。これは、サイバー空間を監視し、攻撃や不審な動きを察知した段階で反撃や無力化を行うといった攻撃的な防御策を含んでいます。

 これらの動向を踏まえると、今後のサイバーセキュリティ対応においては、企業全体がセキュリティバイデザイン(設計段階からのセキュリティ対策導入)を取り入れるとともに、企業や工場全体が一体となってセキュリティに取り組む必要性が一層強まっています。単なるファイアウォールによる防御ではなく、企業のあらゆる部門が一体となってリスクを認識し、組織全体で横断的に対応することが求められています。サプライチェーンの各プレイヤーが適切なセキュリティ対策を講じていない場合、その脆弱性が他の企業にも波及する恐れがあるため、各企業が自らのリスクに対して責任を持ち、他社と連携しながら包括的な防御体制を構築することが不可欠です。

 最後に、サイバー攻撃に対する対応は、単なる技術的な課題に留まらず、企業のリスク管理や経営戦略にも深く関わる課題であることが強調されています。サイバー空間と物理空間の双方をカバーする「サイバーフィジカルセキュリティ」が求められ、サイバーリスクへの対応は、経営層の理解と支援が不可欠であり、組織全体の協力が必要とされています。

人事視点からも重要である

 OTセキュリティの強化やサイバーセキュリティ対策の重要性が高まる中で、技術的な視点だけでなく、人事部門においてもこれまで以上に多角的な視点で役割を果たすことが求められています。現在、多くの企業がAIやIoTなどの先端技術を導入し、製造工程や工場設備の運用を最適化しようとしています。しかし、これらの技術導入に伴い、サイバーリスクの可能性が増大し、それに備えるための体制づくりが不可欠です。

1. セキュリティ意識の向上と従業員教育の強化

 企業全体のサイバーセキュリティ対策を成功させるには、全従業員がリスクを理解し、セキュリティ意識を高めることが重要です。サイバー攻撃は、しばしば従業員のミスや意識不足が原因で発生することが多いため、リスクを理解し適切に対応できる教育が不可欠です。そのため、人事部門としてもは、サイバーセキュリティに関する基本的な知識や具体的な対応方法を従業員に浸透させるための継続的な教育プログラムを導入する必要があります。たとえば、以下のような取り組みが考えられます。

  • セキュリティの基本知識に関する研修
     従業員に対して、サイバー攻撃の種類やリスクの影響、そしてその防御方法について基礎から学べる機会を提供します。基礎知識を知ることによって、なぜ日常の業務において注意が必要かを理解することができます。

  • 実践的なシミュレーショントレーニング
     実際のサイバー攻撃を想定したシナリオを用いて、従業員が迅速かつ適切に対応できるスキルを身につけるトレーニングを行います。たとえば、フィッシング詐欺メールへの対策として、偽メールを送信して社員の対応をチェックするなどの訓練も効果的です。

  • 定期的な啓発活動
     セキュリティ意識が一過性のものにならないよう、定期的なメールやポスターによる啓発、社内イベントなどを通じて、セキュリティの重要性を従業員に再認識させる活動を行います。従業員がリスクを忘れないよう定期的に意識を高める取り組みが重要です。

2. セキュリティ担当者のスキル開発とキャリアパスの整備

 サイバーセキュリティは日々高度化・多様化しており、専門知識を持つセキュリティ担当者が必要とされます。人事部門は、専門的な技術と実践力を備えた人材の育成を目指し、以下のようなサポート体制を整えることが望まれます。

  • 専門資格取得の支援
     情報処理安全確保支援士やCISSP(Certified Information Systems Security Professional)など、サイバーセキュリティ分野での専門資格の取得を支援します。資格取得支援や試験費用の補助、資格保有者に対する報奨金などを導入することで、担当者のスキル向上を促します。

  • 研修や外部セミナーへの参加
     最新のサイバーセキュリティ技術やトレンドを学べる外部研修やセミナーへの参加を促し、担当者の知識と技術をアップデートします。また、他企業のセキュリティ担当者とのネットワーキングの機会を設けることで、情報交換と実践的な知見の共有を図ります。

  • 明確なキャリアパスの整備
     セキュリティ担当者が自己成長を実感し、意欲的にスキルを向上させられるよう、キャリアパスを明確に設定します。昇進やキャリアの階段を示すことで、セキュリティ業務の重要性を認識させ、長期的な貢献を期待できる環境を整備します。

3. 組織内のセキュリティカルチャーの構築

 サイバーセキュリティの対策を実効性のあるものにするためには、全従業員がリスクを認識し、自らの業務がセキュリティに影響を与える可能性があることを理解する必要があります。セキュリティを企業文化として根付かせるため、例えば、以下のような施策を検討することが重要でしょう。

  • セキュリティ意識の高い職場環境の構築
     経営層から一般社員に至るまで、サイバーセキュリティを企業全体の責務と位置づけ、従業員全体に共通の意識として浸透させることが大切です。セキュリティに関連する会議やイベントを定期的に開催し、経営陣の意識を共有することで、組織全体のセキュリティ意識を高めます。

  • インセンティブ制度の導入
     セキュリティ対策に貢献した従業員やチームに対して表彰や報奨金を提供する制度を導入することで、従業員が積極的にセキュリティ意識を持つよう促します。小さな貢献も評価されることで、従業員の参加意識を向上させ、セキュリティへの関心を高めます。

  • セキュリティリーダーの配置
     各部門にセキュリティ担当者を配置し、情報の伝達やセキュリティ対策の実施状況を確認する役割を担わせます。これにより、組織全体でのリスク意識が高まり、セキュリティ課題が迅速に共有されます。

4. リモートワークにおけるセキュリティ管理の推進

 リモートワークの普及により、従来の社内ネットワークによるセキュリティ管理だけでは不十分な状況が発生しています。家庭のWi-Fiを利用した業務は、企業ネットワークに比べてセキュリティが脆弱であり、特に機密情報の扱いには慎重な対策が必要です。人事部門はIT部門とも連携し、以下のような施策を講じることが求められます。

  • リモートワーク向けセキュリティポリシーの策定
     リモート環境での業務に適したセキュリティポリシーを策定し、家庭でのセキュリティ対策を徹底するよう従業員に教育を行います。具体的には、ネットワークセキュリティ、デバイス管理、ソフトウェア更新の徹底などが含まれます。

  • VPNや多要素認証の導入
     
    IT部門と連携して、リモート環境でもセキュリティが確保されるよう、VPNや多要素認証の使用を徹底させます。これにより、不正アクセスのリスクを低減し、リモートワーク中でも安全に業務が遂行できる環境を提供します。

  • 従業員へのツール使用の指導
     リモートワーク中でもセキュリティツールを適切に活用するため、従業員に対してツールの使い方やその重要性について指導を行います。日常的にセキュリティツールを使用し、適切な操作ができるようなフォロー体制が重要です。

5. インシデント対応体制の構築と定期的な訓練

 サイバーセキュリティインシデントが発生した場合に迅速かつ適切に対応するため、インシデント対応体制を整備し、従業員に周知することも人事部門の重要な役割です。万一の際には、社内の全員が何をすべきか明確に理解していることで、被害を最小限に抑えることが可能となります。

  • インシデント対応フローの整備
     インシデントが発生した際の報告ルートや対応手順を明確にし、従業員が混乱せずに対処できるようにします。具体的なフロー図や連絡先一覧などを用意しておくことが効果的です。

  • インシデント対応訓練の実施
     
    年に数回、実際のインシデントを想定した対応訓練を実施し、従業員が迅速かつ冷静に対応できるスキルを身につける機会を提供します。訓練は現実に即したシナリオで行うことで、実践力を高めることが可能です。

  • ポリシーと手順の継続的な見直し
     セキュリティリスクは日々変化するため、インシデント対応ポリシーや手順も定期的に見直し、最新のリスクに対応できるよう改善します。これにより、対応力を維持し、常に最適な対策が取れるようにします。

6. 従業員のメンタルヘルスと負担軽減の配慮

 あまり表だった議論にはならないのですが、セキュリティ対策の強化により従業員の負担が増えると、業務へのモチベーションやメンタルヘルスへの影響が懸念されます。従業員が安全対策を理解しながらも無理なく業務を遂行できるよう、柔軟なサポート体制の構築を検討します。
 例えば、業務に負担がかかりすぎないよう、セキュリティ研修を業務に合わせて柔軟に調整したり、IT部門と連携して相談窓口を設け、従業員が気軽に質問や相談できる体制を整備することが考えられます。

 このように人事部門においても、サイバーセキュリティ強化のための重要な役割が数多くあります。従業員がリスクを理解し、必要な知識とスキルを身につけることで、企業全体の安全性が向上します。また、従業員が安心して働ける環境を整えつつ、企業としての防御体制を強化するために、人事とIT部門、経営層が連携して対応することが不可欠といえるでしょう。

サイバーリスクが高まる工業現場でのOTセキュリティ強化がテーマとなっており、専門家たちがセキュリティ対策について議論しています。背景の自動化された工場設備やデジタル表示のセキュリティアイコンが、物理的な生産環境とサイバー空間の結びつきを表現しています。

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